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五月病にならないために

イライラや不安、
どう対処する?

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この記事のポイント

  • 五月病は「適応障害」の一種。発症時期は5月に限らない
  • オン・オフの切り替えが症状の長期化・悪化の防止になる
  • 従業員のメンタルヘルスケアは、職場全体で取り組みたい

過度のストレスは、心身の不調を引き起こす大きな要因の一つです。特に、新年度のスタートから1カ月ほどたった時期に起こりやすい五月病の特徴と、その対策についてご紹介します。

出社ができないほどではないけれど体調が悪い。仕事のやる気が何となく失せている。それまでにはなかったイライラや不安が募る。5月ごろに現れるこうした症状は、広く五月病と呼ばれています。
アイスタット(統計分析研究所)が20~59歳の働く男女300人を対象に行った調査によると、五月病を経験したことがある人は約53%と過半数に及びます。
また、経験したことがある人が考える五月病の原因として、「人間関係」、「GW(長期休暇)」、「気候・気温・湿度」、「入社(新入社員)・転職」、「仕事内容の変化」が上位を占めています。
これらに起因するのは心身のストレスです。
「ストレスによってメンタルや体調を崩し、深刻な状態へと進行しやすい人には一つの傾向があります」と、産業医として多くの経験を持つ、東京大学環境安全本部の大久保靖司さんは話します。

ストレスの蓄積に要注意

「真面目で、何事もきっちり成し遂げようとする几帳面きちょうめんな性格の人はストレスをため込みがちです。反対に、あまり細かいことにこだわらない性格の人の多くは、うまくストレスをかわせているようです」
ストレスがたまり続けると、心身に不調をきたし、うつ病などの深刻な状況になりかねません。「五月病かも」と感じたら、早めに対処することが大切です。

五月病の経験がある人は50%以上

アイスタットが2022年5月、20~59歳の男女300人を対象にウェブアンケートを実施。「今までに『五月病かも』と感じたことはありますか」という質問に対し、感じたことがある人はトータルで約53%と、感じたことがない人47.0%を若干上回っています。経験がある人の属性では「20・30代」「男性」「未婚」が上位に。

画面を拡大してご覧下さい。

更年期離職をした推計人数と1年間の経済損失を男女別で表した推計図
出典:アイスタット「マンスリーレポート 五月病に関する調査」
https://istat.co.jp/investigation/2022/05/result

五月病になりやすい人の性格TOP3は?
五月病になりやすい人の代表的な性格を挙げ、該当するかを複数回答で聞いた調査では、1位が「真面目」(38.0%)。2位が「一人で抱え込む」(30.7%)、3位が「几帳面」(30.3%)という結果に。

五月病とは

理想と現実のずれが五月病を引き起こす

五月病は「適応障害」の一種。
近年は不調が長引くケースも増えています。

「五月病は正式な病名ではなく、医学的には適応障害の一種とされています」と大久保さん。適応障害とは、自分のいる環境にうまく適応できないストレスから不調が生じた状態を指します。
「異動や入社、転職などにより、新しい環境で働き始めた当初は"早く慣れなくては"というプレッシャーが大きいものです。
ところが1カ月ほどたち、仕事や職場に慣れてくると、そうしたプレッシャーから解放される一方で、思い描いていた仕事や職場への期待や理想と、現実とのギャップが次第に見えてくるようになります。"華やかな業界だと思っていたのに実際は地味でがっかり"、"自分はもっと仕事ができると思っていたのに、こんなにもできないことが多いなんて"といった、理想と現実とのずれに対して感じるストレスが、五月病を引き起こす要因になると考えられます」

「五月病」の主な症状をチェック

心の症状
  • 集中力の低下
  • 意欲の低下
  • イライラ
  • 焦燥感
  • 不安
体の症状
  • 不眠
  • 頭痛
  • 腹痛や下痢、便秘
  • 胃痛
  • 倦怠感(けんたいかん)

五月病の症状は多様で、個人差もあります。うつ病とは「原因の考え方」に違いがありますが、症状には似ているものが多くあります。
ただし五月病では出勤できなくなるほどひどくなるケースはあまりありません。うつ病では遅刻や欠勤が増えることがサインの一つと考えられています。いつもと違う行動が増えてきたら注意を払いましょう。

