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健康生活のススメ
仕事のパフォーマンスを低下させない
男性の
更年期対策
- 健康生活のススメ
- ホルモン
- 男の不調
この記事のポイント
- 男性にもある更年期症状。正しい理解と対策で経済損失を防ぐ
- 職位の変化や退職が男性ホルモン分泌量を減少させる要因に
- 他者から褒められる機会を増やし、男性更年期を予防したい
女性と同じように、男性にも更年期があるのを知っていますか。心身の調子を崩しやすい時期を適切な対処で乗り越え、仕事のパフォーマンスを維持していきましょう。
やる気が出ない、病気ではないが体調が悪い......。「心身共に原因不明の不調が続く一因として、男性ホルモン・テストステロンの低下が考えられます」と話すのは、順天堂大学大学院 泌尿器科学 教授の堀江重郎さん。男性ホルモンの低下が始まる40代以降を「男性更年期」と呼び、日常生活に支障を来すほど心や体に不調が生じた状態を「男性更年期障害」といいます。
経済損失防止に有効
健康経営の課題の一つである「プレゼンティーイズム(健康の問題を抱えつつも出勤し、仕事を行っている状態)」は、労働生産性の低下を招き、企業に損失をもたらすリスクがあり、特に問題視されています。
「男性更年期障害はプレゼンティーイズムにつながりやすい。更年期の不調が原因で離職せざるを得ない人も増えています」。健康に働き続けるためにも、対策が必要です。
男女の更年期離職による経済損失は約6,300億円
何らかの更年期症状を理由に退職を経験した40~50代の人は、女性が約46万人、男性が約11万人に上ると推計される。仕事を失った状態が1年間続いた場合、社会全体に及ぶ経済損失は、女性で約4,200億円、男性で約2,100億円、合わせて約6,300億円に達すると推計される。
加齢以上に社会的な影響が大きく関与
「狩りのホルモン」と呼ばれる男性ホルモン・テストステロン。
その特徴や男性更年期との関係を知り、対策につなげましょう。
閉経前後の40~50代の女性が更年期を迎えるように、男性も40代以降は誰もが更年期に突入するのか。答えは「NO」です。
女性ホルモンのエストロゲンは閉経により急激に減少し、心身に多様な症状が生じます。女性の更年期は閉経前後の計10年間と定義されています。
「一方、男性ホルモンのテストステロンの変化は個人差が大きい。分泌量の平均値を見たグラフ(下図参照)では、20~30代にかけてピークを迎え、年齢と共に緩やかに低下しています。しかし実際には高齢でもほとんど低下しない人もいれば、30代でテストステロンが下がり、更年期障害を発症する人もいます」
なぜ個人差が生じるのか。テストステロンの低下には、その人を取り巻く環境やストレスが大きく影響するからです。
他者からの評価がカギ
テストステロンには生殖をはじめ、「骨や筋肉の強化」「体脂肪の減少」「動脈硬化の予防」「造血作用」「認知機能の向上」といった健康維持に不可欠な働きが多くあります。
さらに注目したいのが、テストステロンは男性が健全な社会活動を営むうえで重要な「社会性のホルモン」である点です。
「アマゾンの先住民族を対象とした研究では、狩猟で獲物を捕らえるとテストステロン値が上昇します。家に持ち帰った後も値は高いままでした。目標を達成し、周囲から評価されるとテストステロンの分泌が維持され、さらなるモチベーションになります」
挑戦や競争心を引き起こすテストステロンは社会活動でさらに上昇
テストステロンには大きく次の5つの役割がある。
①挑戦(新しいことへのチャレンジ精神)、②仲間(他者との関わり)、③競争(達成感)、④公平(正直、平等)、⑤社会貢献(ボランティア活動)。仕事で人を助ける、成果を上げる、といった社会活動もテストステロンの上昇につながる。
反対に目標が達成できない、周囲から評価されない状態はテストステロンの減少を招きます。
就労者の場合は特に、職位の変化に伴うストレスなどがきっかけでテストステロンが急激に減少し、更年期障害を発症する要因となります。
チェックリストで自分の状態を把握することも大切です。
男性更年期障害自己チェックリスト
- 性欲が低下した
- 元気がなくなってきたような気がする
- 体力、もしくは持久力が低下した
- 身長が低くなった
- 毎日の楽しみが減ったように感じる
- 物悲しい気持ちだ、あるいは怒りっぽい
- 勃起力が弱くなった
- 運動能力が低下したように感じる
- 夕食後にうたた寝することがある
- 仕事がうまくいかない。仕事の能力が低下したように感じる
- <チェックの結果>
-
(1)と(7)の両方が当てはまる、あるいは3つ以上の項目に該当する場合は、男性更年期障害の疑いあり
出典:日本内分泌学会Webサイト「男性更年期障害(加齢性腺機能低下症、LOH症候群)」
安心・栄養・筋肉が予防のキーワード
いかにテストステロンを低下させない生活を続けるか。
それが男性更年期障害を予防するポイントです。
男性更年期障害を引き起こすテストステロンの急激な低下。その最大の原因はストレスにあります。強いストレスを感じると、脳は精巣からテストステロンをつくり出す指令を停止します。「テストステロンの分泌量は、自律神経の副交感神経が優位になり、心身がリラックスした状態のときに増加します。緊張や興奮状態にあるときは分泌されにくい。ストレスは大敵です」。
なるべくストレスをためないように日頃から心掛けるのはもちろん、安心して過ごせる場や時間を意識的につくりましょう。
