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汗のにおい対策

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この記事のポイント

  • 汗対策不足はスメハラ(スメルハラスメント)の原因に
  • においが発生するメカニズムを知り、早めに汗のケアを
  • 食べ物・衣類・ムダ毛にも注意。症状がひどい場合は医療機関の受診を

においにより周囲を不快にさせる行為を表す「スメルハラスメント(スメハラ)」。夏は汗のにおいが職場でのスメハラの要因にもなりかねません。誰もが快適に仕事ができるよう、しっかりにおい対策をしましょう。

リンナイが全国20~60代の男女計1000人に行った意識調査によると、汗・においに悩む人は約6割にのぼります。このうち、「汗が気になる部分」「体臭が気になる部分」のどちらもトップになったのが「わき」。発汗量が増える夏は、わき汗によるシャツの汗じみや不快なにおいが特に際立ちます。

対策不足が悪臭のもと

「汗のにおい方に男女差はありません。一般的に女性より男性のほうが汗臭くなりやすいのは、手入れの有無にあると考えられます」と話すのは、腋臭症えきしゅうしょう(わきが)や多汗症のエキスパートである、こまちクリニック顧問の土井秀明さん。

冒頭の同調査でも、男性の約6割が汗・においの対策をしていないと回答しています。適切な対策をしましょう。

汗・においが最も気になる部分は「わき」

画面を拡大してご覧下さい。

「夏の汗・におい」に関する意識調査の図
出典:2020 年7月、全国47都道府県に住む20~60代の男女計1000人を対象に行われた「夏の汗・におい」に関する意識調査による。リンナイ調べ
においの原因

なぜ、わきの汗はにおいやすいのか

多くの人が悩みを抱える、わきの汗とにおい。
そのメカニズムとセルフチェック法を紹介します。

汗を出す汗腺には、エクリン腺とアポクリン腺の2種類があります。
「エクリン腺は全身に分布し、主に体温調節のために汗を出します。分泌される汗はほぼ水分で、汗自体ににおいはありません」
アポクリン腺はわきの下や乳輪、外陰部と限られた部位にあります。分泌する汗には、たんぱく質や脂質などの"においのもと"が含まれています。
エクリン腺から出る汗がサラサラしているのに対し、アポクリン腺から出る汗は白っぽく粘り気があります。
どちらの汗腺から出る汗も、かいた直後はほぼにおいません。時間と共に細菌が繁殖し、汗を分解する際ににおいが発生します。特に"においのもと"を含むアポクリン腺から出る汗は、強いにおいに変化しやすくなります。

わき毛もにおいの一因

アポクリン腺は特にわきの下に多く分布しています。
「アポクリン腺から出る汗に含まれるたんぱく質や脂質が、わきやわき毛に存在する細菌(常在菌)に分解されると、発酵した乳製品のような独特のにおいが生じます」
アポクリン腺は体毛にひも付いており、わき毛の量が多いほどアポクリン腺の数が多く、においやすい傾向があります(下図参照)。
「わきが強くにおう体質を腋臭症(わきが)といいます。わきがには耳あかの性質を決定するABCC11遺伝子が関与し、耳あかが湿っているとわきがの可能性が高いと考えられてきました。しかし近年の研究では、耳あかとわきがは必ずしも一致しないとされています」

汗のにおいが発生する仕組み

画面を拡大してご覧下さい。

全身にあるエクリン腺から出る汗はほとんどが水分で無臭だが、皮膚表面の細菌が汗を分解する際に不快なにおいが発生する。一方、わきの下や乳輪、外陰部などに多いアポクリン腺から出る汗にはたんぱく質や脂質が含まれ、細菌が分解する際にわきがの原因となる強いにおいが発生しやすい。

自分のにおいを知る

「自分のにおいは分かりにくいので、家族など近しい人による客観的な評価も大切です。実はにおっていないのに"他人から臭いと思われているのではないか"と悩む自臭症の対策や改善にもつながります」
きちんと対策すれば汗のにおいは予防できます。早速始めましょう。

ガーゼを使って自分のわきのにおいをチェック

医療機関での腋臭症(わきが)の診断に用いられる「ガーゼ法」は、自宅でも応用できる。わきに清潔なガーゼをはさみ、5~10分程度、軽く汗ばむくらいの運動をする。その後、ガーゼに付いたにおいの程度を確認する。できれば家族の協力のもと、客観的に評価してもらおう。

