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チームビルディングのイロハ

従業員の心をガッチリつかめ
傾聴力の養い方

「従業員にやる気がない」「人が育たない」「すぐに辞めてしまう」といった
"人"に関する悩みを抱えていませんか。
従業員のモチベーションをアップし、会社を成長させる理想の組織はどうすればつくれるのか、ご紹介します。

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この記事のポイント

  • 傾聴力で現場の課題解決につなげる
  • 話を聞くときの癖に注意! 腕組みや「でも」は禁止
  • 1on1ミーティングは傾聴力を養うチャンス

近年注目されているビジネススキルの1つに「傾聴力」が挙げられる。相手の話に耳を傾け、共感しながら聞くことで円滑なコミュニケーションを図るスキルだ。だが、「単に話を聞くだけではない」と、松本毅氏は話す。

「傾聴力は"相手のために"話を聞くスキルです。大切なのは相手に対する尊重や信頼。その気持ちがないまま、自分の都合に合わせて話を聞くのは傾聴力とは言えません」

つまり、傾聴力とは相手を大切にしていることを、聞く行為を介して表現するスキルなのだ。

松本氏によれば、近年雇用関係の捉え方が変わり、「雇う・雇われる」⇒「共に仕事をしていく」に、「トップからは通達のみ」⇒「トップが従業員の話を聞く」にシフトしているという。図Aで経営者に求められる6つの知識とスキルをまとめた。傾聴力は臨機応変な意思決定や理論的思考などと並ぶ、経営者に必須のビジネススキルだ。

図A 経営者に求められる6つの知識とスキル

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1 臨機応変に対応し、意思決定する力/2 傾聴し、人を導く力/3 理論的に考えて本質を見抜き、適切に表現する力/4 計数管理・計画能力/5 問題意識を持ち、自己変革する力/6 業界に精通する力
出典:「2022年度版中小企業白書」
経営者に必要と仮定した35の資質の有無を中小企業経営者が5段階で回答。
その結果を因子分析し「経営者に求められる6つの知識とスキル」に類型化した

現場の課題解決にもつながる

傾聴には次の3種類がある。

受動的傾聴
相手の話を真摯に聞き、目を合わせたり相づちを打ったりして、話しやすい場や関係性をつくる。
反映的傾聴
相手の話を要約したり、言い換えたりして相手への承認や理解、共感を示す。
積極的傾聴
相手に質問することで、相手の意識や行動に変化をもたらし、さらに思考を促す。

松本氏はこの3つを、受動的⇒反映的⇒積極的と順を追って実施していくことを勧める。「せっかく話を聞く場をつくっても、いきなり相手の話を要約したり、質問したりしては傾聴とは言えません。まずは相手の話を真摯に聞いて、受け止めるところから始めてください」

図Bは、図Aで挙げた経営者に求められる知識やスキルが、従業員の仕事の意欲に与える影響をグラフ化したものだ。経営者の傾聴が従業員のモチベーションアップにつながっている実情がよく分かる。

図B 経営者の知識・スキルの特徴別、従業員の仕事に対する意欲との関係

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出典:「2022年度版中小企業白書」
図Aを導き出した調査で、経営者が従業員の仕事に対する意欲を「とても意欲的である」から「とても消極的である」の5段階で回答。
図Aで類型化された知識・スキルを備える経営者ごとに「とても意欲的である」と回答した割合を示した

傾聴力を養うメリットはまだある。そもそもトップともなると意見される機会が少なくなる。インプットされる情報も偏りがちで、都合の良い話しか入ってこないケースもしばしばだ。現場の話を傾聴することで、経営者には見えていなかった課題が浮き彫りになったり、業務上のボトルネックの解消につながったりする場合もある。ちなみに、松本氏のクライアントで業績が好調な企業の経営者はそろって、謙虚な姿勢を示し、傾聴力にたけているそうだ。

気を付けたい自分の癖

では、具体的にどうすれば傾聴力を養えるのだろうか。松本氏は相手に対する心構えと同時に、ワザが重要だと話す(図C)。

図C 人の話を聞くときの心構えと、それを表現するワザ

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[心構え]・自分の価値観で聞かない・相手の立場で聞く・話の内容をよく聞く [表現するワザの例]・うなずきながら聞く・笑顔で聞く・メモしながら聞く

「例えば相づちを打つ、笑顔で聞く、メモを取るという所作はいわばワザです。これらを身に付けると、受け止めているという感情が相手に伝わり、良いコミュニケーションが醸成されて傾聴力が養われます」

ワザから入って心につなげる。このときくれぐれも気を付けたいのが自分の"癖"だ。話を聞く際、無意識のうちに腕や足を組んだり、相手の目を見ずに相対したりしていないだろうか。口癖も同様で、「はいはい」という軽い相づちや、話の始めの「でも」「だけど」は要注意。これらは「(聞く側から)拒否されている」印象を与え、話そうとする気持ちをそいでしまう。

「対面している人の立場が上になるほど、ちょっとしたしぐさや言葉が与える影響は大きくなるものです。経営者やリーダーは、それを自覚して相手と向き合う心がけが大切です」

相手の意見が自分と違った場合も、すぐに異論を挟むのはNG。いったん受け止める心構えを持っておきたい。

傾聴力を経営に生かす

傾聴力を養う場として松本氏が勧めるのが、経営者やリーダーが1人の従業員と直接面談する「1on1ミーティング」だ。現場との距離が近い中小企業だからこそ話題も見つけやすく、従業員にとっては上層部とじっくり話ができる貴重な機会になる。

ただし、普段話す機会の少ない経営者やリーダーと向き合うのは、従業員にとってはハードルが高い。日頃から従業員に名前で呼びかけたり、「いつもありがとう」と感謝の意を伝えたりするだけで従業員との距離は近くなる。「◯◯の仕事をしてもらったときはよく頑張ったね」など、仕事ぶりをちゃんと見ていることを伝えるとさらに効果的だ。

なお、1on1ミーティングの経験がないリーダーには、事前に経営者との1on1ミーティングの場を設けることを勧める。リーダーが実際に"聞かれる"立場を経験することで、具体的な傾聴の仕方を肌感覚で理解できるからだ。

経営者やリーダーは話をする機会が多くなりがちだが、話を聞くことで得られるメリットは大きい。傾聴力は従業員に対してだけでなく、外部との交渉や取引にも役に立つ。傾聴力を身に付け、より良いマネジメントにつなげたい。

監修

松本 毅

税理士法人古田土会計 執行役員

中央大学卒。政府系金融機関を経て2006年、古田土会計グループ入社。プロセス改革事業本部の最年少部長として、仕組み化・業務改善・社員教育に従事。蓄積したノウハウは、毎月自社・同業者向けに研修を実施し延べ750人以上が受講している。