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この記事のポイント

  • 生物学上では、男性の体は女性よりも冷えやすい
  • 冷え症のタイプは「下半身型」が最多。他タイプとの混合型も
  • 自分に合った対処法と生活習慣の改善で、冷えは防げる

昔から「冷えは万病の元」といわれます。「男性だから冷え症にはならない」「暑い季節は冷えないから安心」といった油断は禁物。冷えから体を守る生活を心掛けていきましょう。

寒いときに手足が冷えるのは当たり前ですが、季節を問わず慢性的に体の冷えを感じる人もいます。
「特に冷えがつらくて苦痛であり、日常生活に支障が出るような状態の人を『冷え症』といいます。診断名ではなく症状名のため、体温が何℃以下なら冷え症である、といった診断基準はありません」と話すのは、長年にわたり冷えの研究を行ってきた、北里大学客員教授で、同大学北里研究所病院 漢方鍼灸治療センター医師の伊藤剛さん。
「冷えは女性に多いイメージがありますが、実は江戸時代までは男性特有の症状として知られていました。『一般的に冷えによる病気は男性に多いと思われているが、女性にもある』と、当時の漢方医家・津田玄仙が指摘しているくらい男性に多かったのです」

冷えが病気を招く

しかし現代では「自分に冷え症は関係ない」と思い込んでいる男性が少なくありません。
「当院の冷え症外来を受診する男性は女性の7分の1程度ですが、加齢に伴い冷えのつらさを自覚する男性も増えています。冷えは全体的に体や内臓の機能を低下させ、下痢や不眠などの不調の原因となるほか、膀胱炎や心筋梗塞などの病気につながる可能性もあります。また、免疫力が低下し、がんや感染症のリスクなどが高まることも考えられます。まずは自分の体の状態に目を向けてみましょう」

実は女性より冷えやすい傾向にある男性の体

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女性は寒い時期にも薄着のおしゃれを優先しやすい分、冷えやすい。一方、男性はスーツやズボン、スパッツなどで冷え対策をしている。「もし筋肉量が少なく、女性と同じような薄着をしたらたちまち不調に陥るくらい、男性は生物学的に冷えやすいのです」(伊藤さん)。
冷え症のタイプ

自分の冷え症のタイプを知る

冷えが生じる部分によって原因も異なります。
自分の体の状態を知って、対策につなげましょう。

伊藤さんが研究し、分類した結果、冷え症には基本的に大きく4つのタイプがあることが分かりました。

「1つ目は手足の末端が冷える『四肢末端型』、2つ目は『下半身型』で足など腰から下が冷えるタイプです。3つ目の『内臓型』は、体の外側は温かいけれど、おなかなど体の中が冷えているのが特徴で、比較的男性に多いタイプです。4つ目は体の外側も内側もすべて冷えている『全身型』です」
このうち最も多いのが「下半身型」です。
「下半身型は男女共に、老化に伴い起こりやすくなります。若い頃は冷えを自覚していなかった男性も、50歳を過ぎた頃から下半身の冷えを感じるケースが多く見られます」

冷え症の基本の4タイプ〈該当する項目が多いタイプをチェック〉

四肢末端型

  • 手先や足先が冷える
  • 汗をあまりかかない
  • 食事の量は少なめ
  • 運動不足気味
  • 頭痛や不眠もある
★体内の熱量が不足しているため、体温低下に対する防御反応が過剰に働き、手足の熱を逃がさないよう末梢の血流を減少させたために起こる。

下半身型

  • 腰から下は冷えるが手は温かい
  • 顔や頭に汗をかきやすい
  • 食事の量は普通
  • 座りっぱなしが多い
  • 足が冷え、顔がほてることがある
★老化現象の一種で、50代以降に自覚しやすくなる。座りっぱなしの生活も一因。

内臓型

  • 腹部は冷えるが、手足は触れると温かい
  • 全身に汗をかきやすく冷えやすい
  • 食事の量は多め
  • やや太り気味
  • おなかにガスがたまりやすい
★寒い環境でも皮膚表面の血流が減りにくい一方、体の深部の熱が過剰に漏れて冷える。

全身型

  • 体温が常に低く、肌寒さを感じる
  • 汗はほとんどかかない
  • 食事の量はどちらかというと少なめ
  • やせ気味
  • 人からも手足が冷たいと言われる
★生活習慣の乱れや老化による基礎代謝の低下や甲状腺の病気などが要因。

