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意外と知らない世界の文化

スキンシップは
ペルー流の礼儀

ペルー人のスキンシップ

ペルーの国旗
国名
ペルー共和国
面積
約129万km2
人口
約3405万人(2022年時点)
首都
リマ
公用語
スペイン語(他にケチュア語、アイマラ語等)
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更新

この記事のポイント

  • 南米大陸に位置し、古代アンデス文明発祥の地として知られるペルー
  • スキンシップは礼儀であり、感謝や祝福の際にハグをするのが一般的
  • 真面目で責任感が強く、多文化共生の中で柔軟性や対応力に優れている

南米大陸の太平洋側に位置するペルーは、古代アンデス文明発祥の地といわれる。約1万4000年前からいろいろな民族が存在していたが、スペイン植民地時代にはアフリカから黒人が奴隷として、19世紀末には中国人や日本人らが移民として入国し、共生してきた歴史を持つ。

多様な人種や言語が交じり合う中で築かれた混交文化は、彼らのフレンドリーな人柄や適応力の高さの土台となっている。

陽気で盛り上げ上手なペルー人は、人と仲良くなるのが早い。道端で声をかけ、少しおしゃべりをしたら「もうアミーゴ(友達)だ! 飲みに行くぞ」という流れになるケースも珍しくない。ラテン系一般に根付く「アミーゴ文化」ともいわれている。

だが、すべての人が"誰にでもアミーゴ"というわけではない。ペルーは植民地時代からの伝統が根強い階級社会であり、社会経済階層が上層の人ほど初対面でのなれなれしい態度や、下層と同じ扱いをされるのを嫌う。信頼関係を築くまでは、礼儀正しく接しよう。

ペルー人をはじめ、アンデス山脈にルーツがある民族は、丁寧で礼儀正しいスペイン語を使う傾向が強い。スペイン語圏の大半では初対面の相手にも「オラ(やあ!)」と気軽な言葉で挨拶をするが、ペルー人はある程度打ち解けるまでは、「ブエノス・ディアス(おはよう)」「ブエナス・タルデス(こんにちは)」「ブエナス・ノチェス(こんばんは)」と、時間帯に合わせた挨拶の言葉を用いる。

ペルーでハグや握手は一般的なコミュニケーション。相手から求めてきたら笑顔で受け入れよう

挨拶にスキンシップを交えるのも特徴的だ。男性同士は握手から入る。女性同士は互いに頰にキスをする。男性と女性の場合は頰をくっつけ合う。信頼関係が深まると、男性同士、女性同士でハグをしたり、肩をたたいたりもする。

スキンシップはペルー人の礼儀であり、親愛の念を伝える行為でもある。感謝の気持ちを伝えるときや祝い事でもハグをするのが一般的だ。こうしたコミュニケーションに戸惑う日本人は多いが、最近はペルー人にも「日本人はスキンシップに慣れていない」という理解が浸透しつつある。無理に合わせなくても問題にはならないだろう。ただし、親しくなった相手からのハグを拒否すると、「友達であることを拒否された」「寂しい」と思われてしまう場合もあるので気を付けよう。

人間関係は家族ぐるみで

挨拶時に、相手の家族の無事や健康を確認するのも一般的だ。ペルーでは、個人と家族は一体で、家族もその人自身の一部と捉えるためだ。

従って、人間関係も家族ぐるみで築くのが一般的だ。特に子どもの場合、親同士が知り合いにならないと、友達として親しくなるのは難しい。恋人ができた場合も、まずは家族に紹介して誰とデートに行くのかを明確にする。これは、治安の悪さから家族を守るための手段でもある。

挨拶を通じて家族の情報を知っておくのは、ビジネスにおいても重要だ。家族を最優先に考えるペルー人は、身内の病気やトラブルがあると無断欠勤をしたり、会社に来なくなったりする。挨拶のときに、本人や家族の様子を把握し、常に気にかけてあげると、相手の信頼も得やすくなる。

家族の話をするのは、ペルー人と仲良くなる近道でもある。より関係を深めたいのなら、自分の家族の写真を見せながら話すと良いだろう。多くのペルー人は、家族の写真を持ち歩く。お互いの写真を見せ合いながら、撮影時のエピソードについて話をしてみるのも良い。自然と会話も弾むはずだ。

音楽とダンスとグルメ

魚介類のマリネ「セビーチェ」はペルーの代表的料理の一つ。ペルーは美食の国としても知られる

ペルー人が好きなものといえば、音楽とダンスだ。彼らにとって音楽は生活の一部だ。バスのような公共交通でも音楽がずっと流れている。誕生日パーティーでは大音量の音楽をかけて、老若男女が朝まで踊り続けるのが定番だ。

次に食べること。ペルーの首都・リマは、はやりのフードが集まるラテンアメリカ有数のグルメスポットといわれている。話題のフードの食べ歩きは、ペルー人にとってのエンターテインメントなのだ。

リマには中国や日本の移民から生まれたチーファと呼ばれる中華料理や、ペルー料理と和食が融合した「ニッケイ料理」の店も多い。特に中華料理は家庭料理としても親しまれ、ペルー料理のレシピ集にも焼きそばやチャーハンが普通に登場する。来日したペルー人をもてなす際、中華料理を選ぶと喜ばれるだろう。

ただし、ラーメンのような汁に浸った麺にはなじみが薄いので注意したい。ペルーでは麺をすすって食べる文化がない。そもそも音を立てて食べる行為がマナー違反なのだ。和食も、甘辛い味付けになじみがないペルー人が多く、避けたほうが無難だ。もちろん、好き嫌いには個人差があるので、本人に食べてみたいか聞いて、興味があるようなら誘っても良いだろう。

柔軟で臨機応変

ペルー人にとって仕事をして稼ぐのは、家族を支えるためという意味合いが大きい。この傾向は、特に農耕民族のアンデス系先住民をルーツに持つ人に強く、毎日の労働を苦にしない働き者が多い。

しかし、上層階級の一部には「労働は奴隷の仕事。家畜のように働き続ける生活は人間らしくない」とヨーロッパ貴族的な労働観を持つ人々もいる。ペルー人と一緒に働く場合は、このあたりを見極めておきたい。

仕事に対しては非常に真面目で責任感も強いと言える。多民族国家で多様な人種が共存するペルーでは、お互いの文化を尊重し、受け入れるマインドが育まれ、柔軟性や臨機応変さにも優れている。日本のルールや仕事の進め方をきちんと説明すれば、理解して受け入れてくれるだろう。

彼らの機転や対応力の高さは、「こうあるべき」にとらわれやすい、日本人に足りない部分でもある。彼らのフレキシブルさを見習えば、新しいビジネスのアイデアや、課題の突破口を見つけるヒントが得られるはずだ。

取材協力

田島(山脇) 千賀子

鍼灸リトリート Vida Sana院長(前 文教大学 国際学部 教授)