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この記事のポイント

  • 二日酔い対策には俗説が多い。正しい知識で不調を防ぐ
  • アルコール体質は人それぞれ異なる。リスクを知っておこう
  • 宴席でのひと工夫で、翌日の仕事への悪影響を回避したい

忘年会や新年会は、仕事上の大切なコミュニケーションの一つ。ただしムードに流されて飲み過ぎると、二日酔いで仕事に支障を来すリスクも。適切な飲酒を心掛けましょう。

お酒を飲んだ翌日に起こる頭痛や胃もたれ、(けん)(たい)感......。二日酔いは仕事の生産性を低下させる要因です。
言うまでもなく、二日酔いはお酒の飲み過ぎに起因します。筑波大学医学医療系 准教授で、減酒治療に取り組む吉本尚さんは「特に、お酒に強く、気持ち良く酔える人ほど飲酒量が多くなりやすい」と注意を促します。

自分の体質を把握する

お酒を飲むと、アルコール(エタノール)は胃と小腸で吸収されます。その後、血液中に入ったエタノールは肝臓に運ばれ、ADH1B酵素により分解されて有害物質のアセトアルデヒドに変化します。次にALDH2酵素により酢酸に分解され、水と二酸化炭素になって体外へ排出されます。
「これらの酵素の働きには遺伝が関係しており、お酒の強さや酔い方といった体質を決定付けています」
その主なタイプが下に示した5つです。正確に調べるには遺伝子検査が必要ですが、まずは大まかに自分の体質を把握しましょう。お酒に強くてもリスクはあるため油断は禁物です。

遺伝子検査によるアルコール体質は5つ。自分はどのタイプに近い?

画面を拡大してご覧下さい。

アルコール体質は、アルコール(エタノール)を分解するADH1B酵素と、その過程で産生される有害物質アセトアルデヒドを分解するALDH2酵素の活性の組み合わせで決まる。自分のタイプは、検査キットを用いた郵送による遺伝子検査で調べられる。
「アルコール体質検査キット Nomity」https://alcohol-kensa.nomity.jp/
二日酔いの基礎知識

「飲み過ぎない」が最善策
お酒と上手に付き合おう

二日酔いの対策法には口コミなどで広がった俗説も多くあります。
正しい知識を身に付けて、二日酔い予防につなげましょう。

お酒を飲む前にウコンや牛乳、ビタミンCサプリメントを摂取する。こうした二日酔い対策は以前から知られていますが、「いずれも科学的根拠に乏しく、これを事前に飲めば二日酔いを防げる、といった飲料や食品はないのが現状です。二日酔いにならないためには、お酒を飲み過ぎないのが第一です」と吉本さんは指摘します。
飲む前におつまみなどを食べて、胃の中を満たしておく。酔うスピードが緩まり、飲み過ぎ防止にもつながります。

飲酒前後の食事の取り方に気を付けよう

OK: 飲む前や飲酒中にしっかり食べると酔いにくくなる

胃の中が空っぽの状態で飲み始めると、アルコールが小腸に吸収されるまでのスピードが速くなり、酔いが回りやすくなる。お酒がなるべく長く胃にとどまるよう、特に飲む前はしっかり食べよう。酔いを防ぐ食べ物は特にないので、好きなものを適量つまむとよい。

NG: "締め"は肥満を招く要因に

お酒を飲むと、体内では糖よりアルコールの分解が優先され、血糖値が低下。飲酒後は一時的な低血糖状態になり、おにぎりやラーメンなどの炭水化物を欲しやすくなる。どうしても食べたいときは豆腐やおかゆなど低カロリーで消化の良いものを選ぼう。

寝ても二日酔いは防げない

二日酔いの症状や程度には個人差があるとはいえ、多くの場合、ほぼ丸1日で回復します。逆に言えば、体内での代謝が終わるまで、飲んだお酒のアルコールは抜けません。時間がたつのを待つしかないものの、仕事がある日は一刻も早く体内からアルコールを抜きたいもの。多様な方法を試している人は少なくないでしょう。
飲んだ後にサウナで汗をかく、翌日朝風呂に入る、ランニングで発汗を促す、といった対策を実践している人もみられますが、二日酔いの予防および回復にはつながりません。むしろ脱水症状や心臓への負担といったリスクが生じます。
飲んだ後にしっかり眠るとアルコールの分解が進むイメージがあります。しかし実は反対で、睡眠はアルコールの分解を和らげ、酔いからさめる速度を遅らせます。
つまり、二日酔いには"時間薬"以外の特効薬はないのです。二日酔いの原因である飲み過ぎを防ぎ、翌日までアルコールが残らないような飲み方を心掛けましょう。

習慣的な飲み過ぎに要注意

週に1日程度の宴会で起こる二日酔いは一過性のものです。それだけなら大きな健康リスクはありません。一方、習慣的に飲み過ぎている場合は胃や肝臓などの消化器系をはじめ、心臓、脳など全身の臓器に障害が起こる可能性が高まります。また、アルコールは体内で中性脂肪の原因となる脂肪酸の働きを高めるため、飲み過ぎると肥満を招く心配もあります。とはいえ好きなお酒をきっぱり断つのは難しいもの。まずは飲酒量を減らしたり、休肝日を設けて飲まない日をつくったりするのが大切です。

こんなときはどうする?

