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意外と知らない世界の文化

中国の春節は
家族の絆を深める祝祭

中国人と伝統行事

中国の国旗
国名
中華人民共和国
面積
約960万km2
人口
約14億人
首都
北京
公用語
中国語
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この記事のポイント

  • 中国において「春節」は家族や親族が集まる最も重要な行事
  • 家族や同郷の絆を大切にし、助け合いや信頼関係を重視する国民性
  • 仕事面では福利厚生より、給与ややりがいを重んじる傾向がある

中国は、多様な文化や伝統が色濃く根付く国だ。日本の約26倍という広大な国土に50以上の民族が暮らし、地域ごとに異なる方言や考え方、風習が存在する。5000年以上の歴史を持つ中国には、古くから受け継がれている行事も多い。その中で、最も重要とされているのが「春節」である。

春節とは旧暦(陰暦)の正月のことだ。旧暦に基づくため時期は毎年異なる。おおよそ1月下旬~2月上旬で、大みそかを含めた7日程度が祝日に指定される。2025年は春節が1月29日、大みそかの1月28日から2月4日までの8日間が春節連休に定められた。期間中は国内全土がお祭りムードで盛り上がる。民家の入り口には縁起の良い対句を書いた赤い紙・(しゅん)(れん)が飾られ、街全体が赤く彩られる。中国人にとって「赤」は縁起の良い色で、邪気を払う意味を持つ。春節には赤いものを身に着ける習わしもあり、全身赤い服を着て街を練り歩く人も多い。

打ち上げ花火を上げる、爆竹を鳴らす、獅子舞が練り歩くといった、にぎやかな催しが随所で行われるほか、祖先の霊を祭る「(びょう)」へ初詣に出掛ける風習もある。1年の幸せを祈願し、おみくじを引き、お守りを買い、屋台の食べ歩きを楽しんだりもする。日本の初詣と似ている。日本の寺社と違って、中国の廟は色とりどりの装飾で華やかな雰囲気を持つ。にぎやかに飾り立てて盛り上げることは、廟に祭られる神をたたえる行為でもある。

ちなみに太陽暦の大みそか(12月31日)と元旦(1月1日)には、春節のように特別な催しは行われない。年が変わるというだけで、単なる休日の一つとして捉えられている。日本で暮らす中国人も1月1日は普通に働き、春節の時期にまとめて休みを取るケースが多い。

絆を大切にする

「紅包(ホンバオ)」は日本でいうお年玉。中国で縁起が良いとされる赤い封筒に入れて渡す

春節の過ごし方の基本は、一家だんらんだ。海外で働く家族も帰省し、全員そろって1年の労をねぎらい合うことが多い。大みそかの夜はみんなで「年越飯(ニエンユエファン)」となるギョーザや饅頭(マントウ。中国風蒸しパン)を作り、中国版の紅白歌合戦「春節(れん)(かん)(ばん)会」を見ながら年を越す一家も多くみられる。

親族全員が一族の中心となる年長者のもとへ集って新年のあいさつをしたり、食事や会話を楽しんだりするのも毎年の恒例だ。お祝いの一環として、赤い封筒に入れた「紅包(ホンバオ)」と呼ばれるお年玉を高齢者に渡す風習もある。これは中国の人々が年上を敬い、大切にする文化に基づく習わしで、「もっと長生きして幸せになってほしい」という願いが込められている。一人っ子政策で少子化が進んだ近年は、貴重な存在である子どもにもお年玉を渡すようになった。小さい子どもにも数万円単位の金額を包むこともある。

中国が経済的に豊かになった1990年代以降は、春節の過ごし方にも変化が起きている。春節映画と呼ばれる旧正月に合わせて公開される映画を見に行ったり、家ではなく外食を楽しんだり、海外旅行に行く人も増加傾向にある。

中国には春節以外にも重要な行事がある。日本のお彼岸に当たる「清明節」(3月末~4月初旬)と、家族で月見を楽しむ「中秋節」(9月~10月初旬)がその代表だ。いずれも家族が集まり特別な時間を過ごす。これらの行事を大切にするのも、家族の絆を重んじる国民性の表れだろう。

助け合いの精神が強いのも、中国の人々の特徴だ。困ったときに家族や親族を頼るのはもちろん、地元を離れてもその地域にいる人同士で支え合う。日本で就職や進学をするときも、現地に住む遠縁の親戚を頼ったり、同じ出身地の中国人が集う「同郷会」に参加したりする。中国は国土が広い分、故郷を離れると地元を知る人とつながりにくい。同じ中国人同士でも、出身地が離れると方言の違いで話が通じないことも珍しくない。

人と信頼できる関係性を築いたり集団に属したりするのは、彼らが安心して生きるための支えでもある。

福利厚生より給与

中国では食卓を囲んで親睦を深めるのが一般的。会食もビジネスの重要な要素と考えよう

中国の企業とビジネスを行う上でも、信頼関係の構築は不可欠なプロセスだ。都合の良い条件を提示しても、ビジネスパートナーとして認められなければ商談にすら到達できないケースも少なくない。特に中国で事業を展開する場合は、中国の習慣に合わせて考える必要がある。関係性以前に中国と日本ではビジネスの仕方そのものが違う。商談や契約締結の際は、中国の弁護士を雇用してリスクヘッジを行うことをおすすめする。

取引先との信頼関係を築くには、会食を設けるのが重要とされる。ただし、「目上の人から料理を取る」など食事におけるエチケットもある。会食の際はあらかじめ調べてから臨むのが良いだろう。酔った姿を見せると礼を失していると思われかねないので気を付けよう。

日本で中国人と一緒に働く場合は、仕事に対する彼らの価値観を理解することも大切だ。例えば、日本では福利厚生の手厚さは会社の魅力の一つだが、中国の人々にはあまり響かないようだ。中国では保険年金制度が一般的ではなく、将来のお金は自力でためる意識が強い。充実した福利厚生より、1円でも多く給与が得られることを重視する。だが、給与が高ければ良いわけでもない。特に若者世代は日本人の若手と同様、お金とやりがいのバランスを重視する傾向が強い。目標や求める働き方を聞き出し、納得がいくまで話し合うことが信頼を深める契機になるだろう。

職場の心理的安全性を高めることも大切だ。日本で生活している中国人には、軽視されていると感じる人も少なくないようだ。国籍にとらわれず、日本人と同じ目線で接するように心がけよう。もし認識の違いや間違いがあったら、「これはこういう問題があって駄目だ」と理由を添えて丁寧に説明すれば良い。

中国の人々は、基本的に真面目で勤勉。与えられたタスクはしっかりこなす。仕事の目的や手順を十分に理解すれば、自身で仕事を切り盛りしてくれる。そして非常に義理堅い一面も持っている。彼らを理解し、「ずっと働きたい」と思われる職場環境をつくっていけば、会社にとって心強い存在になってくれるだろう。

監修

千野 拓政

早稲田大学 名誉教授