中小企業こそ実践したい!

チームビルディングのイロハ

「この会社で働きたい!」
そう思わせたら勝ち

「従業員にやる気がない」「人が育たない」「すぐに辞めてしまう」といった"人"に関する悩みを抱えていませんか。
従業員のモチベーションをアップし、会社を成長させる
理想の組織はどうすればつくれるのか、ご紹介します。

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この記事のポイント

  • 企業文化や社風、価値観が合うと、従業員は会社を好きになる
  • フィードバックをルール化。本人の成長をゴールにこまめに伝える
  • 会社の規模が小さいときから企業文化や理念を整え浸透させていく

厚生労働省は、2024年版「労働経済白書」のメインテーマとして「人手不足」を取り上げた。それほど日本で今、人材難が深刻化している。「人手不足倒産」は23年以降急増し、24年度は上半期だけで163件と過去最高を記録した(図A)。業種別に見ると、建設業(55件)と物流業(19件)が上位を占める。この2業種で全体の45.4%となる。

図A 人手不足倒産の年度推移

画面を拡大してご覧下さい。


            年度ごとの数値はすべて上半期、下半期の順。
            2014年度:40件、65件 2015年度:35件、68件 2016年度:32件、79件 2017年度:57件、108件 2018年度:80件、175件 2019年度:92件、199件 2020年度:69件、130件 2021年度:53件、118件 2022年度:66件、146件 2023年度:135件、313件 2024年度上半期:163件
出典:帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2024年度上半期)」

人手不足解消の要となるのは、働く従業員のエンゲージメントをいかに高め、離職率を下げるかだ。定着率を向上させれば、人手不足を防げる。ではどうすれば従業員の定着率を上げ、「この会社で働きたい」と思える環境をつくれるだろうか。

カギは経営陣への信頼度

図B 働きたいと思われる会社となる4つのポイント


                ①会社が好き
                ②仕事が好き
                ③キャリア安全性と心理的安全性
                ④信頼できる経営陣

松本毅氏が挙げる、働きたいと思える会社のポイントは4つだ(図B)。

1つ目はいわゆる「カルチャーフィット」だ。企業文化や社風、価値観が合うと、従業員は「この会社が好き」と感じやすくなる。ある税理士事務所でユニホームをパーカやTシャツにしたところ、就職希望者が増えたという。経営層が何を大事にして、どんな企業文化をつくりたいかを伝え、従業員が共感するかがカギとなる。

会社としてもカルチャーフィットする人材を重視する傾向が見られる。「採用した人材を会社の文化に合わせて育てるのではなく、会社のカルチャーに合う人材を採用する」経営者が増えている。

2つ目の「仕事が好き」も重要なポイントだ。今どきの若手は「自分がどう成長できるか」を重視する。日頃から仕事の目的や意義を明確化し、成長できる環境が整っていると繰り返し伝える必要がある。

成長できる環境は、3つ目のキャリア安全性にもつながる。心理的安全性と共に、注目されるキーワードだ。若手が会社に定着する要素として欠かせない。

「信頼できる経営陣」が4つ目のキーワードだ。ある学会で発表された集計データによると、「幸せを感じて働いているか」との問いに対して、直接的な因果関係があったのは「信頼できる経営陣の下で働いていること」と「存在意義を感じて働けていること」の2項目だった。松本氏は、「無理なく働ける、働きやすい環境にあるといった労働環境の改善は確かに必要。ただ、それは手段の1つでしかありません。むしろ、経営者の信頼性や自らの存在意義をいかに感じられるかが大切。『この会社で働きたい』と思える要素の表れといえるでしょう」と分析する。

フィードバックをルール化

図C 働きたい会社をつくるためにそれぞれの職位が心がけること


                経営者:会社の理念や未来像を伝え続ける、情報を開示する、成長できる環境をつくる
                上司:定期的にコミュニケーションをとる、的確なフィードバックをする(黄字)
                同僚:協力し合い、刺激し合う関係性を持つ、ポジティブなコミュニケーションを図る
                部下:自らフィードバックを求める姿勢を持つ、協力し合う関係性を持つ(黄字)

働きたいと思われる会社づくりにおいて、経営陣の在り方は大きな要素だ。加えて、組織自体が魅力的であるために、職位における考え方や働き方も大きなポイントとなる(図C)。

経営者は、会社の理念や未来像を地道に伝え続けるのが重要だ。伝える内容は同じでも、受け手の経験値やレベルによって、受け取り方や感じ方が変化するからだ。以前は理解できなかった話がふに落ちるようになったり、良い解釈ができるようになったりするという。

松本氏が注目するのが、上司と部下におけるフィードバック(図C内黄字部分)だ。円滑なコミュニケーションの1つとしてフィードバックは有効だが、双方に効果的なのが「部下が上司にフィードバックを求めること」。例えば「今日のミーティングでの自分はどうでしたか?」など、部下側から働きかけてくれると、上司は会話の糸口をつかみやすい。フィードバックをルール化するのも一手だ。フィードバックが当たり前になると、「自分の発言で相手が気を悪くしないか」といった余計な気遣いがなくなり、コミュニケーションが取りやすくなる。

「表現の仕方や伝えるタイミングには注意が必要です。不足点を指摘するだけでは非難されたようで、マイナスに捉えられる危険性もある。フィードバックの前提として、相手の成長がゴールであると意識したい」と松本氏は注意を促す。

なお、フィードバックの変化形として「振り返り研修」も若手に評判が良い。直近3カ月を目安に、自分が成長した点にフォーカスして振り返る。いわば自分へのフィードバックだが、プラスの視点を持って行うため、成長実感を高められる。

取り組むなら今すぐ

「この会社で働きたい」と思ってもらえる社風や文化を、一朝一夕で築くのは難しい。まして会社の規模が大きくなればなるほど、社内の意思統一や企業理念の浸透は困難になる。

その点、従業員数が少ない中小企業は、経営トップと現場が近いのが強みだ。例えば経営者が現場に入り、従業員と並んで働く様子を見せるのも一例といえる。普段は見られないトップの様子は従業員にとって刺激となる。一方経営者にとっても、従業員の働き方を間近で体感する貴重な機会になるはずだ。

「会社の規模が大きくなってから企業文化や理念を考えるのではなく、規模が小さいうちに少しずつ整えてカタチにしていく。早めに取り組めば、経営者の思いが浸透し、後々に有利な方向につながります」と松本氏は力を込める。働きたいと思われる会社への一歩を踏み出すのは、まさに「今」がチャンスだ。

監修

松本 毅

税理士法人古田土会計 執行役員

中央大学卒。政府系金融機関を経て2006年、古田土会計グループ入社。プロセス改革事業本部の最年少部長として、仕組み化・業務改善・社員教育に従事。蓄積したノウハウは、毎月自社・同業者向けに研修を実施し延べ750人以上が受講している。