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意外と知らない世界の文化

流行より個性と実用性を追求する
フランス式・ファッションの流儀

フランスの国旗
国名
フランス共和国
面積
約63万km2
人口
約6860万人(2025年フランス国立統計経済研究所)
首都
パリ
言語
フランス語
  • フランス
  • ファッション
  • もてなしは3皿まで
  • 個人主義
更新

この記事のポイント

  • フランス人のファッションの基準は流行より自分らしさと機能性
  • 「どっちでもいい」は「決断力のない人」と信頼されないから要注意
  • 休暇は3週間、旅先で暮らすように過ごすのがフランス流

フランスはEU最大の国土面積を誇る国だ。芸術、ファッション、美食といった文化や美しい自然に恵まれ、年間の観光客数は世界で一番多い。2023年は約1億人が訪仏した(国連世界観光機関・UN Tourism調べ)。

フランスがファッションの中心地となった背景には、17世紀後半~18世紀にかけての宮廷文化が大きく関わっている。ルイ14~16世の時代、華やかなフランスの宮廷文化は周辺国の注目を集め、マリー・アントワネット王太子妃がファッションアイコン的な存在としてもてはやされた。現在もパリに多くの観光客が訪れるのは、この時代の歴史的遺産によるところが大きい。

フランス人は、ベーシックなデザインのワードローブに小物で色を足して個性を出すのが上手だ

「流行や文化の発信地」と評されて歴史の長いフランスだが、近年における国内のファッションは、SNS普及でファッションがグローバル化し、カジュアル寄りになりつつある。日本でおなじみのユニクロや無印良品は行列ができるほどの人気で、シンプルなTシャツやジーンズは基本のワードローブとして幅広い層に愛用されている。

男性の服装は、ジーンズやショートパンツにシャツやTシャツを合わせたスタイルが一般的だ。日本と違って服装規定のない職場が多く、スーツ姿で働く人はあまり目にしない。女性の定番は、ヒールのないフラットシューズにパンツ、丈の短いスカートなど。地下鉄の利用頻度が高いうえ、治安が良くないことから、動きやすく機能的な服装が好まれる傾向が高い。日本で流行しているロング丈のワンピースやヒールの高い靴は、ドアや階段に引っかかりやすく非常時に逃げるのが困難なため、普段使いされにくい。

流行やブランドより"自分らしさ"を重視

フランスでは日本と違って、若者が最新のブランドバッグを持つケースはほとんどない。例えば、シャネルのバッグはある程度の年齢を重ねたマダムが持つイメージが強い。20代の女性が持つと「無理をしている」と見られてしまう。代わりに活躍するのが、親から譲り受けた古いブランドバッグや、蚤の市や古着店で購入した中古品だ。ベーシックなコーディネートにビンテージ感のあるアイテムや古着を取り入れ、自分だけの個性的なスタイルを作り上げるのが、フランス人のおしゃれの基本でもある。

この価値観は、親から子へ、モノを代々受け継いで大切にするサステナブルな精神にもつながる。ブランド品に限らず、家具、食器、宝石類が、家族の歴史を伝えるものとして次の世代へ引き継がれるのは、フランス人にとって自然なのだ。

そもそもフランス人は、流行やブランドにあまりこだわらない。トレンドやSNSの情報はあくまで俯瞰ふかんで見るものと認識する。彼らは流行に敏感な日本人をおしゃれと評価しても、自身が流行に飛びつくことはほとんどない。理由は、ファッション業界や他人が作り出す流行に踊らされるのは、「自分がない」と考えるからだ。服装や持ち物が人とかぶるのを嫌うため、新作を買い集めたりしない。

フランス人がファッションで最も大切にするのは「自分に似合うかどうか」だ。自分に似合うと判断すれば個性の強いアイテムも積極的に取り入れ、80歳でも堂々とミニスカートをはく。マクロン大統領の妻・ブリジット夫人のように、足がきれいな人はミニスカートを、肩のラインや首元がきれいな人はその部分を露出する服装を選ぶように、自分を美しく見せるための工夫もうまい。

シャツとパンツを合わせただけのシンプルな装いでも、どことなくこなれた雰囲気に見えるのも、"自分らしさ"を追求する中で磨かれた自己プロデュース力のたまものだろう。

ライフスタイルは「心のゆとり」と「効率」を追求

夫婦だけの時間を大切にしてコミュニケーションを欠かさない

フランスの一般的な家庭では、週に一度しか料理や洗濯、食材の買い出しをしない。これは、自分や家族と過ごすための時間を有効に活用するための知恵である。特にワーキングマザーは、掃除を家事代行サービスに依頼したり、冷凍食品も積極的に利用したりする。最近は食生活への意識が高まり、オーガニック食品やグルテンフリーの食材を求める若い世代を中心に、週に数回買い物に行く人も増えている。

平日の夕食は、野菜スープにチーズ、ハム、サラミを添えたワンプレート、もしくは冷凍食品のキッシュや魚料理にサラダを添えるといった、質素なメニューが定番だ。メニューは毎日似たような内容で、週末だけごちそうを作る家庭が多い。

フランス人には、「自分が自分を大切にしていないと、家族を大切にできない」との考えが根底にある。完璧な家事や手作りの食事にこだわるあまり自分が疲弊し、家族にイライラをぶつけたり恩着せがましくなったりするくらいなら、外注や冷凍食品に頼り、心のゆとりを保つことを選ぶ。この「割り切り」の精神は何事にも完璧を求め、一人で責任を背負いがちな日本人が見習いたい点でもある。

パートナーとの関係も、この「心のゆとり」で成り立っているといっても過言ではない。彼らは長年連れ添ったパートナーでも、意識的に時間を作ってコミュニケーションを取るのを大切にする。普段から感謝の言葉や優しい言葉をかけあったり、記念日には子どもを預けて夫婦で食事に出掛けたりもする。

空気を読む力を美徳とする日本人のように、「言わなくても分かるだろう」と察し合う文化はない。互いに助け合い生活をつくりあげるパートナー同士だからこそ、一番の話し相手として相手を尊重し、共に過ごす時間を大事にするのだ。

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監修

ペレ 信子

フランス生活文化エッセイスト、フランス語教師

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