
中小企業こそ実践したい!
チームビルディングのイロハ
パワハラが起きない
組織のつくり方
「従業員にやる気がない」「人が育たない」「すぐに辞めてしまう」といった"人"に関する悩みを抱えていませんか。
従業員のモチベーションをアップし、会社を成長させる
理想の組織はどうすればつくれるのか、ご紹介します。
- チームビルディングのイロハ
- パワハラ
- 人材不足
この記事のポイント
- かつての「当たり前」も今はアウト! 自覚のないパワハラに注意
- 人材不足がパワハラを生む原因に
- 人材育成をすべき上司に不向きな人には別のポストを用意する
「パワーハラスメント(パワハラ)」という言葉は、2001年に誕生した和製英語だ。それから20年余りが過ぎるが、残念ながら現在も顕在しており、テレビや新聞でも頻繁に取り上げられるワードとなっている。
図Aは、2020(令和2)年から3年にわたって都道府県労働局に寄せられた、企業におけるパワハラ相談件数の推移だ。2022(令和4)年4月から改正労働施策総合推進法の全面施行に伴い、中小企業における相談件数も加算され、大幅な増加となっている。
図A 都道府県労働局に寄せられたパワーハラスメントの相談件数の推移
画面を拡大してご覧下さい。
出典:厚生労働省雇用環境・均等局が作成した資料をもとに編集部が再編集
- ※1企業は、労働者からのパワハラに関する相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない
- ※2労働者がパワハラの相談をしたり、労働者からのパワハラ相談の対応に協力した際、事実を述べたことを理由に、企業が解雇やその他の不利益な取り扱いをしてはならない
一度発生してしまうと、社内外に大きな悪影響を与えるパワハラはなぜ起きるのか。起きない組織をつくるにはどうすればよいのだろうか。
自覚がないケースも
図B 組織でパワハラが起こりやすい主な要因
パワハラが起きやすい組織には、いくつかの共通要因があると松本毅氏は指摘する。図Bはその主な要因で、特に中小企業によく見られるという。①のような組織では、トップや幹部が権力を持ちすぎて歯止めが利かなくなり、パワハラが多々起きてしまう。従業員の評価基準が曖昧な②では、上司の主観や好き嫌い、その時々の感情で評価が左右されてしまい、パワハラにつながりやすい。松本氏が注目するのが③だ。「例えば部下が何かミスをしたとき、デスクの横に立たせて大勢が見ているところで叱責する行為です。昔は当たり前のようになされていましたが、今は完全にアウト」と、叱り方にも注意を促す。
時代の変化はアウトの基準を変える。自らの経験則だけにのっとっていると、知らないうちにハラスメントを起こしかねない。本人に悪気がなく、ハラスメントだと気が付かないケースも多い。中には時代の変化を知りながら、認めたくない、関心がない経営者や上司もいる。パワハラを受けた従業員が訴えるケースが増えているため、多少のトラブルなら問題にならないだろうと高をくくるのは要注意だ。
「こうした時代の流れをきちんと把握するためにも、研修はとても重要です。今の基準を学んで知っておけば、アウトになる機会を減らせる。最近はハラスメントに関する研修をしてほしい企業からの要望も増えています」と松本氏は語る。
人材不足もパワハラの要因
他にも、中小企業にありがちなパワハラの要因がある。仕事はできるが、人材育成に向いていない人が上司となって部下を持つケースだ。「仕事ができない部下に、我慢できない」「自分は仕事ができるため、部下がなぜできないのかが分からない」はよく聞く。その結果、いらつきが増して強い言葉で
松本氏の会社ではこうした事態を解消すべく、教える立場には不向きだが仕事のできる実力者をまとめた「エキスパートチーム」なる部署を設けている。「エキスパート」という特別感のある立場でプレーヤーとして活躍してもらう。これなら本人のモチベーションも維持される。
人材不足が招くもうひとつのパワハラ要因は、仕事が一人に集中してしまう業務の属人化だ。「工場長にしか分からない案件がある」「○○については、営業部長以外は担当できない」などがこれに当たる。業務がブラックボックス化すると、特定の人だけに負荷がかかり、その余波がパワハラとなる場合がある。新規採用は容易ではないが、こうした組織の体制もパワハラにつながると認識しておきたい。
中長期的に考える
では、実際にパワハラが起きてしまったらどうすればよいのか。最も大切なのは、正しい処分だ。逆に絶対してはならないのが放置である。中小企業は人材不足が常態化している。パワハラを起こした本人が仕事ができたり親族だったりすると、うやむやにしてそのままとなりがちだ。その状況を目の当たりにした従業員は確実に会社への信頼をなくし、仕事に対するモチベーションは下がる。「目先の売り上げだけでなく、中長期で見る視点を持って経営に当たるのが肝心です。パワハラの根源を絶たない限り、やがて部下全員がいなくなるかもしれません」と、松本氏は警鐘を鳴らす。
パワハラの加害者に対しては、図Cのように段階を踏んで対応する。こじらせないためにも、話し合いを続けながら会社側からの要望を伝えるのが重要だ。図内の「居場所を提供する」に該当する策として、「エキスパートチーム」のような部下を持たない専門職への配置転換も一手だ。
図C パワハラの加害者への段階的アプローチ
トップが率先してパワハラを防止
パワハラが起きない組織にするには、相談しやすく風通しの良い環境をつくる。ハラスメントに対応する相談窓口を設けるのも効果的だ。人材の育成には向き不向きがあると認識し、スキルや売り上げ、技術だけを重視して上司としての権限を持たせない。評価は、減点方式ではなく美点凝視と長所伸展がポイントだ。人材のプラス面を見る心づもりでいよう。
パワハラを防げるかどうかは、経営者の心がけ次第だ。トップが先頭に立ち、パワハラが起きない社風にしつつルールを作る。パワハラを許さない姿勢を繰り返し伝えていこう。
松本 毅
税理士法人古田土会計 執行役員中央大学卒。政府系金融機関を経て2006年、古田土会計グループ入社。プロセス改革事業本部の最年少部長として、仕組み化・業務改善・社員教育に従事。蓄積したノウハウは、毎月自社・同業者向けに研修を実施し延べ750人以上が受講している。