日本の常識は世界の常識にあらず
意外と知らない世界の文化
美食の国・イタリア人が
地元の味を大切にする理由
- 国名
- イタリア共和国
- 面積
- 約30.2万km2
- 人口
- 約5893万人(2025年イタリア統計局)
- 首都
- ローマ
- 言語
- イタリア語(地域によりドイツ語、フランス語等少数言語あり)
- イタリア共和国
- マンマの味が世界一
- 職人気質
- 食卓で全て決まる
- 不測の事態に強い
イタリア共和国は、地中海に突き出した長靴型のイタリア半島と周辺の島から成る共和制国家だ。19世紀に統一国家となるまでの1400年近くの間は、複数の小国家に分裂した状態にあり、それぞれの国家や共同体が独自の文化を育んできた。
国土は日本の約8割と比較的小さい。その内部は山岳地帯、平野、海岸部が複雑に入り組み、地域ごとに気候や風土が大きく異なる。平野部が少なく地域間の往来が不自由な地形は文化的融合の壁となり、地元の文化や家庭料理を大切にする価値観を作り出す一因となった。
現在も文化や人々の気質による地方色が極めて強い。20州それぞれが別の国といわれるほどの個性を持つ。イタリアの地方色の豊かさは、グローバル化がもてはやされた30年前はハンディキャップでもあった。例えば土着品種が主流で主要品種がないイタリアワインは、その個性の多さから"分かりにくい"とされてきた。評価されるようになったのは、均一化への飽和感や多様性を認める風潮が広がった近年になってからだ。
イタリア人の食の原点はマンマの料理だ
イタリアの食文化で特に重視されるのが家庭料理、「マンマの味」だ。多くのイタリアの家庭は母親(マンマ)を中心に回り、家族はマンマの料理を味わいながらだんらんのひとときを重ねる。マンマは自分の料理が世界一と信じ、家族はもちろん来客にも「おなかいっぱい食べて」とどんどん料理を勧めてくれる。多くのイタリア人が「うちのマンマの料理は世界一だ」と豪語するのも、母の強い愛情を誇りとする証しだろう。
「地元の味が一番」との価値観も強い。外食では目新しい料理に飛びつくより、食べ慣れた味を好む傾向が色濃く見られる。トラットリア(大衆食堂)で地域の人が選ぶのも、地元料理がほとんどだ。クリエーティブなメニューが並ぶリストランテに行っても、自宅や地元で食べ慣れた料理を注文する人が珍しくない。
生産者の顔が見える食材やシンプルな調理法が好き
食材の豊富なイタリアでは、アクアパッツァのようなシンプルな料理が好まれる
海と山の食材に恵まれた農業国・イタリアは、鮮度や地元食材に強いこだわりを持つ傾向が高い。農民をルーツに持つ人が多く、市場でも「○○の農園」で取れた野菜、「○○さんのワイン」といった生産者の顔が見える商品が好まれる。冷凍食品や加工食品といった画一的な商品には、警戒心を抱く人も少なくない。
素材の鮮度や質が高いからこそ、イタリアではカプレーゼや水やハーブでシンプルに魚を煮るアクアパッツァのような手を加え過ぎない調理法が好まれる。1980年代頃までは「調理技術が発達していない」と批判されたこともあったが、健康志向や素材本来の良さを生かす価値観が広がるにつれ、そのシンプルさが評価されるようになった。
「イタリア料理」に厳密な定義は存在しない。イタリア料理という枠組み自体が後付けの概念で、本来は多様な地域料理の集合体だからだ。日本でもおなじみのペペロンチーノやカルボナーラも、ローマやミラノといった地域によって使われる食材やレシピは異なる。
「カルボナーラには、グアンチャーレ(豚の頰肉の塩漬け)を使うべきだ」「ピッツァはこうあるべきだ」と主張する人が多いのは、地域の伝統を守ろうとする姿勢の表れで、全員が同じ基準を持つわけではない。
テレビやインターネットが普及してからは、リゾットをはじめとする地方の料理も広く共有され、土地ごとのアレンジメニューがゆるやかに増え続けている。
ランチに3時間! イタリアの食事時間が長い理由
彼らと交流を深める上で、必ず理解しておきたいのは、イタリア人にとっての食卓の位置付けだ。イタリアの食卓は、食事を取るだけの場所ではない。会話から情報やアイデアを得たり、人脈を広げたり、仕事のチャンスをつかんだりと、人間関係やクリエーティブな発想を深める社交の場とされている。ランチに3時間、ディナーに4時間など、イタリアは食事の時間が長いといわれるのも、食事に付随する交流の時間を重視するためだ。
タイパ(タイムパフォーマンス)を重んじる人から見れば無駄な時間に見えるかもしれないが、何よりイタリアでは「共に食卓につき、話を聞いておかないとうまく仕事ができない」といわれるほど、耳から入る情報を重視する。時間効率を優先する発想とは相いれない。合理性を重視しない時間の使い方こそが、イタリア独自の創造性や発想を生み出してきた源泉といっても過言ではない。
家庭においても食卓に集まる習慣は、家族の関係を大切にする意識と直結する。一日の終わりに、その日起きた出来事を語り合う時間は家族のつながりを深めるだけではない。異なる環境での生活で生じる価値観のズレをすり合わせ、家族間の不和を防ぐ。
食事の作法だけじゃない、イタリアの食卓マナー
このような背景から、イタリア人から食事に招かれるのは、人同士の距離を縮めたいとの意思表示でもある。お互いに相手を知ろうとする姿勢が求められるだけに、食卓での振る舞いにはことさら注意が必要だ。
まず、席を途中で立つのは失礼に値する。知らない人だらけのパーティーでも、さりげなく帰るのはマナー違反だ。最初に席に着いたときはもちろん、帰るときも必ず全員と握手を交わすのが礼儀だと心得よう。これは社交界の伝統の名残でもある。
コミュニケーションが目的の場だからこそ、自分から会話を振らずに無言で食事を取る姿も敬遠されやすい。食卓でスマホを見るのも論外だ。急ぎのメールや電話が気になる場合は、必ず一言、断りを入れよう。曖昧な物言いは通じない。会話ではイエス・ノーがはっきり伝わる言葉を意識したい。
食事を取ってすぐ帰りたい場合は、最初から食卓につかないほうが良い。時間が合わないなら断るのも、相手の好意を尊重するマナーと理解しておこう。
食事の面では、音を立てて食べないように。パスタを食べるときに下を向き過ぎるのも良しとはされない。顔を皿に近づけるのではなく、フォークなどで食べ物を口に運ぶ食べ方を意識したい。
パスタは巻いて一口で食べるのも知っておきたいマナーの一つだ。途中でかみ切って残りを皿に落とす食べ方は、マナー違反になるケースもある。イタリアではパスタを食べる際にスプーンを使う習慣はないが、使ってはいけないわけではない。うまく食べられる自信がない場合は、臨機応変に活用しよう。
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宮嶋 勲
ジャーナリスト