座りっぱなしが一因

老化だけでなく、デスクワークなどで長時間座りっぱなしの姿勢を続けることも、下半身の冷えを加速させてしまいます。
「座ると臀部でんぶにある梨状筋りじょうきんによって、腰からつま先へと伸びる坐骨神経が押されます。長時間座り続けると梨状筋が凝って硬くなるため、坐骨神経への圧迫もひどくなります。するとその周囲にある交感神経が緊張し、脚の血管を締めてしまうため、下半身の血流が滞って冷えが進行するのです」
放置すると冷えだけでなく、しびれや痛みの症状を招く恐れもあります。
さらに、下半身型に四肢末端型や内臓型、全身型の冷えを合併した『混合型』も存在します。それ以外に体のごく一部のみが冷える『局所型』があるため、冷え症による冷え方は全部で6タイプになります。
まずは基本の4タイプから自分に近い症状を探してみましょう。

最も多いタイプは下半身型。混合型も増えている

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下半身型(50.7%)、内蔵型(10.4%)、四肢末端型(9.0%)、全身型(4.5%)、混合型(25.4%) 混合型の内訳:内蔵型+下半身方(61.1%)、四肢末端型+下半身型(22.2%)、全身型+下半身型(16.7%)
北里大学北里研究所病院 漢方鍼灸治療センター 冷え症外来を受診した患者(男性9人、女性67人)を対象に、伊藤先生が冷え症のタイプを調べた結果、下半身型が過半数に上った。また、全体の約4分の1を、下半身型に内臓型や四肢末端型、全身型を合併した混合型が占めている。
データ:北里大学北里研究所病院 漢方鍼灸治療センター
タイプ別対策

自分に必要なケアで冷えから体を守る

冷え症のタイプに応じたケアを知って
冷えにくい健やかな体に近づけましょう。

冷え症の予防や改善には、冷えの原因に応じた対策が大切だと伊藤さんは指摘します。
「例えば、手足が冷える四肢末端型は、普段の食事量や運動量が少ないため、体の熱を産生しにくい状態にあります。食事をしっかり取り、毎日適度な運動をすると、体の熱が作られやすくなります」
さらに足先の冷えには、足の指を伸ばすストレッチが効果的。足の指の付け根にあるツボが刺激され、血流改善につながります。
長時間の座りっぱなしが冷えの要因となる下半身型は、仕事中も定期的に立ったり歩いたりを意識しましょう。「梨状筋の凝り解消には、仰向けになり、お尻の下にソフトボールを入れ、体重をかけてお尻の真ん中あたりを30秒程度押す方法がおすすめです。また、ふくらはぎの筋肉を反対側のひざで下から上へこすりながらほぐすマッサージでも、下半身の冷えを改善できます」

内臓型に冷たいものはNG

体の中が冷えやすい内臓型は、副交感神経が優位なために血管を収縮させる交感神経の働きが弱いのが特徴です。
「これらの自律神経のバランスを整え、体内の冷えを改善するうえでも運動が大切です。飲食物はなるべく冷たいものを避けましょう」
冷えが強いときは、尾てい骨の上に位置する仙骨をカイロで温めるのもおすすめです。

全身型の原因は多様

常に低体温状態が続く全身型の原因は、生まれつきの体質や甲状腺機能の低下、不摂生、ストレス、睡眠不足、栄養失調など、多岐にわたります。
「食事や運動などの生活習慣を見直し、それでも改善しない場合や不調が続くときは、病気が隠れていないか医療機関で調べ、適切な治療を」

タイプ別冷え症対策のポイント

四肢末端型

足先の血流を改善する

椅子に座り、片方の足をもう一方の太ももに乗せ、手のひらで足の甲を持つようにして、3~5秒伸ばす。手を離し、3~5秒休んだ後、また伸ばす。5回繰り返し、反対側の足も同様に行う。

下半身型

ふくらはぎの凝りをほぐす

椅子に座り、片方のひざにもう一方のふくらはぎを当てて足首からひざ裏まで下から上へとゆっくりこする。ふくらはぎの内側、真ん中、外側と位置をずらしながら、「痛気持ちいい」場所は10回程度こする。反対側の足も同様に。

