中小企業こそ実践したい!

チームビルディングのイロハ

「退職者」の捉え方をアップデートし
新たな仲間にしよう

「従業員にやる気がない」「人が育たない」「すぐに辞めてしまう」
といった人に関する悩みを抱えていませんか。
従業員のモチベーションをアップし、企業を成長させる
理想の組織はどうすればつくれるのかを紹介します。

  • 退職
  • アルムナイ
  • 沢渡あまね
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この記事のポイント

  • 退職トラブルは手続きとプロセスで回避できる
  • 退職者への対応が会社の未来を明るくする
  • 裏切り者ではなく新たな仲間と捉える

人手不足が深刻さを増す中、「退職」の2文字は経営者にとって頭の痛いテーマの1つではないだろうか。人的リソースが限定的な中小企業にとって、人が辞めるのは大きな痛手だ。ともすると会社経営にも影響を与えかねない。昨今の労働力不足の状況下では、新たな人材獲得は困難を極める。図Aは、人手不足関連倒産のグラフだ。2021年、22年と減少傾向にあった倒産件数は2023年から増加に転じ、2024年に急増している。倒産理由が「従業員退職」のケースは、2024年は前年比約1.7倍だ。

図A 人手不足関連倒産件数

画面を拡大してご覧下さい。

2020年 合計:95件、求人難:36件、従業員退職:38件、人件費高騰:21件、2021年 合計:56件、求人難:20件、従業員退職:26件、人件費高騰:10件、2022年 合計:62件、求人難:27件、従業員退職:28件、人件費高騰:7件、2023年 合計:159件、求人難:58件、従業員退職:42件、人件費高騰:59件、2024年 合計:289件、求人難:114件、従業員退職:71件、人件費高騰:104件

出典:東京商工リサーチ「人手不足」関連倒産より作成

  • 1~12月の全国企業倒産(負債1000万円以上)のうち、「人手不足」関連倒産(求人難・従業員退職・人件費高騰)を抽出し、分析(後継者難は対象から除く)

従業員が退職する際には、何らかのトラブルになるケースもある。退職時のゴタゴタは、会社に残る従業員にも影響を及ぼし、会社の将来にも関わる場合があることから、決してなおざりにしてはいけない問題だ。多くの企業や自治体で組織開発を手がける沢渡あまね氏は、退職の際に起こりがちな問題を3つ挙げる。

手続きや告知のタイミングでもめる
提出する表書きは「退職届」か「退職願」か、手書きで書くべきか否かといった形式的な面ですれ違いが起き、不毛なやり取りが続く。引き継ぎで迷惑をかけないよう、早めに告知しようとしたところを「早過ぎる」といさめられるケースもある。
感情の衝突が起きてもめる
1のような状態が続くうちに、双方の感情がこじれて関係がギクシャクし、衝突が起きる。お互いに自分の価値観を押し付け合うと、本来やるべき事項とは別次元の問題が起きてさらにもめる。
退職者に対する嫌がらせが起きる
退職者を裏切り者と捉えて有給休暇を取らせない、仕事に必要な情報を共有しないといった嫌がらせが起きる。根も葉もない臆測や風評が広がる。

いずれも感情を削り合うだけの不毛なコミュニケーションだが、単に当事者同士のもめ事にとどまらない場合もある。
「社内や取引先に告げるタイミングは特に注意が必要です。退職する人が経営に近い立場であればあるほど、株価が左右されたり、企業の事業計画や体制に影響が及んだりといった可能性が高まります。最悪の場合、社内の情報が不本意な形で漏れ、インサイダー取引につながる可能性もあります。そうした事態を引き起こさないためにも、退職日や告知のタイミングには、会社の事情も織り込んだ周到な準備と配慮が求められます」と沢渡氏は釘を刺す。

退職の規定や体制を整え、もめ事を回避する

前述のようなもめ事は、退職に関する規定や体制が会社にないために起きるという一面もある。特に退職届の書式といった"お作法"は、会社のフォーマットがあれば無駄な行き違いはなくせる。周囲への告知のタイミングも、規定があればそれにのっとれば良い。合わないケースが発生したら、その時点でコミュニケーションを取れば問題ない。望まれるのは、「従業員が辞める」という事実と事務的な手続きとを分けて考え、退職すると決まった後は規定通り淡々と処理できる体制だ。業務プロセスや手続きが整備されていれば、感情的な言葉や嫌がらせの行動は回避でき、職場のモラルも維持できる(図B)。昨今耳にするリベンジ退職(職場に対する不満から、従業員が意図的に会社にダメージを与える行為をして退職すること。引き継ぎを拒否する、SNSに会社の内情を書き込むなど)を引き起こさないためにも、経営トップはスムーズに手続きが進められる体制を構築する必要がある。

図B 業務プロセスの整備で退職時のもめ事を回避する

画面を拡大してご覧下さい。

業務プロセス・手続き:退職時のプロセスや手続きが整備され明確になれば、トラブルが回避され、職場のモラルが維持できる。言葉のトラブル:個人間の感情的な発言によってもめる、退職者について憶測や風評が広がる。行動のトラブル:手続きやお作法で衝突する、嫌がらせをしてしまう
沢渡あまね氏への取材を基に作成

こうした退職に関する体制や一連のやり取りは、会社に残る従業員にとっても重要なポイントとなる。人が辞めるという行為は、様々な形で周りに影響を与えるものだ。悪意ある退職は別として、会社側がこれまで共に働いてきた仲間を裏切り者と捉えるのか、巣立ちを応援するのか、残る従業員は注視している。「ゴタゴタが大きくなったり、いつまでも手続きが終わらなかったりすると会社への不信感が募り、ブランドの低下にもつながります。退職者と会社が互いに思いやりの感情を持って、会社を去るそのときまで、共に伴走できる関係でいるのが大切です」

退職者を裏切り者扱いしない会社の姿勢は、残る従業員に安心感を与える。人がいなくなれば、現場の負担・負荷は当然増える。チーム制の職場であれば、精神的な負担も大きい。残る従業員に対する不安の解消や支援は欠かせない。人の補充や何らかの手当といった対応を速やかに行えないのであれば、リーダーは現場にかかる負担を十分理解した上で、不安が払拭できるよう声がけの機会を増やしたり、会社の正確な現状を説明したりといった対応を意識しよう。

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監修

沢渡 あまね

あまねキャリア代表取締役CEO

1975年生まれ。作家、企業顧問、ワークスタイルおよび組織開発専門家。「組織変革Lab」主宰。ダム際ワーキング協会共同代表、大手企業 人事部門・デザイン部門ほか顧問。プロティアン・キャリア協会アンバサダー、DX白書2023有識者委員。日産自動車、NTTデータなど(情報システム・広報・ネットワークソリューション事業部門などを経験)を経て現職。400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。趣味はダムめぐり。#ダム際ワーキング 推進者。組織改革・マネジメント変革に関する著書多数。

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