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ネパール人の
適応力
ネパールの国民性
- 国名
- ネパール
- 面積
- 14.7万km2
- 人口
- 約3055万人(2022年時点)
- 首都
- カトマンズ
- 公用語
- ネパール語
- ネパール
- 宗教
この記事のポイント
- ネパール人は多少のことに動じず、工夫して現状を乗り切る能力が高い
- 早くから英語教育を受けている。他国に順応しやすいと言われる
- 真面目で一生懸命であるがゆえ、頑張り過ぎてしまう傾向がある
ネパールは南アジアに位置し、北東に中国、南西にインドが隣接する内陸国だ。北海道の約1.8倍という国土の中に、世界最高峰のエベレスト山を擁する雪に覆われたヒマラヤ山脈から、チトワン国立公園をはじめとする亜熱帯ジャングルまで、多様で豊かな自然を有する国として知られる。
そんな雄大な自然に囲まれたお国柄なのか、「急に電気が止まった」「時間通りにバスが来ない」という、日本人ならヤキモキしがちな場面でもネパール人は焦らない。「ケーガルネ」(ネパール語で「どうしようもないね」の意味)と割り切って、おしゃべりに興じたり、スマホで遊んだりして、不測の待ち時間をマイペースに楽しむ。
水や電気といった基礎的なインフラや交通機関のシステム整備が遅れているネパールでは、思い通りにいかない暮らしが普通だ。加えて、厳しい自然環境や気候の変化の影響で、災害に遭ったり農作物の収穫量が減少したり飲料水が不足したりすることも珍しくない。
それゆえにネパールの人々は、ままならない状況に対する適応力が高い。多少のことには動じず、現状を乗り切る手段や工夫を見いだす能力にたけている。
スマホやITといった新しいものや海外の暮らしへの関心も高い。それらを生活にうまく取り入れる柔軟性を併せ持つ。田舎でヤギを追いながらスマホで家族と通話する高齢者や、国内外関係なくSNSを通じてパートナーを探す若者の姿が、ごく当たり前の風景になりつつある。
ネパール人が大好きな祭りの様式も、時代に合わせて変化している。ヒンズー教の祭りだけではなく、仏教であったり、キリスト教の祭典であるクリスマスもイベントとして楽しむ。変化の波を柔軟に乗りこなすのは、ネパールが140を超える民族・カースト集団で構成されている国であり、また多宗教国家という側面もあり、多様な文化や習慣の違いを経験してきたことも要因の一つと言える。
家族のために努力
早くから英語教育を受け、海外志向が強いネパール人は、他国での暮らしにも順応しやすいといわれている。その理由も生活で培われた適応力の高さによるものだろう。
ネパールでは労働人口の約6割が農林水産業に従事している。しかし経済発展の遅れや気候の影響で安定した収入を得にくく、国内での就業機会も少ない。そのため「いい仕事に就きたい」と考える若者は、海外に就労先を求める傾向がある。
留学する若者も多い。留学で日本語学校に来るネパール人の約9割は、アルバイトをしながら専門学校にも通い、就活を有利にするスキルアップに励んでいる。
慣れない環境下でも勤勉に努力を重ねる原動力は、「家族にお金を送りたい」思いにほかならない。家族のつながりを大事にするネパール人は親類縁者とのつながりも強く、父母、兄弟姉妹、子どもに加え、両親の兄弟姉妹やいとことも緊密な関係を維持していることが多い。両親に対する思いやりの気持ちはひとしおだ。たとえ同じ家に住んでいても頻繁に連絡を取り合い、お互いの状況を常に把握し、何かあったらすぐにかけつける。
親世代も子どもの将来を考え、できるだけいい学校に入れようと手を尽くす。親類縁者が支援して他国に送り出したり、現地で暮らす親族が生活をサポートしたり、一丸となって支え合う。この慣習は一族が生き抜く"生存戦略"といっても過言ではない。
人懐こく面倒見が良い
家族以外にも仲間意識や思いやりの気持ちが強く、義理堅いのもネパール人の魅力だ。人懐こい人が多く、地域社会になじむ努力を惜しまない。地域の人とのつながりを持つために料理教室を開いたり、現地で暮らすネパール人同士でコミュニティーを築いたりするケースも少なくない。
中でもエベレストの麓を故地とする民族「シェルパ」は、人をもてなすことを好む。よくお世話になった人を食事に招いたり、家族に紹介したりする。
彼らはコミュニケーションを取る際に、当たり前のような顔で年齢を聞いてくる。日本ではマナー違反と捉えられかねないが、もちろん悪気があるわけではない。ネパールでは「年長者を敬い、年下の面倒を見る」文化がある。相手の年齢に合わせ、誠実に対応するための質問なので、気を悪くせずに答えてあげよう。
ビジネスでは個人を尊重
ネパール人と一緒に働く上で、押さえておきたいポイントを見ていこう。
まず「ネパール人だから」とひとくくりで考えないこと。多民族国家で民族ごとに文化が違う。「こうだろう」と決めつけるのは厳禁だ。
特に気を付けたいのが食事面だ。ネパール人の8割は牛を神聖なものとして崇めるヒンズー教徒だ。信仰上の理由により牛肉はもちろん、牛肉由来の脂、ゼラチンも口にしない。加えて、飲酒、豚肉、魚、卵などを敬遠する人も多い。
その一方で"日本にいる間だけ"好きなものを自由に飲み食いする人もいる。とにかく個人差が大きいため、必ず本人の意思にゆだねる。親切心であっても、「おいしいから食べてみて」と強要するのはハラスメント行為にも取られかねないので注意したい。
また、他人の"唾液"は穢れとされる。そのため回し飲みや食べかけのものを共有するのも論外だ。一緒に大皿料理を囲む際は、取り分け用のスプーンやフォークを使ってシェアしよう。
日本語とネパール語は文法構造が似ている。彼らにとって日本語を身に付けることはそれほど難しくない。ただ、会話はできても読み書きが苦手な人もいる。仕事面については、本人の得意分野を見つけたり目標を設定したりしながら仕事を任せると、粘り強く努力して道を切り開いてくれるだろう。仕事のやり方や必要性、就業時間のルールなどを明確に伝えればOKだ。
ただし真面目で一生懸命であるがゆえに、頑張り過ぎてしまう傾向がある。適応力はあるが、それゆえ働き過ぎる日本人のペースに合わせて無理し過ぎていないか、気遣うことも忘れないようにしたい。
森本 泉
明治学院大学 国際学部国際学科教授