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大渋滞は
ベトナムの名物

ベトナムの交通事情

ベトナムの国旗
国名
ベトナム社会主義共和国
面積
32万9241km2
人口
約9946万人(2024年時点)
首都
ハノイ
公用語
ベトナム語
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  • 交通事情
  • ビジネスマナー
更新

この記事のポイント

  • ベトナムで車のクラクションは注意喚起。使わない方が危険とされる
  • 短い距離でもバイクや自転車を使う。基本的に歩かない
  • 勤勉で家族を大切にする。南北で気質や文化に異なる点がある

クラクションが交通マナー

ベトナムの朝は早い。5時くらいから人々は動き始める。通勤・通学の時間帯ともなれば、街は騒がしさに一層包まれる。バイクと車が「これでもか」と道路を埋め尽くし、鳴り響くクラクションは途切れることがない。

ベトナムといえばバイクが多いイメージだが、近年は車も急増している

日本ではクラクションはよほどのときを除き鳴らさないが、ベトナムでは日常茶飯事で用いられる。主な目的は、「ここにいるよ」とか「今から通るよ」といった注意喚起だ。自分の存在を示し、事故を防ぐ交通マナーに該当する。ベトナム人からすれば、クラクションも鳴らさず車が通り抜ける日本の方が危険と思うかもしれない。

ベトナムでは歩行者より車両が優先される。そのため、歩行者は信号のあるなしにかかわらず、洪水のような車両の流れの中を横断する。広い通りを泰然自若とした様子で道路を渡る高齢者も多い。危険な行為には違いないが、バイクと横断者の間には"あうんの呼吸"がある。横断者のスピードを見越しながら、巧みに走り抜けるバイクの様子は見事ともいえる。ただし、自動車はこうした動きが難しい。今後は車が増えるにつれ、こうした絶妙なコンビネーションは変化するかもしれない。

大人も子どももバイク

ベトナムの人々は基本的に歩かない。理由としてはすさまじい交通渋滞や、整備が追いつかない道路事情からくるほこりや排ガス、強すぎる直射日光があるようだ。公園でウオーキングをする人々は見かけるものの、移動手段として"歩く"選択肢はないに等しい。

通勤や通学はもちろん、ちょっとそこまで出掛けるときもバイクで移動する習慣が根付く。自動車はというと、ベトナムの国産車が登場したものの高額でなかなか広まらない。交通手段の主流はバイクだ。バイクは自家用の他に、「XE ÔM(セーオム)」と呼ばれる2人乗りのバイクタクシーがある。セーオムは昔ながらのベトナムの足だ。通勤や通学、通塾にも使われる。広い十字路などに常駐し、近頃は配車アプリが活用できる。キャッシュレスで支払え、利便性が増しているようだ。旅行者でも宿泊しているホテルに相談すれば、アプリをダウンロードしてくれる。使いやすく、白タクにだまされる心配もない。ただし、乗る際は振り落とされないよう十分注意が必要だ。

バイク以外に街で目立つのが電動自転車だ。ホーチミン市などではシェアサイクルのサービスもある。見かけはバイクと同じだが、自転車扱いのため免許やヘルメットが要らない。歩かない習慣は子ども世代も同様で、小学生くらいの子どももよく乗る。

なお、バイクは遠距離・複数人の交通手段としても活躍する。例えばテト(旧正月)で4人家族が田舎に帰省する場合は、お父さんが運転しお母さんが一番後ろに座って、間に子どもたちを挟み大荷物を抱えて乗るスタイルがごく当たり前だ。結構な距離をバイクで移動する。

メトロの利用にもバイク

建物スレスレを走る電車はハノイの観光名所の一つ

他の交通手段に目を向けると鉄道の代表として、北のハノイ駅から南のサイゴン駅までを結ぶ国営の南北統一鉄道がある。路線距離1726km、起終点を含む駅数は168あり、片道30時間強をかけて国を縦断する。車窓を楽しみながらのんびり旅をするには最適だが、同距離を約2時間で移動する飛行機と料金がさほど変わらない。ビジネス利用では飛行機に軍配が上がる。ちなみに、鉄道は距離が長く運行が遅延しがちなため、終着駅近くになると遅れを取り戻すべくスピードが上がるといううわさもあるようだ。バスに関しては、時刻表があまり明確ではない上、路線が頻繁に変更されるのが難点だが、運賃が安く便利な乗り物といえる。

地上の大渋滞を解消すべく政府が進めるのが都市鉄道(地下鉄)だ。2021年にはベトナム初の「ハノイ都市鉄道」が操業、24年7月には「ホーチミン都市鉄道」1号線が開業を予定している。前者は中国企業が、後者は日本企業がそれぞれ共同事業体を設立して取り組む。都市鉄道は今後も建設が進められるが、日常的に利用が進むには大きな課題がある。歩く習慣がないため、メトロの駅まであるいは駅から歩くのは面倒と考える人が多いからだ。ドア・ツー・ドアが可能なバイクが手放せず、政府の思惑と移動の文化がマッチしていない現状が懸念事項だ。

勤勉・真面目・家族思い

ベトナム人の国民性にも触れておこう。傾向として挙げられるのは勤勉なところ。知識欲や向上心が強く、言われたことは確実に成し遂げる。一方、自主的に動くことや新規提案はあまり得意ではない。これは儒教を根底とした教育の影響が大きい。上から言われたことを守る半面、自分を主張しない。この傾向は、若い世代の方が強いようだ。与えられたことを着実にこなす国民性は日本人との相性も良い。良きビジネスパートナーになる可能性は高い。また、家族や親族との絆に重きを置き、時には仕事より家族を優先する。こうした価値観も留意しておくと良い。

なお、ベトナムは南北方向に約1650kmという細長い国土のため、北と南では気候も文化も気質も違う。個人差はあるものの一般的な傾向としては、北部の出身者は生真面目で礼節を重んじ、相手によって敬語を使い分ける厳格さを持つ。親しくなるには少し時間を要するが、気心が知れると親密になる。一方、南部の出身者は誰に対してもフレンドリーで気さく。やや雑なところがあるが、おおらかで人懐こく商売上手が多い。日本における関東と関西との違いと捉えると、理解しやすいかもしれない。ベトナム出身者としてひとくくりにしない配慮が必要だろう。

監修

清水 政明

大阪大学大学院人文学研究科教授