中小企業こそ実践したい!

チームビルディングのイロハ

意思疎通の決め手は
上からの上手なアプローチ

「従業員にやる気がない」「人が育たない」「すぐに辞めてしまう」といった"人"に関する悩みを抱えていませんか。
従業員のモチベーションをアップし、会社を成長させる
理想の組織はどうすればつくれるのか、ご紹介します。

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この記事のポイント

  • 経営者の「ちゃんと」と、従業員の「ちゃんと」にはズレがある
  • 意思疎通が円滑かどうかは経営者次第
  • うまく伝わらないときは1on1ミーティングを

「指示した通りに仕事が進まない」「必要な情報がなかなか経営者まで上がってこない」といった悩みを抱えていないだろうか。このような事態が頻繁に生じる場合は、従業員同士でも意思の疎通が図れていない可能性がある。

図AはHR総研による従業員同士の意思疎通に関する調査結果だ。「社員間のコミュニケーション不足は業務の障害になると思うか」と尋ねると、「大いにそう思う」「ややそう思う」を合わせた回答が86%だった。

図A 社員間のコミュニケーション不足は業務の障害になると思うか

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[アンケート結果]大いにそう思う 53%/ややそう思う 33%/どちらとも言えない 11%/あまりそう思わない 4%
※四捨五入による端数処理の関係で、合計値は100%になっていない
出典:「『社内コミュニケーション』に関するアンケート2024」。ProFuture株式会社/HR総研が企業の人事責任者・担当者を対象に実施。
https://www.hrpro.co.jp/research_detail.php?r_no=379

経営者と現場の距離が近い中小企業は、大企業に比べて意思疎通はできていると思うかもしれない。が、さにあらず。実は中小企業のほうがコミュニケーションの課題は多いと松本氏は指摘する。HR総研の調査でも、300人以下の中小企業において課題があると思われる関係間は、「部門間」に次いで「経営層と社員」が2位となった(図B)。

図B コミュニケーションに課題があると思われる関係間

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出典:「『社内コミュニケーション』に関するアンケート2024」。ProFuture株式会社/HR総研が企業の人事責任者・担当者を対象に実施。
https://www.hrpro.co.jp/research_detail.php?r_no=379

「原因の一つが、言葉の定義が明確ではないこと。よくあるのが『ちゃんと』という表現です。『ちゃんと○○するように』と言われてもその定義は人それぞれ異なります。一般的には経営層が求めるレベルが高く、現場は"ちゃんと"しているつもりでも、上層部から見ればそうではない。認識のズレが往々にしてあります」

明確化しズレを回避

この場合"ちゃんと" がどういう状態なのかを現場に伝える必要がある。実態は、上層部自体が明確な定義を持っておらず、曖昧なケースが少なくないという。意思の疎通を図る以前の問題だ。

これを是正するには、言葉の定義を明確にする。誰が見ても「できているか、いないか」が分かる状態をつくり出さねばならない。松本氏によると、ある小売業で「お客さまに大きな声であいさつをする」を目標にしたとき、レジごとに声量を測る機器を設置して、数値で確認できるようにしたそうだ。「極端な例かもしれませんが、声量を視覚化し、誰もが分かるようにして効果が出ています」

松本氏の事務所では、あいさつをする際、「相手の目を見る」「相手の名前を呼ぶ」「明るい笑顔で」の3つの定義を設けている。あいさつをするアクションを具体化して認識のズレを防ぎ、意思の疎通をスムーズにした好例だ。

円滑化は経営者次第

会社全体で意思の疎通を円滑にするには、何に気を付ければよいのか。「できていないと感じるとき、その原因が発信側、つまり経営者側にあることも少なくありません。経営者や管理職はまず自分の発信の仕方を見直すところから始めましょう」と松本氏は指摘する。

経営者が気を付けたいのが、中間管理職を飛ばして現場に直接指示してしまうことだ。人数が少ない中小企業ではありがちで、常態化すると現場はトップの顔色ばかりをうかがうようになる。中間層との意思の疎通もおろそかになる。

管理職は、現場に役割を明確化して具体的に伝えたい。経営者が描く管理職像があるならば、イメージしやすい言葉で共有しよう。「推して知るべし」は、認識のズレを生む。

報連相を待たない

管理職としての心得は、進んで自分から声をかける、だ。例えば、報告・連絡・相談(報連相)が思うように上がってこない場合、イライラしながら待っていないだろうか。松本氏は、自分から進んで声をかけ、報連相を求めるほうがよいと勧める。管理職が率先して動けば現場は反応する。「自ら動く」を常としたい。

なお、報連相が上がってこないのは、上司と年齢差があり、話しかけづらいといったケースも多い。図Cは意思の疎通を図る方策の例だ。コミュニケーションの場を増やし、声を上げやすくする環境づくりが、スムーズな意思の疎通につながる。

図C 組織内で意思の疎通を円滑にするための方策

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●朝礼や朝のあいさつを通じてコミュニケーションの量を増やす/●上司と部下の1on1ミーティングを実施する/●会議や勉強会を活用して情報共有の場を増やす/●プロジェクト活動や部活動を活用する

こじれた場合は2対1で

今はパワハラ、モラハラなどハラスメントに敏感だ。松本氏によれば、以前に比べて経営者側も感度は高まっているという。ハラスメント対策に心をくだくあまり、意思の疎通が図れない状況が生じ得る。

万一、関係がこじれてしまった場合、絶対にしてはならないのがこじれた関係の放置だ。ただ、関係を修復しようとして当事者だけに任せると、さらにこじれてしまうこともある。「必ず第三者を交えて話し合いを」と松本氏は呼びかける。

その際は上司側に近い立場の人を1人オブザーバーとして加えた2対1にする。加わった人物が中立的な立場で、双方の言葉をかみくだいたり、言い添えたりする。感情的にならずに済む効果があるという(図D)。

図D こじれた場合は第三者を交えて話す

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2人きりの面談は避ける、オブザーバーを加え3人で話す

2対1形式のミーティングは降格や昇給しないときの告知にも有効だ。この場合、結果を告げる前の説明がポイントとなる。相手にとってマイナスの通告のときは、通告後に説明しても勝手な憶測をされがちで、認識のズレが生じやすいからだ。

意思の疎通は「分かってくれるだろう」では成立しない。上の立場の者から歩み寄る姿勢を心がけたい。

監修

松本 毅

税理士法人古田土会計 執行役員

中央大学卒。政府系金融機関を経て2006年、古田土会計グループ入社。プロセス改革事業本部の最年少部長として、仕組み化・業務改善・社員教育に従事。蓄積したノウハウは、毎月自社・同業者向けに研修を実施し延べ750人以上が受講している。