偉人の軌跡をめぐる旅

    高幡不動尊の総門を入ってすぐ、出陣姿の土方歳三の銅像が参拝客を迎える

    室町時代に建立された不動堂。左奥にそびえるのは1980年竣工の五重塔だ

    不動明王像を中心に、右に矜羯羅童子、左に制吒迦童子が控える丈六不動三尊像

    「乃武乃文」の額が掛かる玄関の間で、土方は昼寝をしたと伝わる

    偉人の軌跡をめぐる旅

    誇り高き幕末のリーダー・土方歳三を訪ねて
    日野[ 東京都 ]

    • 土方歳三
    • 新選組
    • 高幡不動尊
    • 日野宿本陣
    更新

    幕末の激動を駆け抜けた土方歳三は、日野の農家に生まれ育った。
    新選組の副長として局長の近藤勇を支え、規律を重んじる精神と
    冷徹な判断力から、小説では「鬼の副長」として描かれた。
    文武を磨き上げ、武士になる夢に向かって突き進んだ土方の
    故郷での足跡をたどる。

    武士になりたい一心で
    剣術の腕を磨く若き日々

    高幡不動尊(たかはたふどうそん)は、東京都日野市を代表する名所として知られる。大宝年間(701〜704年)以前の創建とされる真言宗智山派別格本山(しんごんしゅうちさんはべっかくほんざん)の寺院だ。関東三大不動の一つに数えられ、正式名称を高幡山明王院金剛寺(たかはたさんみょうおういんこんごうじ)という。
    高幡不動尊は土方の菩提寺だ。総門を入ってすぐの弁天池のほとりには、出陣姿が勇ましい土方歳三(ひじかたとしぞう)の銅像が立つ。

    高幡不動尊の総門を入ってすぐ、出陣姿の土方歳三の銅像が参拝客を迎える

    土方は1835年、現在の東京都日野市石田の豪農の家に10人きょうだいの末子として生まれた。出生前に父を、6歳で母を亡くし、家督を継いだ次兄夫婦に育てられる。少年時代はかなりやんちゃで「バラガキ」と呼ばれたとされる。触ると怪我をしてしまう、鋭い(とげ)を持つ(いばら)のようなやんちゃ者だったという。高幡不動尊の山門によじ登り、参拝客に野鳥の卵を投げつけたとの伝説も残る。
    土方は少年期から「武士になって名を馳せる」という夢を抱いていたという。高幡不動尊の境内も剣術の稽古場としてよく使ったとの話もある。

    堂々たる威容(いよう)の仁王門は、室町時代の建築と推定される
    左/境内に隣接する高幡山では、起伏に富んだ遊歩道で森林浴ができる
    右/山内八十八ヶ所巡拝路をたどれば、八十八体の弘法大師像を巡拝できる

    高幡不動尊の敷地は、隣接する山林を含めて約3万坪と広大だ。見どころも多い。
    仁王門は、国指定重要文化財に指定されている。扁額(へんがく)「高幡山」は、江戸時代初期の高名な僧侶・運敞(うんしょう)の筆による。門の左右に立つ一対の金剛力士像は参拝客を魅了する。

    境内に隣接する高幡山には遊歩道が整備され、森の中を散策できる。点在する八十八体の弘法大師像を順にめぐる「山内八十八ヶ所巡拝路(さんないはちじゅうはちかしょじゅんぱいろ)」は、四国八十八ケ所を模した巡拝(じゅんぱい)コースだ。

    不動堂は、仁王門同様、国指定重要文化財に指定されている。不動堂では護摩木(ごまぎ)と呼ばれる特別な(まき)を焚きながら祈る。真言密教(しんごんみっきょう)独特の修行だ。一般客も参加できる。
    土方家は、高幡不動尊の特別な檀家(だんか)とされている。境内の最奥部にたたずむ大日堂には、土方の位牌と新選組(しんせんぐみ)隊士の大位牌が安置されている。毎年5月の新選組まつりでは慰霊法要が行われる。

    上/室町時代に建立された不動堂。左奥にそびえるのは1980年竣工の五重塔だ
    左下/境内を進むと山門が現れる。江戸時代に大火で焼失したが再建され今に至る
    右下/最奥部の大日堂内には、土方歳三の位牌と新選組隊士の大位牌が安置される

    奥殿にまつられる不動明王像(ふどうみょうおうぞう)は必見だ。右に矜羯羅童子(こんがらどうじ)、左に制吒迦童子(せいたかどうじ)が控え、三像合わせて丈六不動三尊像(じょうろくふどうさんぞんぞう)と呼ばれる。国指定重要文化財だ。

    不動明王像を中心に、右に矜羯羅童子、左に制吒迦童子が控える丈六不動三尊像

    不動明王像はヒノキ材とカヤ材を使った寄木造(よせぎづくり)で、高さは約2.8mもある。関東地方唯一の平安時代作の巨像だ。矜羯羅童子はホオ材、制吒迦童子はトチ材から成り、三像の総重量は1.1トンを超す。
    不動明王像が正統的な作風を示す一方、矜羯羅童子と制吒迦童子の両像はユーモラスなポーズが印象的だ。圧倒的な迫力、不動明王像と童子像との対比、歴史的な価値から、丈六不動三尊像は多くの参拝客の崇敬を集める。

    不動明王像をまつる奥殿は、文化財や寺宝の展示室を併設する。展示物は不定期に入れ替わるが、土方直筆の手紙の他、交わりの深かった幕末名士の書軸など、貴重な資料を閲覧できる。

    上/丈六不動三尊像をまつる奥殿。文化財や寺宝の展示室を併設する
    左下/高幡不動尊と新選組の関わりを紹介する展示室
    右下/土方の旗印「東照大権現(とうしょうだいごんげん)」や幕末名士の書軸も展示される

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