忙しいときこそ知っておきたい
健康生活のススメ
暑さに慣れた体づくりが肝心
暑さ対策は
春から始める
- 健康生活のススメ
- 熱中症
この記事のポイント
- 熱中症予防は早期対策が有効。キーワードは"暑熱順化"
- 本格的な暑さを迎える2週間前から汗の出やすい体づくりを
- 熱中症の適切な対処法を知って、重症化を防ぐ
暑くなり始める時期が早くなり、体がついていけないと感じていませんか? 急な暑さで熱中症にならないためにも、今から始めたいのが汗をかきやすい体づくりです。そのポイントを紹介します。
熱中症で救急搬送される人数が最も多いのは、気温や湿度の高さがピークとなる7~8月(グラフ参照)。ですが寒暖差の大きい春先についても「熱中症の頻度は少ないものの、体温の調節には注意が必要です」と、国際医療福祉大学医学部 救急医学教授の志賀隆さんは話します。
「まだ春先の朝晩は冷えるからと厚着をしてウオーキングをした人が、熱中症で救急搬送されたケースがあります。日中、気温が上昇する中で汗をうまく外に出せず、体に熱がこもったのが要因だと考えられます」(志賀さん)。シーズン初めに気温の高い状況で活動するときは注意しましょう。
熱を逃がしやすくする
体を動かすと暑くなるのは、体内で熱が発生し体温が上がるためです。体温は、汗をかいたり皮膚の血管を拡張させたりして調節されます。
「気温や湿度が高い環境の中では、体内で発生した熱を外に逃がすのが難しくなります。春先は服装選びが難しいですが、前述のようなケースを防ぐには、気温が高くなり始める時期から、体を動かすときは吸湿性や速乾性のある衣類を身に着けるなどの工夫をしてみましょう」(志賀さん)
暑さに体を慣れさせる"暑熱順化"
今からできる熱中症予防のキーワードとして"暑熱順化"を知っておきましょう。
記録的な猛暑が続いた2023年は、4月に東京都心で3回、25℃以上の夏日が観測され、早い時期から暑い日が目立ちました。2024年も今から注意が必要です。
急な暑さが熱中症を招く
1日の中での気温差、日によっての気温差がヒトの生体リズムに影響するといわれています。
「急激に気温が上がると、熱中症のリスクが高くなります。これは、体がまだ暑さに慣れていないため、体内で発生した熱をスムーズに外に逃がす準備ができていないことが原因となっています」(志賀さん)
そこで大切なのが、本格的に暑くなり出す前から、体を暑さに慣れさせて、汗をかいて熱を逃がしやすくする準備を整えることです。
「体が暑さに慣れることを"暑熱順化"といいます。暑熱順化ができていないと暑くても汗をかきにくく、皮膚の血流量が増えにくいため、血管を広げて熱を外に逃がす熱放散がうまくいかず、体温が上がりやすくなります」(志賀さん)
また、汗は汗腺が血液中の水分を取り込むことでつくられます。その中には塩分やナトリウムなどのミネラルが含まれ、体の外に分泌される前に、ほとんどが体内に再吸収されます。
しかし暑熱順化していないと汗腺の働きが低下し、塩分やミネラルの再吸収が弱くなります。そのため、汗に含まれる塩分が多くなり、体に必要なナトリウムが失われることに。
「体内の水分と塩分のバランスが崩れ、熱中症のリスクを招くことになります」(志賀さん)
普段から汗をかく
一方、暑熱順化ができていると皮膚の血流量が増えやすくなり、熱放散もスムーズに。発汗が促進され、塩分の少ないサラサラした汗がかけるようになります。結果、体温が上昇しにくくなり、熱中症の予防につながります。
「汗をかく機会が少ないと、急に暑くなったときに体温調節に影響が出てしまい、汗をかくのが難しくなります」(志賀さん)
ぜひチェックテストを使って、自分の体の暑熱順化について把握しましょう。
あなたは大丈夫!? 暑熱順化チェック
直近2週間について伺います。
1~3について当てはまるものを1つ選択してください。
- 1. 入浴(シャワーだけでなく、湯船に入るもの)
-
- 2日に1回以上入浴している
- 週に3日入浴している
- 週に1、2日入浴している
- 入浴することはほとんどない
- ※上から3点、2点、1点、0点
- 2. 運動(汗をかく程度のもの)
-
- 週に5日以上、汗をかく程度の運動をしている
- 週に3、4日、汗をかく程度の運動をしている
- 週に1、2日程度、汗をかくほどの運動をしている
- 運動はほとんどしていない
- ※上から3点、2点、1点、0点
- 3. その他の汗をかく行動(運動・入浴以外の外出など)
-
- 汗をかく機会が週5日以上あった
- 汗をかく機会が週3、4回あった
- 汗をかく機会が週1、2回あった
- 汗をかく機会はほとんどなかった
- ※上から3点、2点、1点、0点
- [結果]
-
- 9点満点中0~2点:体が暑さに慣れていない可能性があります。急な暑さや暑さが続くタイミングでは熱中症に注意しましょう。
- 9点満点中3点:汗をかくことを習慣づけ、暑熱順化していきましょう。
- 9点満点中4~6点:複数の習慣で汗をかくことができています。続けていきましょう。
- 9点満点中7~9点:暑熱順化できている可能性が高いです。それでも油断せずにしっかりと熱中症対策を!
