日本の常識は世界の常識にあらず
意外と知らない世界の文化
麺料理はベトナム人を支える
ソウルフード
ベトナムの食文化
- 国名
- ベトナム社会主義共和国
- 面積
- 32万9241km2
- 人口
- 約1億30万人(2023年時点)
- 首都
- ハノイ
- 公用語
- ベトナム語
- 意外と知らない世界の文化
- ベトナム
- 食文化
この記事のポイント
- 米麺、タピオカ麺、卵麺など、多種多様な麺が食べられている
- サッと食べられる麺の手軽さは、テキパキとした国民性に合う
- ベトナム人は、何かをしてもらったら必ずお返しをする義理堅さを持つ
ベトナムはインドシナ半島の東海岸に位置する。国土は南北に細長く、全長は約1650kmに及ぶ。
高温多湿な気候と肥沃な土壌に恵まれていることから、農業が盛んで食料自給率は160%に達する。特に米、コーヒー、コショウの生産量が多く、米の生産量は世界第5位、国内消費量は世界第4位を誇る。
主食は米。次いで好まれているのが麺料理だ。主に食べられているのは、「ブン(ビーフン)」「フォー(平麺)」「バインダー(幅広麺)」といった米麺である。他にも「ミー(小麦粉と卵を使った中華麺)」、「ミエン(緑豆春雨)」、タピオカ麺、卵麺など、多種多様な麺が浸透している。
中でも定番は「ブン」を使った料理だ。北部~中部エリアで食べられる、焼いた豚肉が入った汁にブンをつけて食べる「ブンチャー」、汁麺に揚げた魚をのせた「ブンカー」、トマトベースの汁麺に揚げた豆腐をのせた「ブンジウクウ」が有名だ。地域によって調理法や味付けが異なり、タウナギ、タニシ、サワガニといった、その土地ならではの食材を活用したご当地メニューも多く存在する。
麺に使われるスープは、野菜のゆで汁や肉類、魚介類のだしを生かしたシンプルな味わいに仕上げている。ほとんどの飲食店では料理を注文すると、コショウ、サテ(ベトナム風ラー油)、酸味を足すためのかんきつ類といった調味料セットが付いてくる。味付けが物足りない場合は、自分で好みの味に調整するのがベトナム流だ。
ベトナムの調味料を語る上で外せないのが「マムトム」だ。マムトムとは、塩漬けにしたエビを発酵させて作られた紫色の調味料だ。強い塩味とうま味を持つが、臭いが強烈でベトナム人の中でも好みが分かれる。隠し味として"ちょい足し"する使い方が一般的だ。これが食べられるとベトナム人との距離が一気に縮まるという。
慣れ親しんだ味を好む
ベトナム人が麺料理を好む理由は、メニューの豊富さやアレンジの幅広さだけではない。注目すべきはその価格の安さだ。ほとんどが自国の食材で作られ、外食でも1食当たり約300円で済む。そのため、1日3食すべてを外食で済ます人も珍しくない。
サッと食べられる手軽さも、テキパキとした国民性とマッチしている。通勤通学前の人々が早朝から屋台で麺を食べ、出掛ける姿は、ベトナムの日常風景でもある。
ベトナムでは約98%の夫婦が共働きで、外食率が高い。デリバリーやテークアウトも盛んに活用されている。毎日のようになじみの店へプラスチック容器を持参し、麺料理を持ち帰る人も多い。
ベトナム国内にも大手ファストフードの店が増えているものの、冷凍食材や加工食品の味に慣れていないためか、足を運ぶベトナム人はあまり多くない。食べ慣れない味に抵抗を感じるから、定番の麺料理を選ぶのではないかといわれる。
ベトナム人が地元の味にこだわるのは、地元で採れた食材を使う豊かな食文化があるからだ。ベトナムでは、野菜や肉、魚介類など、いつでも新鮮な食材を使った料理を楽しめる。料理の味付けがシンプルなのは、食材そのもののうま味がしっかりしているからだ。
新鮮な味に慣れているため、国外での食事がおいしくないと感じることも多いようだ。ベトナムの食材を扱う店で乾麺などの食材と調味料を購入し、自炊するケースも多いという。
それでも食事に誘うとベトナム人は喜んでくれる。彼らは"お一人様"があまり好きではない。来日中のベトナム人と関係を深めたいときは、食事情を配慮しつつ積極的に声をかけてみよう。
人との距離感が近い
ベトナム人は人付き合いが大好きだ。身近な人には積極的に声をかける気質がある。彼らにとって距離感の近さは親しみの証しだ。特に「ドンチー」(意味:同志)と認めた相手には、パーソナルスペースがほとんどなくなるほど距離を縮めて接してくる。
年齢や配偶者、子どもの有無など、プライベートな質問をしてくるのも親しみの表れだ。ベトナムには隠し事をせず、情報をオープンに共有する文化がある。そのため、年収や親の年金受給額といったデリケートな話題でも、悪気なく聞いてくることがある。特に、年齢は上下関係を重んじる彼らにとって重要な質問になる。ベトナムでは年上や目上の人に対する敬意を言葉遣いや態度で表す習慣があるからだ。
とはいえ、聞かれたすべての質問に答える必要はない。むしろ、話した内容は他の仲間とも共有され、拡散されやすいので、公にしたくないことはあまり話し過ぎないように注意したい。彼らなりの関係づくりの一環と捉え、対応するのが大切だ。
曖昧な物言いは通じない
ベトナム人との距離を縮めるには、こちらからコミュニケーションを取っていくと良い。このときに気を付けたいのが、彼らを下に見るような態度を取らないことだ。敬意を持ち同じ目線で接すると心を開いてもらいやすい。
日本人特有の曖昧な物言いも避けよう。ベトナム人には「暗黙の了解」や「空気を読む」といった感覚は通用しない。ダメなものはダメと伝え、良いものは褒める。彼らはそれらを素直に受け止め、仕事のモチベーションに変換する。
ベトナム人は人間関係が円滑であるほど、一生懸命働く傾向がある。恩義を大切にし、何かをしてもらったら必ずお返しをする義理堅さも彼らの持ち味だ。持ちつ持たれつの精神で支え合う関係を築く。人に頼るのが苦手な日本人も見習いたい。もし助けてもらう機会があれば「ありがとう」と喜んで受け入れ、行動で恩義を返していこう。
長坂 康代
敬和学園大学 人文学部 准教授