特集:明日への扉

いざというときに備える

税務調査Q&A

コロナ禍では減っていた実地での税務調査数が、2020年を底に戻りつつある。
アフターコロナで目を引くのが、調査対象になりやすい業種の変化だ。
今やどんな業種、企業規模でも、調査対象になり得る。
税務調査では何を調べられるのか。
どのような流れで行われるのか。
基本を知ると共に、素朴な疑問にも向き合ってみよう。

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この記事のポイント

  • 税務調査は企業の健康診断。事前の準備が必須
  • あらゆる業種が税務調査の対象になる時代に
  • 税務調査があっても会社の名前は傷つかない
総論

誰もが対象になるからこそ

知っておきたい税務調査のキホン

協力=税理士 土田大輝氏(税理士法人 古田土会計)

初めてのときはもちろん、過去に経験があっても税務調査の連絡を受けるとなると誰しも慌てるだろう。税務職員とのやり取りでミスをしたり、あらぬ疑いをかけられたりしないよう、税務調査の流れと目的、調査前や最中に取るべき行動を聞いた。

税務調査の目的を、税理士の土田大輝氏はこう解説する。

「経営者自ら、もしくは税務代理に係る税理士が所得税、法人税、消費税などの申告書を作成し、それに基づき申告・納付する。その際のミスや不正のチェックが第一義だ」

一方で、けん制の効果も期待しているという。後から調査が入る可能性を考えれば、普通は真面目に申告しようと考えるからだ。

「それゆえ調査対象企業を抽出する際の基準は伏せられている。全納税者に公平に正しい申告を求め、秩序を保っている」

かつては、調査対象になりやすい業種はある程度の傾向がみられた。図Bにあるように、今はそれもつかめなくなっている。

「年商数億円といった規模の大きな企業が選ばれやすいのは確かだ。しかし、売り上げが少ない、または利益がさほど出ていない企業も、意図的な利益の圧縮や赤字化の可能性、消費税や源泉所得税の確認のため、税務調査の対象に十分なり得る」

自分の会社は小さいから、税務調査とは無関係だと高をくくるのは大間違いだ。

事前の準備が必須

税務調査には強制調査と任意調査がある。ドラマにあるような、税務調査官が突然押し掛けてくる強制調査はまれなケースだ。多くは任意調査で、事前に「〇月×日に実地の調査に行きたい」と、税務署から連絡が入る。ほとんどの企業が決算申告の際に、税務を税理士に委任する「税務代理権限証書」を提出しているため、調査の第一報は税理士に入る。提出していなければ、直接、企業に連絡が入る。

調査が入るとなると、不正が疑われているのではと慌てがちだが心配無用だ。「税務署は企業を順番に調査している。やましいことがなければ、うちの番が来たなと冷静に受け止めればよい」と土田氏は話す。

もし何かを疑っている場合でも、事前に調査官が「〇〇を調べたい」と明かすケースはほぼない。調査の連絡が来たら、申告書の裏付け資料や帳簿をすべて用意する。資料や書類は、税理士が具体的に指示するので安心だ。

実地調査は1〜3人の調査官が来て、2〜3日かけて行われるのが主流だ。大まかな流れは図Aの通りだ。

図A:一般的な税務調査の流れ

画面を拡大してご覧下さい。

1. 【調査通知】「〇月×日に▲▲社に調査にうかがいます」と、税理士経由で連絡が入り、日程を決める(※決算申告時に税務署に「税務代理権限証書」 を提出していない企業は直接連絡が入る ※現金を扱う業種は事前連絡なしの無予告調査が行われることもある)2. 【事前準備】調査対象となる期間分の資料を用意する 3. 【実地調査(一例)】1日目午前:社長にヒアリング(会社概要、事業内容など)、現場見学→1日目午後:帳簿や書類の確認→2日目・3日目終日:帳簿や書類の確認→2日目・3日目実地調査終了時:社長や担当者に調査結果の報告、修正点の指摘→後日:修正申告書の提出、不足税額の納付、加算税などの納付。修正がない場合は是認通知の受領→終了