出典:日本気象協会推進 熱中症ゼロへ
暑さに負けない体をつくる
暑熱順化は1日にしてならず。本格的に暑くなる2週間前から汗をかきやすい体質に近づけましょう。
働き世代では、屋外での作業が多い職業ほど熱中症のリスクが高く、2022年における職場での熱中症による死傷者827人のうち、全体の約4割が建設業と製造業で発生しています(厚生労働省「令和4年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況」調べ)。
屋外作業が多い人は"徐々に"
「暑熱順化は、数日かけて徐々に行うのが基本です。屋外での活動は2週間ほどかけて少しずつ増やすのが望ましく、特に屋外で仕事をする場合は、1日目は通常の50%、2日目は60%、と段階を踏んで作業量を増やし体を慣らしていくとよいでしょう。初めての屋外作業では、1日の労働の20%程度にとどめることが、熱中症を防ぐ上で大切です」(志賀さん)
仕事や年齢、性別にかかわらず暑熱順化を進める場合でも、2週間ほどかけて徐々に体を慣れさせます。特に暑熱順化ができていない可能性のあるタイミング(下記参照)では、ことさら計画的に行います。
普段の行動も暑熱順化対応になる
暑熱順化のポイントは、汗をかきやすい体に近づけることです。
「例えば、体力に自信がない人でも、まずは短時間からウオーキングなどの有酸素運動がおすすめです」(志賀さん)
ウオーキングの他、ジョギング、サイクリング、筋肉トレーニング、ストレッチ、さらに入浴なども発汗を促す効果が期待できます。それぞれ回数や時間を守って行いましょう。
「働いている人は、通勤時の歩行も立派な運動になります。積極的に階段を使うなど、日常生活の中で運動量を増やすことも暑熱順化につながります」(志賀さん)
体を動かした後は汗をかいて水分や塩分が不足しないよう、水やスポーツドリンクなどを適切に摂取することも忘れずに。
暑熱順化の対応例
ウオーキング・ジョギング
サイクリング
筋肉トレーニング・ストレッチ
入浴
出典:日本気象協会推進 熱中症ゼロへ
もしも熱中症になったら
高温多湿の環境下に体が適応できなくなることで発症する熱中症。重症化する前に適切な対処を。
めまいがする、だるい、気持ちが悪い、吐き気がする、頭が痛い、ふくらはぎの筋肉がつる(こむら返り)、悪寒がする......。このような症状は、熱中症の疑いがあります。
異変を感じたらすぐ休息
「高温多湿の室内外にいるときや、暑い環境下でこのような症状が現れたら、熱中症の可能性が考えられます」と志賀さん。
自分で「熱中症かも」と感じた場合は、たとえ軽い症状であっても周囲の人に体調が悪いと伝え、速やかに休息を取ることが大切です。
その際に欠かせないのが、塩分を含んだ飲み物を摂取することです。
「熱中症は、体内から水分だけでなく塩分も失われている状態をいいます。体から失われた体液(水分、電解質、非電解質)を経口的に補う経口補水液が最適ですが、すぐに入手できない場合はコンビニエンスストアやドラッグストアでも購入できるスポーツドリンクを選択しましょう」(志賀さん)
さらに、衣服の中に体温がこもらないよう、ベルトなどをゆるめたり、ゆったりした衣類に着替えたりして、風通しをよくするのも忘れずに。
「首筋や脇の下、太ももの付け根など、太い血管が通る場所に保冷剤やぬれタオルなどを当てて冷やすのも効果的です」(志賀さん)
2人以上の行動を心掛ける
前述の応急処置によって症状が改善していくようなら、そのまま静かに休んで様子を見ましょう。
一方、すぐに医療機関を受診するべき危険な症状としては、自力で水分を摂取できない、呼びかけに反応しない、あるいは受け答えがおかしい、真っすぐ歩けない、といった状態が挙げられます。
「同僚や部下が仕事中にこうした症状に陥る可能性もあります。意識がない場合は無理に水分を口から取らせようとしないで、救急車を呼ぶなど速やかに医療機関へ。仕事の際、熱中症の危険性が高い日は、2人以上で行動すると予防や早期発見につながりやすくなります」(志賀さん)
正しい知識を身につけて熱中症を予防しましょう。
熱中症の症状チェック
- めまいや顔のほてり
- 体のだるさや吐き気
- 汗のかき方がおかしい
- 体温が高い、皮膚の異常
- 呼びかけに反応しない、真っすぐ歩けない
- 水分補給ができない
- 筋肉痛や筋肉のけいれん
- ※全身のてんかんと間違えないように注意して様子を確認する
出典:日本気象協会推進 熱中症ゼロへ
熱中症の応急処置例
涼しい場所へ移動
衣服を脱がして、体を冷やして体温を下げる
塩分や水分の補給
出典:日本気象協会推進 熱中症ゼロへ
志賀 隆
国際医療福祉大学 医学部 救急医学 教授国際医療福祉大学成田病院 救急科部長
医学博士。日本救急医学会救急科専門医・指導医。米国救急科専門医。公衆衛生修士(ハーバード大学)。救急診療の向上につながる研究や臨床に力を注いでいる。