基本のケア

汗を抑え、かいた汗を放置しないケアを

かいた汗をそのままにしていませんか?
こまめな拭き取りを心掛けましょう。

アポクリン腺から出る汗はにおいのもとになりますが、「汗自体はエクリン腺から出る汗と同様に、実はそれほどにおいません」と土井さん。
「においが発生するのは、かいた汗を放置するからです。汗が乾く過程で皮膚の雑菌(常在菌)が作用し、汗に含まれる脂肪酸などのにおい成分が酸化し、分解されると、いやなにおいに変化します」
においを防ぐには、汗をかいたらなるべく早く拭き取るのが重要。職場や外出先でもこまめに拭き取れるよう、市販のデオドラントシートを常備するのもおすすめです。

こすり洗いを避ける

可能であれば、夏場は日中もシャワーで汗を流したほうがにおいを解消する効果はより高まります。
少なくとも、帰宅したら早めに入浴することをおすすめします。
「皮膚を洗浄する際に、殺菌・消毒する作用を持つ、薬用(医薬部外品)の石けんやデオドラントソープを使い優しく丁寧に洗うと、においの予防につながります」
ただし、においを消したいからと、ゴシゴシと強くこするように洗うのは逆効果になりかねません。摩擦刺激で皮膚が傷つくと雑菌が繁殖し、さらににおいやすくなる恐れがあります。体を拭くときもゴシゴシこするのは避け、タオルでそっと肌を押さえて水分を吸収させましょう。

わきがには塗る制汗剤

汗やにおいを少しでも抑えたいなら、出勤や外出の前や、汗を拭き取った直後に市販の制汗剤を塗布するのが効果的です。
制汗剤の多くは汗の出口を小さくして発汗を抑える作用がある他、殺菌成分や消臭成分なども配合されています。
「汗だけでなく、わきのにおいをしっかり防ぎたいなら、直接わきに塗り込むロールオンやスティック状の制汗剤が良いでしょう」
なお、多汗症の治療に保険適用外で用いられる塩化アルミニウム溶液が配合された市販の制汗剤もありますが、場合によっては皮膚の炎症を起こすケースもあります。制汗剤を使用して皮膚の赤みやかゆみが生じたら使用を中止し、皮膚科で診察を受けましょう。

汗・においを抑える主な成分

銀イオン(Ag+)
殺菌・抗菌作用を持つ。細菌の増殖を防ぎ、これからかく汗のにおいを抑える。すでに発生した汗のにおいを消す効果も期待できる。
イソプロピルメチルフェノール
殺菌・抗菌作用が高く、制汗剤の他、薬用石けんや薬用歯みがきなどに広く使われる。においの原因菌を殺菌し、不快なにおいを抑える。
クロルヒドロキシアルミニウム
汗の出口である汗腺にふたをして発汗を抑える作用を持つ。わきの汗を抑えて、においを防ぐ効果が期待できる。
ミョウバン
血管を収縮させる作用により、汗腺が閉じて汗が出にくくなる。消臭効果があり、わきがの原因のアポクリン腺から出る汗のにおいを抑える。

制汗剤の種類と特徴

市販のもの

種類 特徴
ロールオン 容器の頭部に回転するボールが付いている。わきに直接塗りやすく、密着度も高い。わきが対策におすすめ。
スティック 制汗剤がスティック状に固められている。直接肌に塗り込むため汗やにおいを抑える効果が高い。
スプレー 背中など手の届きにくいところまで広範囲に吹きかけられる。速乾性が高いのも特徴。
クリーム 肌への密着度が高く、長時間汗を抑える効果が期待できる。保湿効果により、肌の乾燥を防ぐものもある。
シート ウエットティッシュ型が多く、手軽に全身の汗やにおいを拭き取れる。肌を冷やす効果があるものもある。

保険適用の外用薬

わきの汗を抑える保険適用の外用薬として国内で初めて承認された「エクロックゲル5%」は、エクリン腺から分泌される過剰な発汗を抑える作用がある。アプリケーターにゲル状の薬剤をのせてわきの下に塗り広げる。
2022年には、1回使い捨てのシート型の塗り薬「ラピフォートワイプ2.5%」も保険適用になっている。使用する際は皮膚科に相談しよう。

