日本の常識は世界の常識にあらず
意外と知らない世界の文化
「Sorryが口癖」の噂の真相は?
カナダ人の会話に見る
多文化への寛容性
- 国名
- カナダ
- 面積
- 約998.5万km2
- 人口
- 約4154万人(2025年 カナダ統計局推計)
- 首都
- オタワ
- 言語
- 英語、フランス語
- カナダ
- 多文化主義
- sorryは丁寧語
この記事のポイント
- カナダには公用語が2つあり、多文化主義を掲げている
- 「Sorry」は謝罪の意味だけではない。むしろトラブル時には謝らないことも
- メープルモチーフを身につけるのは「米国人とは違う」と主張するため
カナダは北アメリカ大陸北部に位置する、連邦立憲君主制国家だ。世界第2位の広大な国土を持ち、最東端と最西端では約4時間半の時差がある。広大な自然に恵まれ、ロッキー山脈やナイアガラの滝などは観光地としても名高い。多種多様な民族や人種が暮らす移民国家であり、外国人に親切な人が多く、日本人留学生のホームステイ先としても人気を集める。
カナダの雄大な自然を体感できるバンフ国立公園のペイト湖
留学生向けにカナダ人の国民性を紹介するサイトによく取り上げられるのが、「カナダ人は謝り過ぎる」という一説だ。確かにカナダ人と会話をすると、ふとした場面で「Sorry」と耳にする。すぐ「すみません」と口にしがちな日本人は、自分たちと同じ感覚で謝罪の言葉を使用すると捉えがちだが、大きな誤解である。
カナダ人は問題が起きても簡単には謝らない。うっかり謝るとトラブルが大きくなりかねないので、車で事故を起こした場合でも「絶対に謝ってはいけない」風潮がある。
日本人は「Sorry」=「謝罪の意」しか知らない人が多い。実は「I'm sorry」は、相手への共感や気遣いを示す意味合いも持つ。具体的には、天候が悪くて「残念ですね」、家族や親しい人が亡くなったときの「お気の毒に」といった使い方だ。これはカナダに限らず、他の欧米諸国にも共通する。
カナダ人が「Sorry」をよく使うのは、違う文化を持つ人同士が配慮し合う文化の表れでもある。移民が多いカナダでは、多様ななまりのある英語を聞くのは珍しくない。相手の発音が聞き取りづらいとき、米国では「pardon me?」(ちゃんと話しなさいよ)と聞き返すが、カナダでは「I'm sorry, would you like to say that again?」(すみません、もう一度言っていただけますか?)と丁寧に聞く傾向が強い。
カナダ人が多様な文化に寛容な理由
カナダは1971年に「多文化主義」を世界で初めて政策に打ち出した。多文化に対して思いやりがある国でもある。カナダの移民の歴史は、英国とフランスによる植民地時代に始まる。1867年の建国後は国の経済力を高めるため、積極的に移民を受け入れる政策を行ってきた。
移民が母語を忘れないように教室を開いて継承語教育を行ったり、補助金を出して文化活動を支援したりと、移民の文化を維持させる取り組みを政府が率先して行うのもカナダならではだ。多文化を国民全員で楽しもうとするムードも高い。年間を通して日系、インド系、イタリア系など、様々な国の祭りが催され、多様な国の文化と触れ合う好機となる。
また、差別は法的な枠組みで厳しく禁じられている。1977年の「カナダ人権法」や、1982年に制定された「カナダ権利自由憲章」では、人種、宗教、国籍、民族出自、皮膚の色、性別、年齢、身体および精神障害、性的指向(96年に追加)に対する差別を禁じ、カナダの各人は平等とみなされると明示している。
カナダが「モザイク社会」といわれるほど、多様な人々が各文化の独自性を保ちながら共生する社会を実現しているのは、多様な文化や言語に対する理解と寛容な姿勢を育んできた成果ともいえる。
国を豊かにするカナダ流・移民政策
カナダでは、2024年より移民の受け入れを規制しているものの、それまでは年間約40万人の移民を受け入れてきた。日本人の感覚だと治安の悪化が心配になるが、カナダの治安は先進国の中では比較的良いといわれる。国民皆保険制度で基本的に医療費がかからず、暮らしやすさの評価も高い。世界の幸福度ランキングでも常に上位に入る。
カナダでは移民は社会を支える貴重な人材と捉えられる
そもそも日本人とカナダ人では、移民に対する捉え方が違う。カナダでは、「移民=カナダの経済力を高めてくれる優秀な人材」として歓迎されている。その理由は、移民を受け入れる際に厳しい選別を行うからだ。申請審査では、申請者の「学歴」「職歴」「年齢」「語学力」などが総合的に評価され、一定のスコアをクリアしなければ移民として受け入れられない。そのため、移民のほうが生粋のカナダ人より学歴が高い場合も珍しくない上、移民が犯罪事件を起こすケースもほとんどない。
労働力不足を解消するため、需要の高い職業分野の人材を移民として積極的に受け入れる政策も進められている。特に需要が高い、医療、IT、建設、農業、エンジニアリング分野の人材は、永住権の取得を優遇される場合もある。
ただし、選別されたタイミングによっては、自分が求める仕事に就けるとは限らない。カナダに移住した大卒の公務員が、クリーニング店で働いたり、タクシー運転手をしたりしながら、希望の仕事に就く機会を待つ状況も発生している。
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矢頭 典枝
関西学院大学 国際教育・協力センター 教授