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この記事のポイント

  • 健康診断で現状を知り、健康レベルの改善につなげる
  • メタボ予備軍になりやすい40歳以降は特定健診が必須だ
  • 職場でも生活習慣の改善が継続できる仕組みづくりを

病気の早期発見・早期治療はもちろん、病気の予防にも有効なのが会社の定期健康診断です。健康診断の目的や結果の生かし方を正しく知って、従業員の健康管理につなげましょう。

年1回の定期健康診断は、労働安全衛生法で事業者による実施が義務付けられています。従業員の健康状態を把握・管理するには、定期健康診断は重要です。従業員にも、事業者が行う健康診断の受診義務があり、受診は病気の早期発見や健康維持につながります(下図参照)。

健康診断の実施・受診義務とその目的

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病気の症状がないから自分は健康だ、検査も必要ないと考える人もいるでしょう。しかし、「無症状でも検査で異常が分かる病気があります。健康診断はその早期発見・早期治療、また病気自体の予防のために必要です」と、東京慈恵会医科大学医学部客員教授の和田高士さんは話します。

重症化リスクを回避する

「健康診断では、がんや脂肪、筋肉、神経にできる悪性腫瘍などは検査の対象外です。対象とするのは、有病率が比較的高く、放置すると深刻な状態を招く恐れがある病気です」
中性脂肪値やコレステロール値の高い状態が続く脂質異常症や、血圧の高い状態が続く高血圧症がその代表例です。進行すると脳梗塞や心筋梗塞といった重症化リスクがあります。病気により従業員の仕事が制限されれば、企業にとっても大きな損失になりかねません。
「健康診断で異常が見つかっても、適切に対処すれば正常化するケースは多くあります」
健康診断の結果を適切に生かし、従業員が健やかに働き続けられるようサポートしましょう。

「判定区分」の意味

健康診断は"模試"
次に生かしてこそ

健康診断結果は、検査項目ごとに4段階評価されます。
「判定区分」の見方を知っておきましょう。

定期健康診断の検査項目は、労働安全衛生法により定められています。
身長、体重、腹囲の測定をはじめ、視力および聴力、胸部X線および(かく)(たん)、血圧、貧血(血色素量および赤血球数)、肝機能(GOT、GPT、γ-GTP)、血中脂質(LDLおよびHDLコレステロール、血清トリグリセライド)、血糖、尿、心電図など、計11項目の検査が行われ、その結果は項目ごとにA~Dの判定区分で示されるのが一般的です(下の囲み参照。判定区分は検査機関や方法によって異なる場合あり)。
「判定区分は、検査時点での健康レベルや改善の必要な項目を知る目安です」

判定区分の見方

健康な人の集団(健常者)の検査結果を基に平均値を算出し、健常者の95%が含まれる範囲を基準範囲(基準値)としている。基準範囲を外れることで予測される重大な疾患の発症リスクによって、判定区分が決まる。

  • A 異常なし
  • B 軽度異常
    基準範囲を若干外れるが、将来の重大な疾患の発症はあまり心配ない。
  • C 要再検査・要生活習慣改善
    生活習慣病が疑われるが、医療機関で精密検査や治療を受けるほどではない。再検査は生活習慣を改善してから受ける。
  • D 要精密検査・要治療
    将来、重大な疾患を発症するリスクが高く、医療機関で精密検査や治療を受ける必要がある。

主な検査項目別の判定区分

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判定区分別に検索項目の値を表した表
  • 収縮期血圧、拡張期血圧いずれかは悪い数値から血圧判定とする

各判定区分の数値は検査項目によって幅がある。前年と比べて数値が悪化していないか、経年変化を見ることも大切だ。検査機関や方法により、判定区分は異なる場合がある

出典:日本人間ドック・予防医療学会「判定区分 2024年度版」を一部改変

次回の判定区分を上げる

「健康診断直後は結果の悪かった項目を気にしても、自覚症状がないからと放置し、結果的に症状を悪化させる就労者は多い」。和田さんは健康診断を"模擬試験"にたとえます。
「模擬試験を受けるだけでは学力は上がりません。結果が出たら、できなかったところを勉強して、次の試験に生かす必要があります」
健康診断も同様に、判定区分の確認だけで終わらせず、次回健診に向けた積極的な生活習慣の改善が不可欠です。判定Dは医療機関で精密検査や治療を受ける必要があります。
「経営者から従業員への注意喚起も大切です。生活習慣を改善しなければ、再検査をしても結果は変わらない。治療が必要なのに放置していると重大な病気を引き起こして仕事に支障を来す。この2点をしっかり周知し、健康経営につなげてください」

