リーダーたちの羅針盤

地域の灯りを消してはならない
淡路島の魅力、追求し続ける

ホテルニューアワジ
木下 学代表取締役社長

宿泊施設の買収・再建で業績拡大してきたホテルニューアワジ。
背景にあったのは「会社のため」よりも「地域のため」という強い思いだった。

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この記事のポイント

  • 淡路島を中心に19の宿泊施設を経営する、ホテルニューアワジの木下学社長
  • ホテルや旅館を買収して再建し、地域経済の活性化に貢献
  • 首都圏、さらに海外にも淡路島の魅力を発信していく

私がホテルニューアワジに入社した頃、日本は景気後退が進み、企業の倒産が急増。兵庫県・淡路島でも、廃業の危機に直面している旅館が出ていました。旅館が廃業してしまうと、淡路島はどんどん元気をなくしてしまう。ホテルニューアワジの女将でもある私の母は、それを懸念して「地域の灯りを消してはならない」と言い続けていました。思えば、そこがスタート地点だったのかも知れません。今もその思いを胸に、常に「地域のため」を考えながら経営をしています。

淡路島は、瀬戸内海に浮かぶ最大の島で、豊かな自然が多く海と山のレジャーが楽しめます。神戸・徳島と橋でつながり、アクセスが良いのも特徴です。食の宝庫としても知られており、玉ねぎや淡路ビーフ、タイやタコ、ハモなど数々の淡路島ブランド食材があります。

ホテルニューアワジは、この淡路島を中心に西日本エリアに19の旅館・ホテルを展開しています。

私は1998年、29歳のときに当社に入社し、2015年から代表取締役を務めています。母方の祖父が創業者ではありますが、私自身は大学卒業後すぐには入社せず、株式会社ロイヤルホテルに就職して約7年間勤務しました。

旅館を家業とする家に生まれ、旅館が生活の場でもあったため、子どもの頃からごく自然に「将来はこの仕事に就くのだろう」と思っていました。ただ、就職先にホテルを選んだのは、人としての学びのためでした。貪欲に学べる環境で成長したいとの思いから、応募した数社の中で最も活気ある社風に魅力を感じたロイヤルホテルに就職しました。

ロイヤルホテルでは、いろいろな仕事に携わりました。入社4年目ぐらいまでは、料飲サービス、ベルボーイ、ハウスキーピングを経験。後半の約3年間は、営業として企業や旅行会社を回りました。ホテルの現場でもまれ鍛えられた経験は、社長になった今も生きています。

買収・再建を繰り返し成長

大阪からのアクセスも良く、手軽にリゾート気分が満喫できる施設として、関西圏の知名度は抜群だ

ホテルニューアワジへの入社を考え始めたのは、社会人5年目ぐらいでした。それまで自分の進路について親に相談したことはなく、この時に初めて社長(現会長)である父・木下紘一に相談しました。回答は予想外にも、「そんなに急ぐ必要ないんと違うか?」でした。もっと経験を積むべきではないか、という意図だと捉えました。こうして、そこから約2年間、さらに業務にはげみ、成果を出すこともでき、ビジネスパーソンとして濃い時間を過ごせました。

そして、1998年の元日からはホテルニューアワジで働き始めました。このタイミングで淡路島に戻ったのは、その年の4月に本州と淡路島を結ぶ明石海峡大橋が開通予定だったからです。本州からのお客さまが増えて忙しくなる。会社として大きな転機になると考えたのです。

入社して1カ月半がたった2月中旬、すぐに大きな仕事が回ってきました。父から「今月最終週の予定を空けておくように」と言われ、何があるのかと思ったら、「ホテルプラザ淡路島」の買収契約の話だったのです。

その帰り道、「明石海峡大橋が4月5日に開通するから、5月1日に『ホテルニューアワジプラザ淡路島』として開業させる。自分は改装に取り掛かるから、お前はすぐに採用にかかれ」と言われました。残された時間は1カ月ちょっとです。必死で従業員集めに奔走したのを昨日のことのように覚えています。

その後、2004年に旅館「四州園」を買収して「淡路夢泉景」をオープンし、以来1~2年に1件のペースでホテルや旅館の買収・再建に取り組みました。

これまで16の旅館・ホテルの再建に関わってきましたが、実は当社から買収を仕掛けたものは1つもありません。すべて先方、もしくは取引先金融機関からの打診がきっかけです。淡路島内での買収・再建で実績ができたため、その話が伝わり島外から話が来るようになりました。

2007年には、四国のこんぴら温泉郷にある「琴平花壇」(香川県)を買収し、初めて淡路島以外のエリアにある旅館をグループ化しました。当時、観光地としての知名度は、淡路島よりも琴平のほうが圧倒的に上でした。それにもかかわらず当社に声を掛けていただいたことを光栄に感じ、一生懸命、再生に取り組みました。

次に大きなチャレンジとなったのが、2011年の「神戸ベイシェラトン ホテル&タワーズ」の買収です。旅館業界から大いに注目され、期待が寄せられているのを感じました。そこで、それまでメインターゲットだったビジネス客ではなく、レジャー客の取り込みに注力。兵庫県内の食材を生かしたメニュー開発を行い、新しく温泉を掘ったり、浴衣で館内を移動できるような専用エレベーターを設置するなど、インターナショナルホテルに日本旅館の良さを加え、魅力的なホテルに進化させました。