そもそも、なぜわざわざ調査官は訪問して調査をするのか。不明な点があれば再度資料を提出すればよいのではと思うかもしれない。

「調査官は、帳簿に記載された金額の背景を知りたくて来訪する。極端な例を挙げると、帳簿では『新しいパソコンを10台買った』と申告しているが、会社にそれらしいものはない場合。実は社長宅の家電を買ったのかもしれない----。そうした、帳簿と領収書からでは分かりづらい真実を、現場を見て確認するのが目的だ」

だからこそ調査官は、備品やインテリアにも目を配り、経営者との雑談にも注意を払う。

調査官との会話で、沈黙を恐れて冗舌になる経営者は多い。うっかり発した言葉から、さらに追及されるケースはよくある。聞かれていない話はしないのが肝要。答えられない質問を受けたときは、「調べるので時間をください」「後で税理士から回答します」と留保しよう。

多くの場合、調査前に税理士が打ち合わせの時間を作る。「こう聞かれたら、こう答えましょう」と擦り合わせもできる。気がかりなことはその場で相談しておこう。

土田氏によると、税務調査で指摘の多い事項は、期ズレ(※)だという。ズレていても帳簿上、つじつまが合っていれば大きな問題にはならない。

問題があった場合は最終日に指摘を受ける。その後一般的には修正申告をして、不足分の税金と過少申告加算税、延滞税を納めて終了となる。

  • 期ズレの例としては、売り上げと仕入れ、棚卸しが適正にその期間内に計上されておらず、売り上げや棚卸しの計上が漏れるケースがある。
    また、経費の計上時期が尚早で、その計上を否認される場合も。いずれも適正な計上時期には解消できるので、「期ズレ」と言われる

税務調査は企業の健康診断

期ズレや計算ミスなどと違い、意図的に事実をねじ曲げた申告が発覚した場合は、悪質な不正だと見なされる。例えば実際は働いていない経営者の親族に月々給与を振り込む、いわゆる架空人件費がある。また、納品書の日付を改ざんした、といったケースだ。その場合は最大7年分その事実を調べられ課税される。過少申告加算税より税率の高い重加算税が課せられ、その履歴は税務署に残り、調査の頻度が増す可能性もある。

多少ズルをしてでも納税額を減らし、それを暴く税務調査をなんとか切り抜けたい--。そう思いたくなるかもしれない。しかし、「定期健康診断で病気の芽を見つけるように、税務調査も誤って計算していたことを知る機会だと考えてほしい。誤りに気づくからこそ正せる。そうすれば以降は過少申告加算税や延滞税を払わずに済む」と土田氏は話す。無論、"健康診断"で引っかからないよう、日ごろから税理士とコミュニケーションを取り、税務の健全化を図ろう。

「経営者が想定する節税には、政策減税、脱税、租税回避の3つのタイプがある。このうち租税回避は法律や通達の文言上は禁止されていないものの、不当に所得を少なく見せて税負担を減らす行為だ。正しい節税とは政策減税のこと。国は企業応援のため政策減税を幅広く用意している。中小企業の設備投資を応援する税制、一定額まで交際費を課税しない特例などが該当する。これらを活用するのが上手な節税。脱税は言わずもがなNGだ。」

利益を少なくして税を逃れようとしても、重加算税を払うなら結局は損だ。「しっかり利益を出し、正しく税金を払って、利益を内部留保するほうが生き残る力になる」と、多数の企業を見てきた土田氏は断言する。

Question

正しく理解し乗り切るための

税務調査Q&A

痛くない腹を探られるのは気持ちが悪いが、日々適切な税務処理を心がけている企業なら、税務調査は恐るるに足らず。疑問点や不安を事前に払拭しておけばなおさらだ。8つの疑問を、土田大輝氏に答えてもらった。

Q. 税務調査が入りやすい業種は?

A. どの業種でも調査対象に。利益が少なくても油断は禁物

国税庁の調査によると、コロナ禍前は、「不正発見割合の高い業種」、すなわち税務調査に入られやすい業種として、バー・クラブや飲食店が上位を占めていた。令和3事務年度を境に顔ぶれが変わり、現在は多様な業種がランクインして、幅広い業種が対象となっている。利益がさほど出ていない企業でも消費税は確認する。また赤字を装う企業もあるため、税務調査が入る可能性はある。

