日本の常識は世界の常識にあらず

意外と知らない世界の文化

中国は食と個を
大切にする

中国の食事マナー

中国の国旗
国名
中華人民共和国
面積
約960万km2
人口
約14億人(2023年時点)
首都
北京
公用語
中国語
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更新

この記事のポイント

  • 中国では、お酒を飲みに店へ行く文化は一般的ではない
  • ホストはゲストを喜ばせることに注力し、食事で人間関係を深める
  • 組織より個人の関係を重視し、熱情(ルーチン)を大切にする

主役は料理で酒は二の次

「とりあえず、ビールとギョーザ!」「冷やし中華とハイボールね」

町中華によくあるやり取りだが、実際に中国で目にすることはほぼない光景だ。基本的に中国ではギョーザといえば水ギョーザを指す。冷やし中華もなければ、ハイボールもない。お酒を飲むために飲食店に立ち寄る発想自体がない。

中国の人と接する際に知っておきたいのが、中国人にとっておいしい食事をごちそうする=大切なおもてなしの一つだということだ。中国では食事をしながら人と交際を深め、時には仕事相手との関係を構築する。

実は中国には英国のパブやスペインのバル、日本の居酒屋のような場はほとんどなく、酒が主役で料理は二の次となる会合にはなじみがない。仕事終わりに飲みに行く習慣もなく、誘うなら「飲み会」ではなく「食事会」としたほうがしっくりくる。

もちろん、食事中に酒を飲む宴席もある。その場合は、何かに対して「乾杯」するのが基本だ。「皆さんの健康のために」「新しい出会いに」「お誘いいただいたことに感謝して」など、その場の雰囲気に合った一声と共に全員で乾杯する。また、手酌もなるべく避けたい。空になったグラスに気付けなかったことになり、相手のメンツをつぶしてしまうからだ。

回転台は共有部のため、自分の箸や皿は置かず、またスープや麺類は音を立てずに食べるのがマナー

食事においては、料理を褒めることが重要だ。特にゲストとして招かれたら、出された料理を褒めるのがホストへの謝意を示す作法と心得たい。ホストは、ゲストに満足してもらいたい一心で、料理が足りないと感じさせるくらいなら、食べきれなくて料理が残ったほうがよいと考えられてきた。一般的に中国の食事では、取り皿の料理は食べきってしまってよいが、日本のように、食べきらないとホストに失礼とか申し訳ないという意識はない。昨今はSDGsの流れもあり、中国でも食べ残しを減らす取り組みが進む。特に都市部を中心に意識は変わってきているようだ。

変化という点でいうと、大皿で提供するケースが多い中国の食事シーンにおいて、以前はホストが自分の箸でゲストの分を取り分けることが頻繁に行われていた。ただ、今は衛生面から取り分け用の箸の使用も普及し、各自で取る形が増えているという。

食事中にお茶は飲まない

中国人に食事を提供する際に知っておきたいのは、冷たい料理が好まれないことだ。これは、料理とは火を通した温かいものであると考えられているため。一部の前菜などで例外があるものの、基本的に冷たいものを食べる習慣がない。たとえ高級料亭の仕出しだとしても冷たい弁当を渡されたら、中国の人は少なからず冷遇されたと感じる。コンビニのおにぎりなども同様だ。そういうときは、少なくとも温かいスープを添えるなどの心配りをしたい。

なお、中国ではお茶や水を食事中には飲まない。消化によくないと考えられているようだ。ちなみに、四川や広東など地域によって料理に違いがあるように、飲み物も地域差がある。例えばお茶の場合、北京など北部ではジャスミンティーなど花茶が好まれる。広東省ではプーアール茶など後発酵茶、福建省ではウーロン茶が基本だ。ビールは常温という地域もある。紹興酒は上海など一部の地域以外ではほぼ飲まれない。酒も地域性が色濃く出る。

食器の取り扱い方の違いも知っておきたい。日本も中国も共に箸を使うが、お茶わんなど食器を手に持って食べる日本に対し、中国では食器を持ち上げずテーブルに置いたまま食事をする場合が多い。西洋料理と同じスタイルだ。円卓の大皿から料理を取るときも、皿はテーブルに置いたままが基本となる。円卓を回すときは、料理を取っている人がいないのを確認して"時計回り"に動かすのがマナーだ。

また中国では料理ごとにバンバン取り皿を替え、エビの殻や魚の骨は皿ではなくテーブルの上に直接置くのが一般的。こうした習慣の違いを知らなければ、はたから見た日本人は行儀が悪いと思いがちだ。だが、実は自国のマナーに沿ったものなのだ。

"ルーチン"で動く中国社会

中国では自分がコーヒーを飲みたくなったら、周囲にも声をかける。見習いたい習慣だ

ビジネスにおいても理解しておくべきことがある。その一つが中国でいわれる「関係あり、組織なし」という言葉だ。日本では組織ありきで、同じ会社や部署にいればその一員として、行動を共にするのを当たり前のように考えがちだ。時には家族やプライベートな関係より、仕事優先も致し方なしと受け入れる。

しかし中国では、組織よりも個人の関係を大切にして考え、行動する。なかでも、熱情(ルーチン)を大切にする。ルーチンとは、心がこもった親切や熱意ある対応といったニュアンス。例えば、中国では仕事の途中にコーヒーブレークしようと思ったら、自分の分だけではなく、周囲の同僚に「コーヒー飲まない?」と声をかける。レストランのテーブルでナプキンを使いたいと思ったら、同じテーブルにいる全員にも配る。相手を気遣っているのが伝わるように、行動で示すことが大切と考えるのだ。

少し親しくなると、一緒に食事をして関係性を深めていくのが一般的。その際、中国では基本的に割り勘をしないということも認識しておきたい。「水臭い、そんなことまでして割り切りたいのか」と思われ冷淡な人と判断されてしまう。では、どうすればよいか?

誘ったほうがごちそうし、次は誘われたほうがごちそうしましょう、と交互になるようにすればよいのだ。

こうした個人的なやり取りを積み重ね、次に続く関係性を築きたい思いを端的に表すのが、中国語の「再見(ザイジェン)=さようなら」だ。中国人は再び会おうと言い別れる。日本語のさようならも、元は「左様ならば、のちほど」と、再会を表す言葉と共に使われていたが、近世後期以降、独立した別れの言葉として一般化した。

言葉を省略し、言外に思いを残して別れるのは日本的な美しい表現ではある。一方で「以心伝心」「言わずもがな」など、言葉を省く日本のコミュニケーションは、中国の人だけでなく、グローバルな社会では行き違いや誤解を生みかねない。相手の文化を理解する努力と共に、思いが分かってもらえるように行為や言葉で伝えていくことが大切だ。

監修

川口 幸大

東北大学大学院文学研究科教授