また、他者から評価や感謝をされると、テストステロンの上昇につながります。仕事に限らずプライベートでも自分の存在を認識し、ポジティブな評価をしてくれる人との交流を大切に。ペットとリラックスして過ごす時間なども、テストステロンの低下予防に効果的です。
安心できる「自分の居場所」づくりが実は重要
心からリラックスできる場で自分らしさを発揮する。この行動もテストステロンの働きを高める。仲間とスポーツを楽しむ、近所の居酒屋の常連客になるなど、仕事以外でも何らかのコミュニティーを持つのがおすすめだ。
ビタミンDと亜鉛不足に注意
食生活や運動といった生活習慣もテストステロンの分泌に影響します。栄養バランスのとれた食事を基本とし、さらに積極的に摂取したい栄養素が、ビタミンDと亜鉛です。「ビタミンDと亜鉛の不足は、テストステロンの低下を招きます。日本人の8割はビタミンD不足です。亜鉛欠乏症は成人男性の約半数を占めています。どちらも圧倒的に不足しています」。
筋トレを中心とした運動習慣も毎日継続したい。「テストステロンは筋肉を増やすと共に、筋肉自体にもテストステロンを増やす作用があります。太ももなどの大きな筋肉を積極的に動かしましょう」。
男性ホルモンを増やす生活習慣
食事:ビタミンDと亜鉛を積極的に摂取する
テストステロンの生成や増加に関わる2大栄養素がビタミンDと亜鉛だ。特に亜鉛が不足するとテストステロンの産生が低下し、性機能にも影響が出る恐れがある。ビタミンDや亜鉛を多く含む魚や貝類を意識的に取ろう。
運動:スクワットなどの筋トレで大きな筋肉を鍛える
体の中で最も大きい筋肉である大腿四頭筋(だいたいしとうきん)を鍛えるスクワットは、テストステロンを増やす効果が期待できる筋トレの一つだ。大胸筋(だいきょうきん)を鍛える腕立て伏せも効果が高い。継続が大切だ。
更年期障害の疑いがあれば
男性更年期障害の診断には、泌尿器科やメンズヘルス外来でのテストステロン値の測定が必要です。重症と診断されると、注射や塗り薬によるテストステロンのホルモン補充療法が行われます。症状により「
「治療をするほどではない場合は、ここで紹介した生活習慣の見直しを実践しましょう。ほとんどの更年期症状の緩和が期待できます」
更年期症状に対する知識や理解を深める
仕事の生産性低下を招きやすい更年期症状。
男女共に働きやすい職場づくりには知識と理解が必要です。
「男性更年期には、『認めたくない・話したくない・分からない』の3つのハードルがある。更年期と認めたら現役感がなくなる、話しても分かってもらえない、どの診療科を受診すればいいか分からないなど、更年期をネガティブに捉える男性が少なくありません」
実際は適切な対処によって更年期症状を改善し、仕事のパフォーマンス向上につなげることが可能です。
職場では管理職が率先して男性更年期について理解を深めたい。従業員が話しやすい雰囲気づくりや、話せば分かり合えるという信頼関係も大切です。
テストステロンの低下防止には「評価」が欠かせません。職場でのキャリアが長くなるほど、褒め合う機会は少なくなりがちです。良い仕事ができたときは、お互いにどんどんたたえ合う職場を目指しましょう。男性更年期障害の予防効果が期待できます。
休暇や勤務体系で支援
昨今は、男女共に更年期障害の症状が見られる従業員向けに特別休暇制度を設けたり、男性更年期障害の認知拡大のためのセミナーを開催したりする企業も増えています。
堀江さんは厚生労働省と共に、男女更年期健診の推進や男女更年期の産業医・産業保健師のサポート体制の確立に取り組むなど、支援の動きは広がりつつあると指摘します。
「就労者への更年期に関する調査では、病気としての休暇制度やフレックスタイム制度、職場での配置転換などを求める声が多い」。従業員の健康状態や職場の状況に応じた勤務体系の調整も検討しましょう。症状が重そうな場合は泌尿器科やメンズヘルス外来への受診を促すことも必要です。
「更年期とは本来、新しく生まれ変わる人生の転換期を意味します。人生の後半戦を生き生きと過ごし、仕事の生産性を高めていくためにも、更年期についての正しい理解と適切なサポートを目指しましょう」
男女問わず更年期の症状は人それぞれ。思いやりが大切
男性はもちろん、女性の更年期も症状の表れ方には個人差がある。「同性でも症状が軽い人は、重い人の状態がよく理解できない場合があります。異性となればなおさらです。職場ではお互いに敬意を持ち、必要に応じてサポートしていきましょう」
職場で行いたい男性更年期対策
1.職場内でのコミュニケーション促進
社内メールやセミナーなどで男性更年期について周知する。元気がなく、ケアレスミスなどが目立つ従業員に話を聞いてみる。男性更年期は誰にでも起こり得ると伝え、相談しやすい環境を整えよう。
2.褒める機会を増やす
若い世代でも、上司の言動で自尊心が傷つけばテストステロンが低下し、更年期症状を発症する可能性がある。ときとして注意や叱責も必要だが、良いところを積極的に評価しよう。モチベーションの向上にもつながる。
受診の必要性を感じたら
男性更年期障害の診断・治療は泌尿器科やメンズヘルス外来で行われる。最寄りの専門医は下記のWebサイトで探せる。自分はもちろん、従業員に受診を勧める際にも参考にしたい。
- 日本泌尿器科学会 認定専門医一覧
- https://www.urol.or.jp/specialist/list/
- 日本メンズヘルス医学会
-
テストステロン治療認定医について
https://jsmh.jp/testosterone-doctor/
堀江 重郎
順天堂大学大学院 泌尿器科学 教授医学博士。日米で医師免許を取得。精度の高い泌尿器手術を行う一方、学際的なアプローチを男性の健康医学に導入し、日本で先駆けとなるメンズヘルス外来を開設。日本の泌尿器科医療をけん引する一人。