昭和の文豪・太宰治を訪ねて
津軽[ 青森県 ]
- 太宰治
- 斜陽館
- 芦野公園
- 雲祥寺
- 走れメロス号
昭和を代表する文豪のひとり、太宰治。
皮肉やユーモアを含んだ独特な文体により
人間の内面を深くえぐり出す描写が
時代を超えて今なお、読者を引き付けてやまない。
作品は自身の生い立ちや日常を強く反映している。
太宰が生まれ育ち、執筆活動の重要な時期を過ごした津軽を訪ねた。
何不自由のない暮らしの中で
苦悩を募らせた津軽での日々

太宰治記念館「

建てた当時、津島家は約4万円の工事費をかけた。現在の貨幣価値では5億円に相当する。主要部材には日本三大美林に数えられるヒバが使われた。明かり取りの窓を備えた吹き抜けに広がる板間、巨大で絢爛豪華な仏壇を納める仏間など、大きく剛健な造りに目を見張る。凝った細工が施された欄間など細部の造作も抜かりなく、見どころが豊富だ。

右/欄間にも趣向を凝らした精巧な造作が見られる
斜陽館は、
しかし、太宰はこの家に対し、

左下/階段踊り場の天井は寄木細工の美しい幾何学模様が印象的だ
右下/階段の手すりなど細部に至るまでこだわりを感じる

右/右から3番目の漢詩に着目したい。最後に「斜陽」とある
2階にある母・
蔵の一部は展示室として、太宰の遺品や書簡といった資料を展示する。小説『走ラヌ名馬』の直筆原稿からは、短い生涯で数多くの作品を生み出した太宰の文学にかける情熱が伝わってくる。

左下/展示室には、太宰が着用したマントなど貴重な品が並ぶ
右下/赤煉瓦の塀に囲まれた敷地には、泉水を配した見事な庭園もある
斜陽館から徒歩20分ほどで

左下/2009年に太宰生誕100年を記念し建立された太宰治銅像
右下/太宰治文学碑には太宰が好んだヴェルレーヌの詩が刻まれている
芦野公園内には津軽鉄道が走る。「走れメロス」の愛称で親しまれるオレンジ色の気動車だ。桜並木のトンネルを走り抜ける芦野公園駅は、観光名所として知られる。

芦野公園駅には、1930年に建てられ約45年間使用された「津軽鉄道旧芦野公園駅本屋」が保存されている。『津軽』に登場する芦野公園駅は、同本屋が現役だった頃のものだ。現在は喫茶店「駅舎」が管理・運営し、切符の販売も担う。切符は今ではめったに見かけなくなった厚紙タイプの硬券だ。旅の記念に購入する人も多い。津軽鉄道はおおむね1時間に1本、上下線のいずれかの気動車が発着する。コーヒーを味わい、太宰の本を繰りながら、ゆったりと気動車を待つのも一興だ。


左下/駅舎の元の構造をそのまま生かした喫茶スペース
右下/切符は硬券。専用のハサミでパチンと切れ込みが入れられる
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