地域の活性化に貢献

宿泊施設の買収・再建は、決して簡単なものではありません。

それでも、当社が買収・再建に取り組み続けるのは、地域経済への強い思いがあるからです。ホテルの経営だけではなく、地域経済全体の発展を考えないと、地域から認めてもらえず、真の地域貢献にはならないと肝に銘じています。

宿泊に来たお客さまが、その土地の食事、観光、温泉、お土産などに魅力を感じ、また足を運んでくだされば、どんどん地域が活性化します。

そもそも旅館・ホテル業は、地域の魅力で成り立っています。ホテルニューアワジも、淡路島の新鮮な食材や豊かな自然、観光施設に支えられて、今があります。地域に生かされている事実を、決して忘れてはいけません。

「地域」とは淡路島に限った話ではありません。淡路島以外の施設でも、それぞれの地域の資源を生かして、もっと地域がイキイキと輝けるよう貢献したいと考えています。

現在、淡路島を訪れるお客さまの多くが、関西にお住まいです。今後、首都圏や海外からのお客さまの誘致を考えると、淡路島だけを目的地として訪れるケースは少ないでしょう。関西観光、もしくは瀬戸内観光の一環として観光誘致を考える必要があります。

ホテルニューアワジグループは淡路島を起点に考えると、南西の香川に琴平花壇など2施設、そこから北に行った岡山にも2施設を保有しているので、これと神戸・淡路島をつなげると1つの円が描けます。一方、淡路島から東に目を向けると京都と滋賀にグループホテルがあるので、例えばそのまま南に下った三重や奈良あたりに施設があれば、淡路島をつなげてもう1つの円が描けます。この円に沿って当グループの施設を転々としながら、複数の観光地を巡っていくことができます。

働きやすい環境を整備

関西だけではなく、関東からも足を運ぶだけの魅力がある施設、料理、そしてサービスを目指す

会社の規模が大きくなると、抱える従業員数も多くなります。ホテルニューアワジだけでも550人以上の従業員が働いています。

彼らにやりがいを持って働いてもらうには、働きやすい環境整備が大切だと認識しています。そのため、接客研修や外国語研修、全国の有名宿泊施設への研修旅行や、接客や調理のコンテスト、キッチンアカデミーなど各種研修プログラムを充実させているほか、寮や社宅の整備など福利厚生制度の拡充も図っています。そして今後は、「働きがいの追求」にも力を入れていきたいと考えています。

当社は阪神大震災、新型コロナウイルスの流行という2度の外的要因による経営危機がありました。特にコロナ禍で改めて気付かされたのは、宿泊施設には「人と地域を元気にする」大きな役割がある、ということでした。

淡路島は、全国的にも比較的コロナの感染者数が少なく、コロナ禍でも近隣のお客さまが大勢来てくださいました。長きにわたるステイホームで疲れ切ったお客さまが、羽を伸ばしておいしいものを食べたり、温泉にゆったりつかったりして笑顔になっていく様子を目の当たりにして、宿泊施設は心の健康を取り戻す場所だと再確認させられました。

お客さまが笑顔になるのは、施設の魅力やレベルの高い接客サービスはもちろん、「地域においしい魚やお肉、野菜などがある」からこそだと考えます。当社は第一次産業と密接な関わりがあり、地域そのものを元気にすることが可能です。

従業員一人ひとりが、この重要な役割を実感できれば、誰もが働きがいを感じイキイキ輝ける。そのためにも、従業員には私たちの役割や介在価値を伝え続けたいと思っています。

淡路島の魅力を広く伝える

会社としての今後の展開についてよく質問されますが、関西エリア以外への進出はあまり考えていません。それよりも、淡路島をいかに盛り上げるかに重点を置き、常に思考を巡らせています。

ホテルニューアワジグループは、淡路島だけでも11の旅館・ホテルを所有しています。その淡路島に来るお客さまの多くは近畿圏在住の方です。日本全体の人口減少が顕著で、このままではお客さまの数も必然的に減っていくでしょう。今後の課題は、首都圏のお客さま、さらに海外のお客さまに対して、淡路島の認知度を上げることだと考えています。

淡路島の自然や食、温泉などは魅力的なものだと自負しています。それを存分に楽しんでいただけるよう、施設・サービスをさらにブラッシュアップし、広くアピールしていきたい。

例えば、地産地消に徹底的にこだわったメニューをつくる。淡路島ならではの体験型コンテンツを開発する。"ここでしか味わえないもの"を多数提案したいと考えています。

こうした努力を積み重ね、すでに来ていただいている関西圏のお客さまにも「以前よりさらに良くなった」と思ってもらえるようにする。既存のお客さま、新規のお客さま、両方に喜んでいただける施設になれば、より地域にも貢献できるはずです。

地域のさらなる活性化を目指し、追求し続けたいと思っています。

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「私たちが
役割を果たすことで
人と地域が元気になる」

木下 学

京都産業大学卒業後、ロイヤルホテルに就職。料飲サービスやハウスキーピング、営業など幅広い業務を経験する。その後、1998年1月にホテルニューアワジに入社し、「ホテルプラザ淡路島」など数々の旅館・ホテルの買収・再建を成功させる。2006年に専務取締役、2015年に代表取締役社長に就任。

企業情報

社名
株式会社ホテルニューアワジ
事業内容
ホテル・旅館・レストラン経営
本社所在地
兵庫県洲本市小路谷20番地
代表者
木下学
従業員数
574人(2023年12月現在)