日本の常識は世界の常識にあらず
意外と知らない世界の文化
韓国の食に見える
分かち合いの精神
韓国の食事マナー
- 国名
- 大韓民国
- 面積
- 約10万km2
- 人口
- 約5,156万人(2023年時点)
- 首都
- ソウル
- 公用語
- 韓国語
- 韓国
- 食文化
この記事のポイント
- 韓国では食事を通じて人と人が自然に親しくなることが重要視される
- ビジネスで食事に誘われたら関係構築のチャンス。迷わず受けたい
- 韓国人は行動が早く、思い立ったらすぐに実行するアクティブさが特徴
日本でも人気の韓国ドラマには、食事のシーンが多く出てくる。仲間や恋人、ビジネスの相手との食事、家族と囲む食卓、ヤケ酒を飲む屋台...そこには実においしそうな韓国料理の数々が並ぶ。その影響からか、日本でも韓国料理店が急速に増えており、食卓で韓国料理が出てくる機会も多くなってきてはいないだろうか?
ただ、「近くて遠い国」と呼ばれるように、その食からは日本との文化やマナーの違いも透けて見える。
食で育む共同体意識
韓国の食文化を知る上で重要なキーワードが、「ウリ」と「分かち合い」の2つだ。
ウリは韓国語で「私たち」という意味で、本来は自分たちのグループや集団を指す言葉だ。実際は、自分に身近な存在というニュアンスで使われるケースが多い。特に、家族や親しい友人を指すときによく使われる。
ウリという考えの中で重視されるのが食。その基本となっているのが、「一緒に食べる」という共同体意識だ。
韓国では人に会ったときに「パンモゴッソ?(ご飯食べた?)」とあいさつすることが多い。韓国において、親しい人と会って食事をする流れは、ごく自然なこと。食は人と人とをつなぐ大事な要素なのだ。
一方、「分かち合い」はユネスコ無形文化遺産に指定された「キムジャン文化」にも見て取れる。初冬になると親戚やご近所さんが集まって白菜や大根でキムチを漬ける。食物の少なくなる冬を、共同体で共に助け合って越そうという考え=分かち合いの精神を伝えるものなのだ。
韓国ではチゲ鍋のように、みんなでシェアして食べる料理が多いのも、分かち合いの精神が根底にあるからだろう。パッピンスと呼ばれるかき氷も、大きな器で提供される。これも仲間と一緒に食べるのを前提としているからだ。
「たくさん召し上がってください」というホスピタリティーを感じることも多い。日本の焼き肉屋でキムチを頼むと都度代金が発生するのが普通だが、韓国ではキムチのおかわりは無料が当たり前だ。
伝統的な食膳の中には、脚が曲線なものがある。これは重みで食膳の脚が曲がるほどの食事を出した、という気持ちが込められている。さらに、韓定食と呼ばれるコース料理では、様々な料理を盛った小さなお皿をたくさん並べる。これが韓国流のおもてなしなのだ。ただ、複数人でテーブルを囲むのが当たり前の韓国社会も変容しつつあるのが現状だ。昨今の都市化やコロナ禍の影響で、少しずつ「お一人様」が増えつつあるという。
色濃く残る儒教の教え
韓国での食事で理解しておきたいのは、伝統や礼節を重んじる儒教精神の思想が根底にあることだ。長幼有序(家や社会での秩序)は今なお色濃く残り、端的に言えば目上の人を敬う態度を忘れてはならない。
食事を始めるのは年長者からだ。酒を注ぐときも目上の人から始める。また、目上の人とお酒を飲むときは、体を横に向けて口元を隠して飲むのがマナーとされる。ちなみに、右手でお酌をする際に左手を腕に添えるのは、伝統衣装であるトゥルマギの袖を押さえて注いでいた名残りだ。お酌以外でも、店で食事を供される際やお釣りを渡される際など、様々なシーンで目にする動作だ。
「ウリ」の精神は、韓国人は割り勘をしないという点からも見て取れる。「誰かが払ってくれたら、次の機会にはこっちが払う」発想から来る慣習だ。ただし、この慣習も時代と共に変化しつつあり、最近の若者の間では割り勘も広がってきているという。
食事の作法についても、日本と大きく違う点がいくつもある。
例えば韓国では器を手に持って食べない。これは食器に木や陶磁器を使っていた日本と異なり、韓国では熱が伝わりやすい金属器を使っていたからだといわれている。
また、箸を使う文化であっても、日本のように「嫌い箸」といわれる箸の使い方にまつわるタブーはほとんどない。韓国での食事では匙(スッカラッ)と呼ばれるスプーンがメイン。これは、ビビンパのようにおかずとご飯を混ぜて食べる料理や、クッパのようにご飯と汁を一緒に食べる料理が多いからだ。箸を中心に食事をする日本と違い、韓国における箸の存在はあくまでも副次的で、さほど重要視されていないと考えられる。
韓国の歴史ドラマを見ていると、食事のときに女性が膝を立てて座っている姿に驚くかもしれない。これは、女性の伝統服であるチマ・チョゴリの美しさが映える座り方から来ている。なお、日本の食事に見られる正座は、昔の韓国では罪人の座り方だったことから敬遠される。
「まずやってみる」精神
ビジネスにおいても、共に食事することは重要だ。韓国人に「一緒に食事をしよう」と誘われたら、迷わずに行ったほうがよい。関係性の構築はそこから始まる。ウリの中に入り、いつか「ウリ山田さん」などと呼ばれれば、仲間として認められた証しと捉えて良いだろう。
相手に率直に物を言い、ぶつかり合いもいとわないコミュニケーションも映画やドラマでおなじみだ。自分の考えを声に出して主張する国民性といわれるが、近年それも変わりつつあり控えめな人も増えているようだ。
韓国人の大きな特徴として挙げられるのはアクティブさだ。思い立ったらすぐに行動する傾向がある。ビジネスでいうなら、事業の立ち上げが早かったり、日々のメールの返信が迅速だったりと、すべてがアクティブでスピーディー。その性格を象徴するのが、「シジャギパニダ」という韓国語だ。日本語にすると「始めたら半分終わったようなもの」という意味になる。だから、常に早く行動することを心掛ける。日本人からするとせっかちに映るかもしれないが、そういう背景があるのを理解しておくと良いだろう。
この精神は第2次世界大戦と朝鮮戦争を経て、軍事政権から民主化へとドラスチックに変化した社会変容と無縁ではないようだ。
韓国のITや家電、エンターテインメント企業は小さな国内市場に早くから見切りをつけ、グローバルに打って出て成功を収めた。現在、日本と韓国は地方格差や少子高齢化など同じような社会問題を抱えるが、次の一手へのアプローチは異なる。そうした違いから学ぶことは多いかもしれない。
朝倉 敏夫
国立民族学博物館名誉教授