不調が長引き、悪化する例も

意欲や集中力の低下、不眠や頭痛など、五月病の症状はうつ病と似ているものも多くありますが、イライラや不安の原因の考え方がそれぞれ異なっています。
「五月病の場合は、自分がうまくいかない原因は会社や仕事、周囲の環境などにあると考える傾向が強く見られます。一方、うつ病の場合は"うまくいかないのは自分のせいだ"というように、自分自身を責めてしまいがちです」
どちらの場合も思いつめることで精神的に消耗し、不調を起こしやすくなります。
「五月病は、現実を受け入れ、理想とのギャップを自分なりに埋めるなど、環境に適応してくると改善するケースも多くあり、一過性の不調と考えられてきました。しかし、産業医としての経験から、近年では不調が長引き、悪化する人が増えてきたと感じています」

5月に発症するとは限らない

5月ごろに限らず、6~7月くらいから不調が現れるケースが多いのも近年の特徴の一つです。
「一定期間のガイダンスや訓練期間を経て正式な部署に配属される場合などは、その分、不調の生じる時期が後ろにずれやすくなります」
また、時期に関わらず、転勤や転職といった変化によって五月病と同じ症状が起こる場合もあります。
深刻な症状へと進行すれば、出社できなくなったり、長期間の休職が必要になったりする可能性も。次に紹介するセルフケアで、しっかり対処していきましょう。

「五月病」と「うつ病」の違いとは

五月病は他罰的

「この会社は自分に合わない」「自分がやりたかった仕事ではないからうまくいかない」など、周囲や環境のせいにしがち。

うつ病は自罰的

「自分に能力がないせいでうまくいかない」「怒られるのはすべて自分の出来が悪いから」など、自分を責めてしまいがち。

セルフケア

オン・オフを切り替えて休日はしっかり休む

心身の不調を悪化させないためにも、普段からこまめにストレスを解消していきましょう。

五月病に限らず、ストレスがたまると胃が痛くなる、眠れなくなるなど、人によって不調が現れやすい体の部位や症状があるものです。
「ストレスがたまると自分がどのような状態になりやすいのか知っておくと、不調に早く気付くことができ、対策が取りやすくなります」と大久保さんは話します。
対策の⼀つとして、普段の休日をしっかりと心身のリフレッシュに充てましょう。
「休日は仕事のことは考えず、趣味やスポーツといった自分の好きなことをして楽しむのがおすすめです」
もし、好きなことを楽しめなくなっているとしたら、心身の不調が進行しているサインです。
「今まで好きだったことを楽しめなくなるのは、ストレスや疲労で精神的な余裕がなくなっているからです。自分が思う以上に気分が落ち込んでいたり、活動力が低下したりしている状態なのだと認識し、十分に休息を取りましょう」

自分のベストな方法を見つける

メディアなどでは様々なストレス解消法が紹介されていますが、"正解"はありません。
「ゆっくり自宅で休むのか、外に出てアクティブに過ごすのか、ストレスを解消するための最適な方法は人によって異なります。できれば若いうちからいろんなことを試して、自分なりのベストな方法を見つけておくといいですね」
また、五月病の場合は、その原因を自覚しにくい問題もあります。
「何となくイライラしたり、不安を感じたりしていても、その原因が職場環境に適応できていないからだとは、自分ではなかなか気付くことができません」
そこで大久保さんが勧めるのが、自分の思いをノートやスマートフォンのメモなどに書き出してみることです。
「自分が置かれている状況を簡単な文章にすると、自分がどんなことにモヤモヤを感じているのか、どうすればスッキリするのかを見つけるきっかけになります」

医療機関での適切な治療も大切

症状が改善しない場合は医療機関を受診するのも重要です。
「この程度の不調で受診してもよいのだろうか、と迷うかもしれませんが、近年は、『ちょっと眠れない日が続いているから医師に相談してみよう』など、比較的気軽に心療内科やメンタルクリニックを受診する人が増えています。早期治療につなげていきましょう」

五月病を防ぐ3つのポイント

自分に合ったストレス解消法を見つけておく

ストレスについての研究は多くあり、そのマネジメント法も研究者の数だけあるといわれています。どんな方法なら自分がリラックスできて気分がスッキリするのか、自分で見つけて役立てましょう。

職場で相談できる人を見つける

話を聞いてくれる上司や先輩メンターとは別に、気軽に相談できる人が職場にいると心強いもの。仕事で困っていることや悩みなどがあれば一人で抱え込まず、どんどん話して解決の糸口を見つけましょう。

近くのメンタルクリニックをリストアップしておく

メンタルヘルスの相談は、会社の人にはしにくいものです。産業医がいる場合は産業医に相談したり、通勤途中や自宅近くなどの通いやすいクリニックをリストアップしておくと、いざというときに役立ちます。