プラスケア

汗のにおいを防ぐ習慣と治療法

生活習慣の中にもにおいを悪化させる要因が。
日進月歩の多汗症やわきが治療にも注目を。

汗のにおいには、食べた物も大きく影響します。
「例えば、ニンニクに含まれるアリインは代謝の過程でにおい成分のアリシンに変化し、血液中に取り込まれて全身を巡ります。血液は汗の原料。最終的に、におい成分を含む汗となって出てくるのです」
また、肉類や乳製品などの動物性脂質を取り過ぎると、皮脂の分泌が過剰になり、汗と混ざり合ってにおいが悪化することもあります。
アルコールの飲み過ぎにも注意が必要です。
「アルコールが分解されるときにつくられるアセトアルデヒドは刺激臭を伴う物質で、汗と共に分泌されると不快なにおいが発生します」
においの強い食べ物、動物性脂質、アルコールの取り過ぎは控えましょう。
さらに、運動不足や喫煙、ストレス、睡眠不足といった生活習慣の乱れも、汗や皮脂の成分を変化させ、においのもとになる場合があります。生活習慣の見直しは重要なにおい対策の1つです。

多汗症治療でにおい軽減

セルフケアでは改善しにくい汗のにおいやわきがに悩んでいる場合は、医療機関への受診も検討してみましょう。
「原因となる病気や障害がないにもかかわらず多量のわき汗が6カ月以上あり、日常生活に支障を来すなどの一定の基準を満たすと原発性多汗症と診断されます。わきがの治療(下参照)でエクリン腺の汗を減らし、わきの下を乾燥した状態にすると、アポクリン腺から出る汗が細菌で変性するのも防止できます。結果、においが軽減します」
治療の選択肢は様々です。においの悩みを解消し、快適に夏を過ごしましょう。

わきが治療の種類と特徴

ボツリヌストキシンA注射
ボツリヌス菌がつくるボツリヌストキシン(ボツリヌス毒素)をわきに注射してエクリン腺をまひさせ、汗の分泌を抑える。多汗症と診断されれば保険適用になる。手軽だが効果が半年程度しか持続しないため、繰り返しの治療が必要。
ミラドライ
マイクロ波(電磁波)を利用し、エクリン腺とアポクリン腺に熱ダメージを与え、発汗機能を抑えてわき汗とわきがを改善。皮膚へのダメージを最小限に抑え、傷痕も残らない。保険適用外なので治療費が高額になりやすい。
剪除法(せんじょほう)
保険診療によるわきがの手術で、局所麻酔後、わきを数センチ程度切開し、アポクリン腺を除去する。確実な治療法だが、術後は皮膚と皮下脂肪が完全に生着するまで、患部の圧迫固定と安静が必要。1週間前後の時間を要する。

こんなにおいのもとにも注意

食べ物

においの強い食べ物をなるべく控える

ニンニクなどのにおいの強い食べ物や香辛料、動物性のたんぱく質や脂質を多く含む肉類、アルコール類は、代謝の過程でにおいのもとになる成分が生じやすい。取り過ぎに気を付けると同時に、焼き肉とビールといった組み合わせもできるだけ控えよう。

衣類

染み付いたにおいにはクリーニングが効果的

体を清潔にし、洗濯をまめにしてもにおう場合は、衣類の繊維に汗や皮脂が浸透している可能性がある。通常の洗濯ではにおいや汚れを落としきれないので、ワイシャツやズボンはもちろん、直接肌に触れる下着やTシャツなども定期的にクリーニングを。

ムダ毛

適切な処理で毛に絡みつく汗を防ぐ

アポクリン腺にひも付くわき毛や胸毛などに汗が絡みつくと、毛を足場にして細菌(常在菌)が繁殖し、においが発生しやすくなる。毛の量が多い場合は入浴時にカミソリでそる、あるいはハサミで短くカットするなどの処理をしよう。

監修

土井 秀明

こまちクリニック 顧問

日本美容外科学会専門医・理事。日本形成外科学会専門医・皮膚腫瘍外科指導専門医など、多くの学会で要職に就き、臨床のみならず学術的にも美容外科学の発展に貢献。専門分野は腋臭症(わきが)、多汗症、眼瞼(がんけん)手術、シワ取り手術など多岐にわたる。