中小企業こそ実践したい!

チームビルディングのイロハ

経営者がすべきは志の明確化
だが、そのやり方を間違えている

企業における人材の重要性に注目が集まっている。
「従業員にやる気がない」「人が育たない」「すぐに辞めてしまう」といった"人"に関する悩みを抱える経営者は多いだろう。企業の成長につながる理想的な組織をつくるにはどうすればよいのか、紹介していこう。

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この記事のポイント

  • 経営者が志を明文化することがチームビルディングの第一歩
  • 価値観が異なるとチームはまとまりづらい
  • 志は一朝一夕には浸透しない! 繰り返しが肝心

日本における全企業数の99%を占める中小企業のうち、従業員数29人までの事業所は全体の9割を超える(図A)。こうした企業経営者が抱える悩みの多くは、人材に関するものだ。「従業員がすぐ辞めてしまう」「採用したが育たない」といった悩みだけでなく、空前ともされる人手不足から採用自体がままならず、不足した人数のまま業務を遂行している企業も多い。人手不足解消の見通しが立たず、慢性的な経営課題となる可能性も高い。

図A:中小企業の従業者規模別に見る事業所比率

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出典:「2022年度版中小企業白書」
図Aを導き出した調査で、経営者が従業員の仕事に対する意欲を「とても意欲的である」から「とても消極的である」の5段階で回答。
図Aで類型化された知識・スキルを備える経営者ごとに「とても意欲的である」と回答した割合を示した

そんな悩みを解消し、中小企業の弱みを強みに変える手法が「チームビルディング」だ。チームビルディングとは全員が1つのゴールを目指し、個々の能力を最大限に発揮しながらお互いの弱い部分を補完し合い、大きな成果を生み出すこと。本連載の監修者であり、「日本中の中小企業を元気にし、その社員と家族を幸せにする」を使命に、40年以上にわたって延べ3700社の中小企業を支援する税理士法人古田土会計の執行役員を務める松本毅氏はこう話す。

「中小企業の場合、人数が少ないからこそ一人ひとりの仕事への向き合い方が積み重なると、最終成果に大きく反映されます(図B)。中小企業ではチームビルディングの効果が発揮されやすいのです」

図B:チームビルディングの効果

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経営者・現場責任者・従業員2人の計4人の企業を想定すると・・・「少しくらいなら」と1人ずつが10%手を抜くと約40%のダウン!一人ひとりが10%余分に頑張ると約50%のアップ!

また、少人数であればあるほど、メンバー同士の"空気"は伝わりやすい。前向きな気持ちであれば成果にもつながるが、後ろ向きな気持ちが伝染すると職場の雰囲気も悪化する。

経営者の志の明文化が第一歩

では、チームビルディングを実践するには何から着手すればよいのか。それは「経営者が自らの志を明文化し、従業員に伝える」ことだ。「わざわざそんなことをしなくても、分かってくれているだろう」と思う経営者もいるだろうが、さにあらず。思いや考えは言葉にしないと伝わらない。

価値観が多様化し、世代間のギャップなどから「従業員が何を考えているのか分からない」と悩む経営者は少なくない。それは従業員にとっても同様で、松本氏の下には「経営者が何を考えているか、どこに向かっていきたいのか分からない」と嘆く従業員の声が多く届くという。
経営者の志を言葉や文字にすることで、企業が目指す方向性や働く目的が明らかになり、従業員に伝わりやすくなる。志の"見える化"は、経営者と従業員のコミュニケーション向上にもつながる。

価値観が異なるとまとまらない

さらに大きな効用は、志の明文化により同じ価値観を持つ人材が集まりやすくなるところだ。中小企業ではその規模感から、従業員同士の距離が近くなりがち。そのため誰と一緒に仕事をするかは重要事項となる。同じ志を持ち、仕事に対する価値観が近いメンバーと一緒だと、働きやすい職場環境を構築しやすくなる。

「価値観は人によって様々で、そこに良い悪いはありません。だからこそ同じ価値観を持つ人同士はまとまりやすい。逆に言えば、違う価値観の人同士はチームビルディングが難しい」(松本氏)

志を明文化する際、ありがちなのが「売上高◯億円を目指して、全社一丸となろう」というケース。売上高を目標にすること自体は悪くはない。だが、数字を示すだけでは単なる経営者の欲望と受け取られやすい。「売上高が上がると従業員にどんなメリットがあるのか、給与水準や仕事内容がどう変化するのか、明確に伝えることが重要です」と松本氏は語る。

モチベーションが上がる志の示し方

松本氏が提案するのが定義の転換だ。一般的に経営においては、「利益を出すことが目的で、人件費はコスト」と定義されがちなところを、「利益は手段で、目的は人件費を上げること」と転換してみよう。前者が会社の利益を上げるために自分たちが働かされる構図なのに対して、後者では利益を上げることで自分たちの給与水準の向上につながることが伝わりやすい構図になる。

このパラダイムの変化で、従業員のモチベーションが大きく変わってきます。給与面だけでなく、仕事に対する活力や将来への期待にもつながり、仕事に取り組む姿勢に大きく影響します」と松本氏。

明文化ができたら、次に重要なのは率先垂範と繰り返し。言いっぱなしはNGだ。経営者が先頭に立ち、自ら折に触れて行動で示さないと思いは伝わらない。

同じように重要なのが、何度も繰り返して伝えること。「一度や二度話をしただけで、経営者の志を浸透させるのは不可能です。1000回くらい繰り返す覚悟で、志や考えを伝え続け浸透させてください」と松本氏は念を押す。会社の規模によっては、明文化したものを教材として勉強会を開いたり、朝礼で用いたりするのも有効だ。

この取り組みを通して、経営者自身も志を言葉や文字にして自らの考えを整理でき、さらには「覚悟が決まった」と話す人も多いそうだ。図Cでは志を伝える3本柱の一例を挙げた。新しい年度の始まりに、まずは「使命感(ミッション)」「未来像(ビジョン)」そして「行動指針(バリュー)」の3つに絞って、書き出すことから始めてはいかがだろうか。

図C:経営者が掲げるべき志とその3本柱の一例

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1.使命感(ミッション)2.未来像(ビジョン)3.行動指針(バリュー)
監修

松本 毅

税理士法人古田土会計 執行役員

中央大学卒。政府系金融機関を経て2006年、古田土会計グループ入社。プロセス改革事業本部の最年少部長として、仕組み化・業務改善・社員教育に従事。蓄積したノウハウは、毎月自社・同業者向けに研修を実施し延べ750人以上が受講している。