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訴訟や議論は話し合いの入り口!?

米国人が「個人の権利」
を主張する理由

アメリカの国旗
国名
アメリカ合衆国
面積
約983万km2
人口
約3億3650万人(2024年米統計局推計)
首都
ワシントンD.C.
言語
主として英語(法律上の定めはない)
  • アメリカ合衆国
  • ディベートの国
  • 訴訟は話し合いの入り口
  • 権利主張と立証責任
更新

アメリカ合衆国(以下、米国)は、気候や文化、人種・民族構成の異なる50の州と、1つの連邦区から成り立つ連邦制国家だ。建国以来、世界中から多様な人々を受け入れてきた歴史があり、「移民の国」としても知られる。

多様な人種・民族が共存していく上で根付いていったのが、個々のアイデンティティーや意見を尊重し、受け入れ合う気風だ。移民たちが持ち込んだ母国の習慣、宗教観、食といった文化が融合し、新しい価値観と豊かな文化を築き上げる礎となっていった。

合衆国憲法は1788年に発効し、現在まで続く世界で最も古い成文憲法といわれる

彼らがコミュニケーションを取り合う過程で「ディベート」文化が発展していった。多様な背景を持つ人々で構成された米国社会では、自分がどういう人間かを周囲に主張し、異なる価値観への理解や納得を得るため、論理的かつ建設的に議論するスキルが必要とされてきた。現在も幼稚園や小学校の授業では「Show and Tell」(見せて話す)という、ディベートの基礎となる「自分の意見を伝える力」や「相手の質問に答える力」を磨くトレーニングが取り入れられている。

ビジネスの場でもファストフードの注文でも、自分の意見を明確に持ち、伝えることは米国人にとって当たり前の文化だ。個人主義の強い米国では、"意見を述べること=個人の権利行使"である。日本人の「察する」文化は通用しない上、意見を表明しないことは「権利を放棄している」または「同意している」と見なされる場合もあると覚えておこう。

訴訟は「言ったもの勝ち」? ただし、主張を成立させるには責任が伴う

この「個人の権利を主張する文化」は、米国が「訴訟大国」といわれるほど、訴訟が多い理由にも通じている。まずは話し合いや交渉で問題解決を目指す日本と違い、「自由と平等」を基盤に意見をはっきり主張する米国では、訴訟こそが交渉や和解の入り口とされる。

特に多いのが、「不当解雇」にまつわる訴訟だ。雇用者に差別の意図がなくても、解雇された従業員は「差別を理由に解雇された」と主張し訴訟を起こせる。雇用労働に関する訴訟に関しては、雇用者は通常時間料金で弁護士料を支払うのに対し、元従業員は成功報酬(40~50%)で弁護士を雇えるのも、従業員が声を上げやすい一因だ。

何を不服とするかは、ある意味「言ったもの勝ち」とも言える。日本人の感覚では理解しにくい理由で訴訟になるケースも珍しくない。例えば女性が「太っているのを理由に解雇された」と訴えた実例がある。会社からそう通告されたわけでもないし、法律上、肥満を理由とした解雇は差別に該当しにくい。本来なら訴えを却下されてもおかしくない。しかし、裁判所は「他の理由で不当解雇があった可能性」を理由に、彼女の言い分を通す判断を示すこともある。

訴訟は交渉と和解の入り口。実際に法廷で裁判を行う前に示談が成立するケースが圧倒的に多い

裁判所判定の基準は州によって異なるものの、雇用者と従業員の訴訟では、証拠の乏しい主張でも従業員の肩を持つ判定が多く、雇用者側が不利になりやすい傾向がある。

訴えの件数こそ膨大だが、実際には示談で解決するものがほとんどだ。本審理まで進み、判決が下るケースは全体数の5~10%程度である。

その理由は、裁判に至る流れの複雑さだ。証拠開示の手続きや、裁判所許可を必要とする申請手続きや裁判所での聴聞、書類のやり取りだけでも膨大な時間と手間がかかる。雇用・労働以外の分野でも費用の負担は大きい。経済的な余裕がなければ権利を守れない。権利は自由に主張できるが、その主張を成立させるには責任が伴う。特権は経済力のあるものに与えられ、手段を持たない者は権利の主張が難しくなるのも、米国社会の現実だ。

米国人との関係を深める会話の進め方

握手は挨拶の基本。対等な関係を築くには頭を下げ過ぎないほうが良いだろう

訴訟大国だからといって、むやみに訴えられると警戒する必要はない。彼らの自己主張には、多民族社会での「衝突を避ける」目的もある。背景の異なる人同士が曖昧に意思を伝え合うと、解釈の違いでトラブルが起こりやすい。喜怒哀楽を交え、意思をはっきり主張することは、米国人なりの相手への配慮でもある。

米国人と信頼関係を築くためのコミュニケーションについて見てみよう。米国では初対面なら握手、友人同士ならハグを交えた挨拶が主流である。米国人は初対面でもフレンドリーに接してくれるが、距離の詰め方には注意が必要だ。最初は軽い雑談から入り、深い話をするかどうかは相手の反応を見ながら判断しよう。

一人ひとりが異なるバックグラウンドを持つ米国人との交流では、相手の価値観を理解することも大切だ。先入観で判断せず、「あなたはどう思う?」と率直に問いかける姿勢が好まれる。

会話では「同意する」「反対する」といった意思表示を明確にし、自分の意見とそう考える理由をセットで伝えるのが関係を深めるコツだ。自分の主張だけでなく、相手の主張も尊重する姿勢を持つ人が多いのも、自由と平等を重んじる米国人の良さだ。日本人の会話は「そうですか」で終わりやすい。相手に意見の理由を尋ねたり、自身の発言の意図やその理由を示さないと、米国人からは表面的な会話に受け取られやすいので気を付けよう。

ビジネスの場でも「相手への質問」と「その理由の提示」がカギとなる。日本のビジネスマンは最初に自社紹介を行う傾向が高いが、長過ぎる説明は米国人に飽きられやすい。自身の話をする前に、「あなたの会社に関するこの記事を読みました。この決断をした理由を知りたい」といった相手の事業を深掘りする質問と、そこに興味を持った理由を伝えると喜んでもらいやすい。積極的に意見を交換し、「この人は面白い」と思われるのが関係構築の一歩となる。

プライベートでは、家族ぐるみの交流が好まれる傾向が高い。懇親会やホームパーティーへの夫婦での参加や、独身者でもパートナーや恋人を同伴させるケースが多く見られる。

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監修

井上 奈緒子

シャッツ法律事務所代表

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