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ランチタイムは弁当が主流

外食より家ごはんを好む
インドの食文化

インドの国旗
国名
インド共和国
面積
約328万km2
人口
約14億5094万人(2024年世界銀行資料)
首都
ニューデリー
言語
連邦公用語はヒンディー語。
他に憲法で公認されている州の言語が21言語
  • インド
  • 多民族多宗教国家
  • スパイスは家庭の味
  • お弁当配達人
  • ジュガール
更新

南アジアに位置するインドは、日本の約9倍の国土を持つ多民族国家だ。人口は14億人を超え、多種多様な民族が互いの宗教や文化、価値観を認め合いながら共生する。

彼らのアイデンティティーが最も顕著に表れるのが、食事の領域だ。インドの人々は宗教上の理由や個人の信条から、「何を食べるか」「何を食べないか」「誰と食事を共にするか」に対し、一人ひとりが強いこだわりを持つ。

代表的なのが、「ベジ(菜食主義。肉や動物由来の食材・調味料は避ける)」と「ノンベジ」の区分だ。インドは世界有数のベジタリアン大国で、市販の食料品には必ず「ベジ(緑の丸)」「ノンベジ(赤い丸)」の認証マークが付与されている。

だが、インドの「ベジ」には、極めて多様なグラデーションが存在する。「ピュアベジタリアン(完全菜食主義者)」のみならず、「エグタリアン(卵はOK)」や魚介類はOKの人、決まった曜日のみベジに徹する人もいる。定義をひとくくりにすることは不可能だ。

「ベジ」の中で極めて厳しい制約を持つのが、ジャイナ教徒だ。完全不殺生(アヒンサー)の教義により、収穫時に地中の微生物や虫を殺してしまう可能性がある根菜類(玉ねぎ、じゃがいもなど)の摂取も禁じている。一部の厳格な菜食コミュニティーではキノコ類の菌を生き物と捉えることがあり、不浄な食材として食べることを禁じるケースもある。

インドの弁当文化に見る"安心できる食"へのこだわり

個々の細かいルールやこだわりの強さから、「食材の出どころや調理過程が不明瞭な外食では、自分にとっての食のルールが保証されない」と不安を抱える人は少なくない。

彼らが最も安心して食べられるのは、自宅の調理場で作られたわが家のごはんだ。昼食に自宅で作ったお弁当を食べるスタイルが主流なのも、"安心できる食"への強い志向の表れといえる。

インドの弁当に欠かせないのが、ステンレス製の弁当箱「ダッバー」だ。円形の容器を複数段積み重ね、金具で全体を固定する。落としても割れにくく、汁気のあるものを入れても漏れにくい構造になっている。

インドの弁当箱はこの形が主流だ。味が混ざらない上、ステンレスはスパイスの色や香りが移りにくく清潔に保つ利点もある

弁当の中身はインドの食文化と同様、地域によって様々だ。"粉食"の北インドでは主食のチャパティ(小麦粉の薄焼きパン)に、豆やオクラなどの野菜系カレーとアチャール(漬物のようなもの)が一般的だ。"米食"が主流の南インドは、弁当でも米が主食とされる。

インドの弁当文化を古くから支えるのが「ダッバーワーラー」という、家庭で作られた弁当を職場まで届ける弁当配達ビジネスだ。朝、各家庭から回収した弁当(ダッバー)を、電車や自転車、バイク、人力などでリレーのように運び、昼食の時間までに職場へ届ける。食後は空になった弁当箱を回収し、夕方に各家庭へ戻す。膨大な数の弁当をアナログな作業で扱うにもかかわらず、長年にわたって受け継がれてきた独自のノウハウにより、誤配率は極めて少ないというから驚きだ。

インド人は自分にとって"安心できる食"を大事にするものの、外食をしないわけではない。近年は大規模な職場や工場で「ベジ」の人に配慮した社食が設けられ、弁当以外の昼食を取る習慣も浸透しつつある。

インドにカレーはない?
日本人が誤解しがちなインドの食事情

南インドでは米が主食。バナナの葉の上でたくさんのおかずやサンバル(カレーのような煮込み)、ラッサム(スープ)やチャツネなどと混ぜて食べる

日本人は「インド人は毎日カレーを食べる」と思い込みがちだ。これは「カレー」という言葉の定義の曖昧さによって生じた誤解だ。厳密に言うとインドには、日本人が思い浮かべるようなカレーという名前の料理はない。あえて近いものを挙げるなら「スパイスを用いた煮込み料理」といったところになる。

カレー(curry)の語源は、インドで野菜や肉を炒めた料理を意味する「kari」や「karil」という言葉だ。これを英領インド時代の英国人がスパイスを用いた煮込み料理や汁物料理全般を「curry」と総称するようになった説が有力とされる。

英国人が世界にカレーを広める中で、インドでもカレーという言葉が便宜的に使われるようになった。日本でだしが入った料理を「だし」とひとくくりにしないのと同様、インドでスパイスを用いて調理した料理をカレーとは言わない。

広大な国土を有するインドには、多様な食文化がある。グジャラート州などの西部エリアでは「インド料理=辛い」のイメージに反して甘めの味付けが特徴的な料理が、ケーララ州などの沿岸部では主に魚を用いた料理が地域の味として親しまれている。

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監修

笠井 亮平

岐阜女子大学 南アジア研究センター 特別客員准教授

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