図B:不正発見割合の高い5業種の事務年度ごとの変化

画面を拡大してご覧下さい。

【令和元事務年度(2019年度)】1位:バー・クラブ 2位:その他の飲食 3位:外国料理 4位:パチンコ 5位:大衆酒場、小料理 【令和2事務年度(2020年度)】1位:バー・クラブ 2位:外国料理 3位:美容 4位:医療保健 5位:生鮮魚介そう卸売 【令和3事務年度(2021年度)】1位:その他の道路貨物運送 2位:医療保健 3位:職別土木建築工事 4位:土木工事 5位:その他の飲食 【令和4事務年度(2022年度)】1位:その他の飲食 2位:廃棄物処理 3位:中古品小売 4位:土木工事 5位:職別土木建築工事
出典:令和元~令和4事務年度の「法人税等の調査事績の概要」

Q. 申告書を受理されたのに調査が入るの?

A. 受け取っただけで確認はまだ。安心するのは尚早

税務署から調査通知が入ると、「申告を受理したのに今さら......」と、なかなか納得できない経営者は多い。受理とは単に書類を受け取るだけで、内容を確認した上で調査に入る。文句を言うだけ時間の無駄だ。また指摘箇所について「前回は大丈夫だったのに」と、反論する経営者も多い。これも単に前回の調査で気づかれなかっただけ。免罪符にはならない。

Q. 反面調査とは? 会社の信用に関わる?

A. 取引企業への事実確認のこと。本業に支障は来しにくい

調査対象企業の取引先企業や銀行に行う問い合わせを反面調査という。取引先からの信用を損ねるのではないかと危惧する人もいるが、やましいことがない限りさほど心配しなくてよい。調査官は「〇〇社の納期はいつでしたか?」など、事務的に事実を確認するだけだ。調査官は通常は信用を傷つけないよう配慮している。逆に取引先の調査のために問い合わせが入った場合も事実を答えよう。虚偽は禁物だ。

Q. 調査日の変更は可能?

A. 正当な理由があれば問題なし

事前連絡時に税務署が調査日を提示しても、出張や商談で都合がつかない場合は調整できる。一度決まっても正当な理由があれば基本的に変更は可能だ。なお、現金取引が多い企業の場合、無予告で会社と社長宅に同時に調査官が来て、驚かされるかもしれない。無予告調査は現金の確認が主目的となる。速やかに確認してもらい、それ以外の確認事項は、税理士と相談のうえ別日に仕切り直すことも一般的には可能だ。

Q. 税理士には何を頼める?

A. 日程調整、事前準備から立ち会い、修正申告書作成まで

税務調査への対応は税理士のメイン業務の1つだ。通常、別途費用は必要だが、調査告知を受けてから日程調整、事前準備、当日の立ち会い、修正申告書の作成、納税まで伴走する。申告書作成の際に、税理士は過去の書類を確認するため、あらかじめきちんと管理しておくとよい。領収書なども整理しておこう。

Q. 税務調査がこわい! どうすれば回避できる?

A. 不正行為をしないのが大前提。ただし税務調査=悪ではない

正しい申告が最善の防衛策だ。不正をして重加算税を課せられると、いわゆるブラックリスト入りし、以降、調査が入りやすくなる可能性もある。急に利益が激減した会社も調査に入られやすい。なぜそうなったのか、根拠を調べられるからだ。ただし、税務調査自体は恐れる必要はなく、順番が回ってきただけ。時間は取られるが、必要以上に警戒することはない。

Q. 調査官にお茶や昼食は用意する?

A. お茶は出しても昼食は不要

お茶やコーヒーなら問題ないが、調査官が出された昼食に手を付けることは倫理規程で禁止されている。昼食は用意しない、が正解だ。調査官は基本的には外に出て昼食をとる。工業団地などで近くに飲食店がない場合は、食堂で持参したものを食べるケースもある。近くに店がなければ、事前に伝えておくのは良い配慮といえる。

Q. 調査に備えて何をすべき?

A. 資料をそろえ不安要素を税理士と話しておく

税務調査の連絡が入ったら、税理士に必要な書類を確認し、用意しよう。書類に不必要なメモや付箋が残っていると調査官の目を引き、余計な突っ込みを招くので、取り除いておこう。不安要素は事前に打ち合わせの上、率直に相談する。また、日ごろから大きな投資や普段と違う取引をする前に税理士と情報共有をしておくと、いざというときに慌てて対策を講じずに済む。

図C:準備する資料の代表例

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