"モヤモヤ"はシグナル、紙や画面上に書き出してみると解決の手がかりに

「自分はどのような仕事がしたいのか」、「今の仕事のどんなところに不満があるのか」、「これからどうなっていきたいのか」など、仕事に対して抱いている思いを書き出してみましょう。箇条書きでもメモでも、頭の中や気持ちの整理につながります。

ラインケア

大切なのは「話を聞く」、ただしコツがいる

心身の不調を抱えている従業員がいる場合は、職場全体でサポートしていきましょう。

真面目に仕事に取り組んではいるけれどやや集中力に欠ける、以前より仕事への意欲が低下しているように見える......。管理職や上司の立場から、部下や新入社員のこうした様子に気付いたら五月病のサインと捉え、対策を講じましょう。
「理想と現実のギャップに悩み、仕事の目標を見失っている状態なので、本人の思いにじっくり耳を傾けることが大切です。話を聞くうちに、『自分ならもっと効率よく仕事ができるのに、職場の体制が悪いせいで非効率になっている』『自分はもっと大きな仕事ができるのに、地味な作業しか与えてもらえない』といった本音が見えてくるケースは少なくありません」
これは、自分がうまくできない原因を周囲に求める傾向が強い五月病の特徴によるものです。
「重要なのは、相手の不安や悩みを尊重し、決して否定しないことです。職場として受け入れられる内容であれば『それはよい提案ですね』と肯定する、もし仕事に対する認識に食い違いがあるなら『こういう理由でこのために必要なんですよ』というように、丁寧に説明しましょう」

目標設定や休養への配慮も大事

従業員のために目標設定をすることも管理職の大切な役目です。
「今の若い世代は小さなゴールを細かく設定して、それを一つひとつクリアするような教育を受けてきています。仕事でもあらかじめ立てられた計画通りに進めていくことを望む傾向が一般的に強いようです。目標を見失うことが五月病の一因です。例えば、1年後、2年後にはこうなる、といった中期的なキャリアプランの提示も対策の一つになるでしょう」
また、本人の不調の度合いによっては休養を促すことも忘れずに。
「悪化してそのまま寝込むことになったりすると、復帰の見通しを立てることも難しくなります。早めにしっかり休んで体調を整えてもらうことが、本人はもちろん、ひいては職場のためにもなるはずです」
適切な対策を⾏い、仕事への意欲につなげていきましょう。

従業員のメンタルヘルスケアのために職場全体で行いたいこと

職場でゆっくり話を聞く場や機会を設ける

普段から部下や新入社員とコミュニケーションを取り、話しやすい環境を整えましょう。話を聞く際は他の従業員に不⾃然に思われたり、他の⼈に話を聞かれたりしないような場をつくるとよいでしょう。

休暇を取りやすい仕組みをつくる

従業員が休職中の仕事の体制づくりはもちろん、休暇明けの仕事も段階的に増やすなど、管理職が中心になって調整しましょう。また、特別扱いをせず、他の従業員と同じように接することも大切です。

メンター制度を整える

先輩社員が新入社員や若手社員をサポートする制度ですが、1対1だと先輩社員の負担が大きくなる場合も。メンターを2人にしたり、メンターのための研修を設けたりするなど、メンターへのサポートもぜひ検討を。

こんな対処法には気を付けて!

お酒の席に誘って話を聞こうとする
近年は、上司が部下をお酒の席に誘うことがパワーハラスメントと受け取られる場合も少なくありません。仕事とプライベートはきっちり分け、できるだけ勤務時間内に社内の会議室などで話を聞くようにしましょう。
「やる気があるの?」
相手の気持ちを考えない声掛け
部下や新入社員のやる気が見えずイライラするかもしれませんが、相手のプライドを傷つけるような発言はNGです。
よいところを見つけて褒めるなど、やる気を引き出す声掛けを意識しましょう。
相手に気を使いすぎる
注意すべきことでも注意しない
叱るとハラスメントと捉えられるのではないかと不安を感じるかもしれませんが、注意すべきことをきちんと注意することも管理職や上司の役目です。感情的に怒るのではなく、適切な伝え方を心掛けましょう。
監修

大久保 靖司

東京大学環境安全本部 教授・産業医

博士(医学)。産業医科大学医学部卒業。産業医として健康管理分野を担当。産業医学を専門とし、長時間勤務やヒューマンエラーなどを含む安全衛生管理に関する包括的な研究を行っている。