中小企業こそ実践したい!
チームビルディングのイロハ
清少納言もプラトンも嘆いた
世代間ギャップ
「従業員にやる気がない」「人が育たない」「すぐに辞めてしまう」といった
"人"に関する悩みを抱えていませんか。
従業員のモチベーションをアップし、会社を成長させる理想の組織はどうすればつくれるのか、ご紹介します。
- チームビルディングのイロハ
- 世代間ギャップ
この記事のポイント
- いつの時代も世代間でギャップがあるのは当たり前
- 「仕事を通じて成長したい」という思いを大切にする
- ギャップがもたらす変化を生かして対話を生み出す
今回取り上げるのは「ギャップ」だ。人の意見や考え方は千差万別。「自分の常識は、他人(世間)にとっての非常識」などと言われるように、世代、性別、文化、地域など、ギャップはどこにでも存在する。ここでは組織によくありがちな世代間のギャップに注目していこう。
実は、世代間ギャップについて、平安時代の清少納言や紀元前5世紀を生きたプラトンも嘆いていた記録があるという。プラトンは素行について、清少納言は言葉遣いについて、それぞれ自分より若い世代の言動に苦言を呈していたようだ。いつの世にも存在する世代間ギャップを乗り越えて、望ましいチームを構築するにはどうすればよいのか。
ギャップはあって当たり前
松本毅氏が勧めるのは、まずはギャップがある事実を認めることだと話す。「もちろん個人差はありますが、世代が違えばギャップは必ずある。その認識が入り口となります」
図Aは、世代間ギャップの一例だ。仕事への意識や組織に対する考え方など、ジェネレーションごとの傾向が見てとれる。こうしたギャップを目にしたとき、ついやってしまうのが、どちらが良い・悪いと比べることだ。しかし、それではギャップの溝は埋められない。
「ギャップの一つひとつに固執するのではなく、世代に関係なく"仕事をする上で何が大切か"といった大枠を明確にして、共通認識を持つことが大切です」
例えば、図Aにあるように若い世代のコミュニケーション手段はSNSが中心だ。電話を使わないと相手と齟齬が生じやすい面もあるが、意思疎通が目的であれば、手段は電話でもSNSでも本来構わないわけだ。
世代をひとくくりで考えないことにも気を配りたい。「世代による傾向はあっても、人の意見や考え方は多種多様です。頭から『Z世代だから』と単純に決めつけてしまうと、むしろギャップを広げかねません」
誰もが仕事で幸せを得たい
世代を超えて共通認識を持つには、仕事の意義や意味を考える必要がある。そもそも「何のために仕事をするのか」という問いには、「お金を稼ぐため」「出世するため」という答えもあれば、「仕事を通じて成長したい」「人の役に立ちたい」と答える人もいるだろう。だが、共通してあるのは「仕事を通じて幸せになりたい」との思いではないだろうか。
図Bは日本理化学工業が掲げる「人間の4つの幸せ」(出典:『「働く幸せ」の道』)である。同社は1937年から続く老舗企業で、文具や事務用品の製造販売などを手がけている。社員の半数以上が知的障がい者で、心身障がい者を多数雇用するモデル工場にもなっている。4つの幸せは、長く会長を務めた大山泰弘氏が、ある寺の住職から教えられたもの。まさに働くことで得られるものだと感銘を受けたという。
「実は今の若い世代はそれまでの世代に比べて、"人や社会の役に立ちたい"意向が強い傾向があります」と松本氏は指摘する。つまり、もともと世の中の役に立ちたいという下地があるわけだ。同様に共通するのが、目的意識の強さだ。
「"四の五の言わずにやれ"は逆効果で、随時目的を伝えることが重要です。目的が腹落ちすると、がぜん、力を発揮する傾向があります」
こうした世代のバックグラウンドを理解した上で、働くことの定義を共通認識にできるよう教育する。その技量が上の世代の役割として求められているのだ。
ギャップを働き方に生かす
世代間のギャップを解消するための具体的な対策として松本氏が提案するのが次の3つだ。
- 世代に合った手法で伝える
- コミュニケーションツールは時代と共に変化している。かつては文章で伝えていた業務も、若い世代には映像やビジュアルの方が伝わりやすい。1つの手法に固執せず、世代に合った伝え方を工夫しよう。
- 若いリーダーを育てる
- 幅広い世代が働いているとギャップが生じやすい。若いリーダーを育成して、マネジメントする世代とされる世代を近づけるのも1つの手だ。「実力的にはまだまだ」でも立場が人を育てるケースがある。いきなり大きなプロジェクトを任せるのではなく、小さな案件からチャレンジして成功体験を積んでいくプロセスが望ましい。
- 手法を工夫して創業精神や会社の歴史を伝える
- 昔話や自慢話は聞きたくないが、過去の仕事に関する苦労や努力には興味がある若手は多い。オススメなのが、若手を聞き手、ベテランを話し手とするインタビューだ。話す内容は同じでも、取材をする、される立場に立つと互いの心構えが違ってくる。「聞きたい」若手と「話したい」ベテランの双方に良い機会になりそうだ。
働く人数が限られる中小企業において、世代間ギャップを嘆いているだけではもったいない。むしろギャップがもたらす変化を生かして、世代間の対話を生み出し、共通の目的を掲げたチームビルディングにつなげてみてはいかがだろうか。
松本 毅
税理士法人古田土会計 執行役員中央大学卒。政府系金融機関を経て2006年、古田土会計グループ入社。プロセス改革事業本部の最年少部長として、仕組み化・業務改善・社員教育に従事。蓄積したノウハウは、毎月自社・同業者向けに研修を実施し延べ750人以上が受講している。