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チームビルディングのイロハ

右腕を育てたい
何をどこまで任せる?

「従業員にやる気がない」「人が育たない」「すぐに辞めてしまう」といった"人"に関する悩みを抱えていませんか。
従業員のモチベーションをアップし、会社を成長させる
理想の組織はどうすればつくれるのか、ご紹介します。

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この記事のポイント

  • 評価基準の明確化、明文化が大切
  • 小さな仕事から「任せる」
  • 任せっぱなしや、いったん任せた仕事を取り上げるのはNG

安心して仕事を任せられる人材の育成は、企業の発展を左右する重大事項だ。仕事を任せられる側にとっても、自分の力をアピールできる大チャンスだ。モチベーションアップの機会にもなる。ただ、大事な仕事を任せるとなると、少なからずリスクが伴う。何を、どこまで、どう任せれば、双方にとって良い成果が得られるのだろうか。

松本毅氏は、仕事を任せる際にまず必要なのは、各従業員のレベルや持っているスキルの把握だと語る。それには、評価シートの活用が有効となる。図Aは、厚生労働省による「職業能力評価基準」の一例だ。職種や職務によって、それぞれの能力レベルがどの程度なのかを客観的に確認できる。

図A 従業員の能力を本人と上司が相互評価する能力評価シート例

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            職種の大分類の中に職務の小分類があり、それぞれの職務に対しレベル1~レベル4までの欄が設けられている表形式のシート
出典:スーパーマーケット業における職業能力評価シートの例(厚生労働省)

職種や職務ごとに、従業員各自の能力を評価するためのシート例。職種や職務を自社のものに当てはめれば、分かりやすい評価シートがすぐに作れる。本人と上司がそれぞれチェックして照らし合わせると、両者の間の認識の違いが分かる。それを本人に伝えれば、行動改善を促すきっかけになる

レベル1
担当者として、上司の指示、助言を踏まえて定例的業務を確実に遂行するために必要な能力水準
レベル2
グループやチームの中心メンバーとして、創意工夫を凝らして自主的な判断、改善、提案を行いながら業務を遂行するために必要な能力水準
レベル3
中小規模組織の責任者もしくは高度専門職として、上位方針を踏まえて管理運営、計画作成、業務遂行、問題解決等を行い、企業利益を創出する業務を遂行するために必要な能力水準
レベル4
大規模組織の責任者もしくは最高度の専門職として、広範かつ統合的な判断及び意思決定を行い、企業利益を先導・創造する業務を遂行するために必要な能力水準

評価基準を明確に

こうした評価表と同時に必要なのが、企業としての明確な評価基準だ。松本氏によれば、「次のステージに上がるためには何が必要か?」という従業員からの問いかけに、どう回答すればよいか分からず悩む経営者が多いという。

「自分は何を期待されているのか」「どうすれば昇進できるのか」といった、具体的な評価基準に興味を持つ従業員が増えているからだ。

実はこうした問いに対して、説得力のある明確な答えを持っていない経営者は意外と多い。いわゆる勘と経験値を頼りに、従業員を指導・評価してきたのが本音のようだ。

最近は経営者自身も、部下の育成に関して考えを整理したいと考える人が増えつつある。評価基準の明確化、明文化に前向きに取り組む事例が以前より目立つ。

「明確化の手法の1つに、数値目標があります。決まっているのに伝えきれていない企業も多い。ただ『がんばれ』と言われるより、具体的な数字や目標とする行動があると、誰もが理解しやすい。業種にもよりますが、目標とすべき数字はある程度オープンにする必要があります」

任せる機会をつくる

では、具体的にどんな仕事をどう任せればよいのか。図Bは企業経営に必要な要素を分類したものだ。中小企業の場合、従業員に任せられるのは主に「How」の部分に当たる。

図B 企業経営に必要な要素

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            企業経営に必要な要素のピラミッド図。下から順に
            「How(実施・行動)」:従業員に任せることができる範囲
            「What(何をするか決定)」:中小企業の場合、経営者や幹部が決定
            「Why(目的)」:経営者が決定
経営では「Why(目的)」「What(何をするか)」「How(実施・行動)」が鍵となる。ただしそれらを決めるのは、その立場にいる人。従業員に「Why」を決めさせるのは誤りだ

幹部育成という意味では、新規事業や大きなプロジェクトを丸ごと任せる方法もあるが、もう少し前の段階で小さめの仕事から任せる機会を与えると、徐々に幅を広げられる。

例えば入社2〜3年目の従業員には、就職希望者に社風や社歴を伝える役や、社内勉強会の講師を任せる。当然、リスクは伴う。だが、社内で完結する事案であれば、万が一何かあってもリカバリーできる。

「育たないから任せられない」という話もしばしば聞くが、逆に「任せないから育たない」とも言える。松本氏によれば、最近では若手の育て方は、厳しくダメ出しして鍛える麦踏み的なやり方から、倒れる前に支える添え木のような育成法に変化しているという。統括する立場に立つと、初めて気付ける事案も多い。小さな仕事から任せ始めて、あらゆるところで同様の機会をつくっていきたい。

「任せて任さず」を徹底

せっかく任せた事案がうまくいかないケースもある。その原因として松本氏が指摘するのが「任せっぱなし」だ。育ちきっていない若手に任せきりではうまくいくはずがない。任せっぱなしにならないよう、週次のミーティングを設けて、早めのチェックと都度の軌道修正が重要だ。

他にもよく聞くのが、任せた上司側が我慢できずに手や口を出してしまうケースだ。最悪なのは「自分でやるからもういい」と、任せた事案を取り上げてしまうことだ。「こうしたケースは、従業員が成長するせっかくの機会を奪ってしまいます。上から見れば歯がゆいのは分かりますが、いったん任せたら我慢して見守りつつフォローするのが上に立つ者の役割です」。任せた事案を成功させるキーワードは、パナソニックの創業者である故・松下幸之助氏の言葉にある「任せて任さず」だ。

任せた仕事をスムーズに進めるには、図Cにあるように具体的な条件を示すと効果的だ。やるべき仕事や進め方が明確になり、進捗状況を把握する際にも効力を発揮する。

図C 上手に仕事を任せるための4つの条件


            1.期限を決める 2.優先順位をつける 3.目的や背景を明確にする 4.達成するレベルを明らかにする

チャレンジを評価する

部下の成長に伴いゆくゆくは右腕に、と考える経営者もいるかもしれない。企業にとって"ナンバー2"の存在は貴重で、将来を左右するといっても過言ではない。

松本氏はナンバー2として2つのタイプを勧める。1つはいわゆる番頭タイプ。経営者が決めた方針にあれこれ解釈を付けず、素直に受け止めて実践してくれる人だ。もう1つが、経営者が静なら動、硬なら軟といったように経営者とは真逆のタイプだ。一般的に自分と異なるタイプは右腕に選びにくいものだが、実際は相互補完的な作用で良い結果をもたらすケースが少なくない。

「任せるのは難しい面もありますが、会社や部下の成長のためには絶対に必要です。まずは新しい仕事へのチャレンジ自体を評価し、承認する。これが次の行動につながります。上手に任せて育成していきましょう」

監修

松本 毅

税理士法人古田土会計 執行役員

中央大学卒。政府系金融機関を経て2006年、古田土会計グループ入社。プロセス改革事業本部の最年少部長として、仕組み化・業務改善・社員教育に従事。蓄積したノウハウは、毎月自社・同業者向けに研修を実施し延べ750人以上が受講している。