「特定健診」が重要

40歳以降はメタボ対策を重視

メタボリックシンドロームは多くの疾患の引き金に。
40歳を過ぎたら特定健診が必須です。

近年の医療費の増大や生活習慣病の増加を受け、「特定健康診査(特定健診)」と「特定保健指導」の実施が推進されています。特定健診の検査項目は定期健康診断に含まれているため、従業員は特別な受診をする必要はありません。
特定健診の対象は40歳から74歳までのすべての医療保険加入者と被扶養者です。メタボリックシンドロームの該当者と、その予備群に対して実施される特定保健指導が必要な人を見つけることが目的です。
メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪型肥満に高血圧、高血糖、脂質異常が組み合わさった状態をいいます。特定健診では内臓脂肪の蓄積を診るために腹囲の計測を行い、血圧、血中脂質、血糖の数値からリスク要因の数を調べます。そこから3つの支援レベルに分けられ、それぞれのレベルに応じた特定保健指導が行われます(下図参照)。

特定保健指導の支援レベルはこうして決まる

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出典:厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」を基に作成

40~50代男性のリスクが高い

メタボリックシンドロームは内臓脂肪型肥満を出発点として、多くの重大な病気を次々に引き起こします。
高めの血圧や血糖、脂質の異常に対して生活習慣を改善しないまま放置すると、高血圧症や脂質異常症、糖尿病といった病気になり、動脈硬化が進行します。動脈硬化は心筋梗塞や脳卒中、(まっ)(しょう)動脈疾患、慢性腎臓病などの病気を引き起こします。治療を受け改善しないと心不全や認知症、腎不全などのリスクも高まります。
厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査報告」によれば、40~50代男性の約4割が肥満(BMI25以上)です。「偏った食生活や運動不足などの悪い生活習慣が引き金となり、メタボリックシンドロームやその予備群となりやすい世代です。特定健診の結果は特に注意して見る必要があります」。
メタボリックシンドロームの該当者とその予備群に対して医師や保健師、管理栄養士らが行う特定保健指導の主要達成目標は、3カ月で腹囲2cm・体重2kg減と、2024年度から設定されました。「以前の目標値である腹囲3cm・体重3kg減から引き下げられました。達成には継続的な生活習慣の改善が必要です」。

「仕組み化」で健康維持

会社でできる改善の取り組み

次の健康診断の結果を今より良くするためにも、
仕事をしながらできる健康づくりを考えましょう。

「健康診断の結果を、従業員の生活習慣の改善に役立ててもらう。それが最も重要な健康診断結果の使い方です」
数日あるいは数週間だけ生活習慣の改善に取り組んでも、1年後の健康診断結果は良くなりません。
「健康維持には心身に良い生活習慣を長く続ける必要がある。でも本人に相当強い意志がないと、なかなか続かないのが実情です」
そこで和田さんが提唱するのが、職場での健康づくりの「仕組み化」です。改善すべき生活習慣の一つ「運動不足」対策として、ラジオ体操の時間を設ける、社内を歩く機会を増やすなどの方法が考えられます。

在宅の従業員にも運動を促す

「屋外での運動だと、天候に左右されたり、出掛けるのがおっくうになったりして続けられなくなりがちです。思い立ったらいつでも屋内でも体を動かせるような仕組みをつくりましょう」。リモートワークの従業員にも、定期的に体を動かす働きかけがあるとベストです。
経営者自身の健康管理も大切です。「トップの健康意識が高いほど、従業員への説得力も増します。飲み物も無糖のものを選ぶなど、毎日小さなことから積み重ねを」。
次回の健康診断に向けて継続しましょう。

継続的な生活習慣改善努力により
3年後の特定健診結果も改善傾向に

2011~2014年度の特定健康診断受診者を対象に、3年後のリスクの変化を観察。男性において、「ハイリスク群およびメタボ群から正常群に移行していた者」を「改善群(N=35)」、「正常群からメタボ群およびハイリスク群に移行していた者」「メタボ予備群からハイリスク群に移行していた者」を「悪化群(N=41)」とし、それぞれのライフスタイルの差をみた。6カ月以上、生活習慣改善の努力をしている男性は「悪化群」が19.5%と少ないのに対し、「改善群」は48.6%と約2.5倍だった。継続的な取組みの重要性が示されている

出典:慶應保健研究.2016;34(1),051-055.を改編

メタボ改善群・悪化群別でみたライフスタイルの差

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ライフスタイルの項目別にメタボ改善群・悪化群別の数値を表した図

屋内で体を動かす機会を増やす

体を動かす時間を設ける

長時間の座りっぱなしは血流の悪化や筋力の低下を招く他、肥満や生活習慣病のリスクも高める。タイマーや時報に合わせて席を立つようにしたり、体を動かしたりする時間をつくろう。

移動距離をあえて長くする

屋内のゴミ箱を1カ所だけにして歩かないとゴミを捨てられないようにする、会議や打ち合わせは仕事場から離れた部屋で行うなど、社内で歩く機会を増やす仕組みづくりも効果的だ。

階段を積極的に使う

会社の建物の構造にもよるが、なるべく階段を使うよう従業員にも促そう。可能であれば特定階にエレベーターが停止しないようにして、階段を使わざるを得ない状況をつくるのも一つの方法だ。

監修

和田 高士

東京慈恵会医科大学医学部客員教授

医師。博士(医学)。日本医療・健康情報研究所所長。日本人間ドック・予防医療学会理事。『ちょっと気になるカラダの数値がみるみるよくなる本』(Gakken)で監修を務める。