中小企業こそ実践したい!

チームビルディングのイロハ

タテだけではない
ヨコの関係が組織を強くする

「従業員にやる気がない」「人が育たない」「すぐに辞めてしまう」といった"人"に関する悩みを抱えていませんか。
従業員のモチベーションをアップし、会社を成長させる
理想の組織はどうすればつくれるのか、ご紹介します。

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この記事のポイント

  • 中小企業こそ、ヨコの関係が組織を活性化させる
  • ヨコの活動は従業員の主体性を育てる
  • ヨコの関係を育てるプロジェクトでリーダーシップを養う

組織はおおむねタテの関係で成り立っている。経営者がトップにいて、その下に役員、部長などそれぞれの企業による職位で構成される。タテの組織は指揮命令の系統が明確で統率がとりやすい。専門性も培われる。その半面、いわゆる「縦割り組織」になりがちだ。組織は硬直化し、全体が見えづらくなって弊害が出やすい(図A)。

図A 縦割り組織のメリットとデメリット

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メリット 管理がしやすい、統率をとりやすい、専門性を極められる/デメリット 硬直化しやすい、視野が狭くなる、会社としての一体感をつくりづらい

この解消策として、大企業であれば部署異動による人材交流があるが、中小企業では難しい場合も多い。そこでおすすめなのが、今回取り上げる「ヨコの関係の構築」だ。

「近年、組織全体を活性化させるために、意識してヨコの関係を構築する会社が多くなっています」と、松本毅氏は語る。

中小こそ効果的なヨコ関係

ヨコの関係構築が、なぜ組織を活性化させるのか。タテの組織は命令系統が明解で、意思決定が早く組織として動きやすい。だが、命令をする側とされる側に役割が限られてしまう。される側は自ら考えたり、決定したりする機会が少なくなる。常に指示がないと動けなくなる可能性がある。

所属する部門の是非だけにこだわって視野が狭くなり、組織全体の最適を見る目がなくなりがちだ。

「中小企業はもともと人数が限られ配置転換も少ないため、より硬直化しやすい。1つの目安として組織が50人を超えたら、横串で関われる関係を構築すると良いでしょう。普段話さない間柄でも、ヨコでつながるとお互いの存在を認識できる。協力関係が築きやすくなり、風通しの良い職場となります」

人材が滞留しがちな中小企業だからこそ、ヨコの関係づくりが大きな効果を発揮するわけだ。

主体性を育むヨコ活動

ヨコの関係を構築するために松本氏が勧めるのは、○○プロジェクトや△△委員会といった活動だ。実際の業務をヨコの関係で実施するのは難しいが、仕事に直接関係しない活動であれば取り組みやすい(図B)。

図B ヨコの関係を構築する取り組み例

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「ヨコの関係を構築する取り組み例」●朝礼委員会 例)朝の一言コメントを従業員が持ち回りで発表する ●読書プロジェクト 例)月1回、仕事に関する書籍を選んで感想を述べ合う ●社内清掃プロジェクト 例)従業員全員参加で範囲を限定して実施(机を拭くなど) ●名前を呼んで挨拶 例)出社時、相手の名前を呼びながら挨拶

「会社の業務には直接関係しないが、社として取り組むべき活動があります。例えば朝礼や式典の開催、セキュリティー向上の取り組みをヨコの活動として取り入れてみる。採用の専門部署がない組織であれば、採用シーズンに合わせてプロジェクトを立ち上げ、複数部門から知恵を出し合っても良いでしょう」

こうした活動が有効なのは、普段の仕事では使わない頭を使うからだ。発想が広がり、組織を俯瞰ふかんして見る目を養えるようになる。いつもは上からの命令にただ従うだけの従業員も、自ら企画を立てたり動いたりすると主体性が育成される(図C)。

図C ヨコの関係を強化するメリット

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「ヨコの関係を強化するメリット」従業員の主体性が育まれる、組織の風通しが良くなる、組織に協調性が生まれる、組織全体を見るため発想が広がる、従業員が普段発揮できない強みを発揮できる

取り組みやすい活動として、松本氏が勧めるのは毎日の挨拶だ。ポイントは「○○さん、おはようございます」と、相手の名前を呼んで挨拶をする点にある。「名前を呼ぶには、名前を覚えなくてはなりません。声をかけるタイミングにも配慮が必要になる。それを毎日繰り返すと、少しずつ関係性が育まれていきます」

重要なのはトップや幹部といった上部組織から積極的に取り組むこと。言いっ放しではなかなか浸透しない。ぜひ率先垂範を心がけたい。

情報をヨコ全体で共有

もう少し業務に近いヨコの活動も積極的に取り入れよう。

多数の店舗や支所を擁する中小企業において、1カ所で成功したノウハウが全体で共有されないケースがある。数字ありきの場合、店や支所同士で売り上げを競い合うため、他に教えたくない気持ちが起こるからだ。

会社側が主体となってヨコの関係を築き、情報共有を推進した上で健全に競い合える環境づくりに取り組んではいかがだろうか。

大切なのは前向きな社風

通常の組織にいると、従業員は決められたポジションでしか動けない。だが会議ひとつ取っても自分が仕切るのと単に出席するのとでは、心持ちも向き合い方も全く異なる。

ヨコの関係をつくるプロジェクトや委員会の活動でリーダーとなって活動を率いると、リーダーシップを養う良い機会になる。人にはそれぞれ強みがある。普段タテの組織では出し得なかった強みを、ヨコの活動で発揮する従業員もいるかもしれない。

「大切なのは、そうした活動を余分な仕事と捉えず、前向きに取り組む社風です。ただし、タテの組織でやるべき業務をやった上でのヨコの関係であると理解しておかねばなりません」と松本氏は補足する。

厳しい社会情勢が続く現在だからこそ、タテにもヨコにも強い組織を構築して、従業員一丸となって荒波を乗り切っていきたい。

監修

松本 毅

税理士法人古田土会計 執行役員

中央大学卒。政府系金融機関を経て2006年、古田土会計グループ入社。プロセス改革事業本部の最年少部長として、仕組み化・業務改善・社員教育に従事。蓄積したノウハウは、毎月自社・同業者向けに研修を実施し延べ750人以上が受講している。