内臓型

仙骨せんこつをカイロで温める

尾てい骨の上の平らな部分にある仙骨は、膀胱や直腸などの内臓の血流を調整する交感神経が走っている。この部分にカイロを当てて温めると、内臓の血流が増えて、腹部の深部が温まりやすくなる。

全身型

早めに医療機関を受診する

体温が低下して「疲れやすい」「食欲がない」「下痢しやすい」といった冷え以外の症状が生じるケースもある。特に女性や高齢者は甲状腺機能低下症などの病気が隠れている場合もあり医療機関での検査が重要。

漢方薬は漢方専門医に処方してもらうのがベスト

四肢末端型には「当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)」、下半身型には「牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)」など、冷え症の治療に用いられる漢方薬はあるが、必ずしも自分の冷えに適しているとは限らない。漢方専門医に処方してもらうのが確実だ。

4タイプ共通対策

生活習慣を改善する

「冷え症は生活習慣病の一種」と伊藤さん。
生活習慣の改善が、どのタイプにも共通する冷え対策の基本です。

「タイプにかかわらず、冷え症は代謝や免疫機能を低下させ、病気の引き金になったり、持病を悪化させたりする要因になります」
多くの場合、普段の食事や運動が影響する冷えは、生活習慣病といえます。生活習慣を整えて冷えの予防や改善につなげましょう。
特に重要なのは、栄養バランスのとれた食事と適度な運動です。
「男性は女性に比べて食事をしっかり取る傾向にありますが、ごはんや麺などの炭水化物に偏らないよう注意を。運動しなくても体の熱をつくれるたんぱく質が重要です」
普段は運動をしないけれど、たまにゴルフなどを楽しむ人も少なくありません。そのときに腰を痛め、下半身型の冷え症を招いた例も少なからずあります。日頃から散歩などの軽い運動を毎日行い、足腰を鍛えておきましょう。

暑い日でもかき氷は控える

「最近は冷え対策や健康に良いと、白湯さゆが人気を集めていますが、白湯が冷え症の予防になるという医学的な根拠はありません。もちろん冷たすぎる水は内臓を冷やしますが、水道水くらいの温度であれば問題はありません。ただし飲み過ぎには注意してください。
また、暑い日にアイスクリームを少しくらい食べたとしても冷えが増す心配はありませんが、氷は冷却性が強く、内臓を冷やす要因になります。おなかの調子が悪くなったり、食欲不振を招いたりする場合があるので、かき氷などはなるべく控えるのが無難です」
冷房の効いた室内で何時間も飲酒するのも、冷えを悪化させるので注意が必要です。
自分の体は自分で守るという意識が健康維持に欠かせません。生活の中から冷えの要因をできるだけ減らし、元気に過ごしていきましょう。

全タイプ共通 冷えを防ぐ生活習慣

食事

たんぱく質をしっかり取る

たんぱく質は体の熱を生み出す筋肉の材料になり、糖質や脂質に比べて体の熱を産生する割合も高い栄養素。たんぱく質を多く含む肉や魚、卵、乳・乳製品、大豆・大豆製品などを毎日の食事に取り入れよう。

運動

マイペースでできる運動が最適

全身の血行を促進し筋肉量を増やすなど、運動には冷えの予防や改善につながる効果が大きい。ただし人と競う運動は交感神経が優位になり、血行不良を招くことも。ウオーキングやジョギング、体操など一人でできる運動がベスト。

入浴

半身浴ではなく全身浴がおすすめ

腰から下だけ湯船につかる半身浴では上半身まで温められず、冷えを改善できない。暑い時期はシャワーで済ませても構わないが、気温が下がってきたら肩までつかる10分以内の全身浴を習慣にして全身の血行を促進。

飲酒は量と飲む環境に注意

アルコールの分解中に発生するアセトアルデヒドは血管を拡張し、体内の熱を放散する。冷房下など体が冷える環境での飲酒は、体熱を逃がす原因に。「夏は屋外のビアガーデンなどのほうが冷えにくい。深酒も体温を下げるので、適量にとどめるように」

監修

伊藤 剛

北里大学客員教授

北里大学北里研究所病院漢方鍼灸治療センター(漢方科・鍼灸科)医師。日本東洋医学会認定漢方医・指導医。日本消化器病学会消化器病専門医。日本内科学会認定医。日本自律神経学会功労会員。国際全人医療学会理事。冷え症をはじめ様々な病気に対し、東西医学を融合して診療に当たる。