特集:明日への扉
優秀な人材を失う前に
「いきなり退職」はこう防ぐ
優秀な人材が突然会社を去る「いきなり退職」は大きな痛手だ。
特に中小企業においては業務に支障が生じやすく
社内への動揺も広がりやすい。中には防げる退職もあったはずだ。
退職の理由を聞かされ、対策を講じれば良かったと悔やむ前に
大切な人材を失わない対策を検討する。
- 退職理由
- 離職率
- ボトムアップ型マネジメント
この記事のポイント
- 中小企業の「いきなり退職」は事業活動の停滞を招き、悪影響は社内に広がる
- 多くの退職理由は、表向きはキャリアアップだが本音は人間関係に起因する
- 退職防止対策はコミュニケーションが肝となる。組織内の相互理解が必要だ
コミュニケーションの活性化が
退職を生まない盤石な組織を実現する
協力=中小企業診断士 中倉誠二氏(中倉ビジネスコンサルティング代表)
有能な社員の退職は経営の大きな損失だ。経験を積み、ノウハウを備えた人材の流出は生産性低下に直結する。相応の役割を委ねられた人材なら、事業活動が滞る恐れもある。競合他社に優秀な人材を引き抜かれたら、競争力は一気に低下する。
残った社員が離職者の業務をカバーする必要もあり、社内に著しいモチベーション低下を招く。職場への不満が募ると、退職が連鎖的に誘発される負のスパイラルに陥る。これまでに投下した人材育成コストが無駄になる上、新たな人材採用・育成のコストもかさむ。
会社にとって有能な社員の退職はデメリットしかない。
「チャンスがあれば転職を」
顕著な若者の意識変化
「いきなり退職」は、事業所規模が小さいほど職場へのマイナス影響が大きい。中小企業ではひとたび社員間に動揺が広がるとリカバリーは非常に難しくなる。連鎖離職は企業イメージを低下させ、新たな人材獲得の難易度が上がる。「いきなり退職の防止対策は極めて重要な経営課題だ」と話すのは、中小企業向けに組織マネジメントや働き方改革、人材育成のコンサルティングを行う中倉誠二氏だ。
新入社員の離職率は「3年3割」といわれて久しい。新入社員は入社3年以内におよそ3割が辞める(図A参照)。事業所規模が小さいほど離職率は高い。従業員数100人未満で4割以上、30人未満では5割以上に達する。「この割合は長く変わっていないが、若者の意識には変化がある」と中倉氏は指摘する。
図A:新規学卒就職者の3年以内の離職率(2022年3月卒業者)
画面を拡大してご覧下さい。
新入社員の入社後3年以内の平均離職率は、高校卒業者と大学卒業者とも約3割だ。事業所規模が小さいほど離職率は上がる
「いつまで就職先の会社で働きたいか、東京商工会議所が調査した結果が興味深い」と中倉氏は続ける(図B参照)。東京商工会議所は毎年、同所が実施した新入社員研修の参加者を対象に意識調査を行っている。2015年度から25年度までの10年間で、「定年まで」は11.9ポイント減少した一方、「チャンスがあれば転職」は14.1ポイント増加し、転職志向の新入社員は多数派となった。「新社会人の転職サイトへの登録数は、各社軒並み過去最高を記録し続けている。15年ほど前に比べ30倍に達したと聞く。転職の心理的ハードルは確実に下がったといえる」
図B:就職先の会社でいつまで働きたいか
画面を拡大してご覧下さい。
- ※25年度は「その他」の選択肢を採用せず
- ※15年度の「その他」には「無回答」を含む
15年度に36.3%だった「定年まで」は、25年度は24.4%にまで低下した。11.6%だった「チャンスがあれば転職」は25.7%に増加し、10年間で新入社員の意識は大きく変化した
退職の理由が分かれば対策は講じやすいが、把握は難しい。去ってしまう者は本音を語らないからだ。「ある人材紹介サービス会社が、退職時に会社へ伝えた退職理由と本当の退職理由を調査した。退職時に会社へ伝えた退職理由の第1位は『新しい職場にチャレンジするため』だった。しかし、本当の退職理由の第1位は『職場の人間関係が悪い』だった」
職場の人間関係、とりわけ管理職と一般社員の関係は働きやすさに直結する。中倉氏は「かつて理想の上司像は強いリーダーだったが、現在は部下に優しく寄り添う上司が理想とされる。このギャップは必ず埋めなければならない」と強調する。
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