Q. 宴会続きで休肝日をつくれない

A. 雰囲気に流されず、自主的に調整を
アルコール度数の高いお酒は避け、アルコール度数5%前後のビールなどをゆっくり飲む、あるいはノンアルコール飲料にするなどの方法で酒量を減らそう。「このところ宴会が続いていまして」など先に打ち明けた方が理解を得やすくなる面も。

Q. 二日酔いで出勤がつらい

A. 仕事に支障があるようなら休む
二日酔いは、体内でアルコールの代謝が終わるまで改善しない。出勤しても仕事のパフォーマンスが低下した状態になり、ミスも招きやすくなる。休むのが無難だといえる。そうならないためにも、適量を守った節度のある飲み方が重要だ。
飲酒量を減らす

二日酔いにならない
飲酒量のコントロール術

お酒を勧めたり、勧められたりする場面の多い宴会では、
どうしても酒量が増えがち。意識的なコントロールが必要です。

二日酔いを防ぐには、飲み過ぎないことが肝要です。酔うと楽しいからもっと飲みたい、皆が飲んでいるから自分も飲もうなど、その場の雰囲気に流されないようにしたい。宴会の前に自分の飲酒量をしっかり決めておきましょう。
適正な飲酒量を把握する目安となるのが、それぞれのお酒に含まれるアルコール量を表す純アルコール量です。
「ビールと日本酒とウイスキーでは、重量は同じでも純アルコール量は異なります。アルコールが心身にもたらす影響は、飲んだお酒の量ではなく、摂取したアルコール量が基準となります」
厚生労働省が2024年2月に公表した「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」では、1日当たりの純アルコール量の目安を「男性40g未満」「女性20g未満」と定めています。それぞれの純アルコール量に対応する飲酒量は、下の表を参考にしましょう。
最近の缶ビールや缶酎ハイには、「純アルコール量〇.〇g(350ml当たり)」などと明記されています。自宅で飲む場合も純アルコール量を目安に飲酒量のコントロールを。適量を把握しやすくなります。

1日当たりの適正な飲酒量を把握する

画面を拡大してご覧下さい。

純アルコール量は【摂取量(ml)×アルコール濃度(度数/100)×0.8(アルコールの比重)】で算出される。
例:ビール500ml(5%)の純アルコール量は500(ml)×0.05×0.8=20(g)。厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」では1日当たり男性40g未満、女性20g未満と定められている。

出典:『あなたの時間と元気を取り戻す 減酒セラピー』(吉本尚・著、すばる舎)

ノンアルの減酒効果

飲酒量を減らすにはノンアルコール飲料の活用も効果的です。吉本さんの研究チームは、純アルコール量換算で男性1日40g以上、女性20g以上摂取する人123人中54人に無料でノンアルコール飲料を12週間提供。提供していない69人と飲酒量の変化を比較しました。結果、ノンアルコールの提供から12週間たった人の飲酒量は、純アルコール量換算で1日平均11.5g減少し、提供終了後も飲酒量は継続して減っていきました(※)。
「自宅で飲むときはもちろん、宴会でもノンアルコール飲料を活用し、楽しみながら飲み過ぎ防止につなげましょう」

  • 出典:Hisashi Yoshimoto,et al.BMC med.21(1):379,2023.

お酒の量と濃さをコントロールしよう

水や炭酸水を合間に飲む

どんな種類のお酒でも、水と交互に飲むようにすると飲み過ぎ予防になる。水をたくさん飲んでも、お酒の量を減らさなければ摂取する純アルコール量は減らないものの、飲むペースは落ちる。喉越しの良さを楽しめる炭酸水もおすすめだ。

ノンアルや微アル飲料を活用

最近はノンアルコールや微アルコール飲料の種類が増え、味わいも良くなってきた。飲酒の前後に飲んで満足感を高めたり、飲酒の途中に取り入れて飲み過ぎを防いだり、と効果はいろいろ。アルコールの置き換えとして活用できる。

なるべく薄いお酒を飲む

アルコール度数が高いお酒を最初から一気に飲むと酔いが回り、自制が利きにくくなる。割って薄めてアルコール度数を低くして飲もう。アルコール度数の低いサワーや、ノンアルコール飲料で割ってあるカクテルタイプのお酒なども良い。

酒席の心得

会社全体で健全な飲み方を心掛ける

いつまでもだらだら飲み続けると、当然、飲酒量は増加します。
会社の宴会は、時間内できっちり終わらせましょう。

飲み過ぎは二日酔いだけでなく、思わぬ失言や失態を引き起こして人間関係を壊したり、信頼を失ったりするリスクもあります。しつこく絡んで後輩や部下、場合によっては取引先に嫌がられるケースも。
「飲酒によって理性の働きに関係する脳の大脳皮質が影響を受けると抑制が利かなくなり、お酒の失敗を招きやすくなります」
宴会で飲み過ぎないためには、飲酒量に加えて「滞在時間のコントロール」が重要です。終了時間をあらかじめ決めておけば、際限なく飲み続けて深く酔うような事態を避けられます。

飲み過ぎを防ぐ職場での仕組みづくり案

1. 宴会の終了時間を決め、あらかじめ周知しておく

お酒を飲む時間が短ければ、飲む量も自然と減る。宴会の時間はできれば2~3時間程度にし、終わりの時間になったらきっぱりお開きにする。全員で滞在時間を意識し、だらだら飲むのを避けよう。

2. 宴会中に全員でのノンアル時間を設ける

酔っている人の飲酒を途中で止めようとしても、聞き入れてもらいにくい。一斉に休憩を取る時間を設け、その間は全員で水やノンアルコール飲料を楽しむようにすると、無理なく飲み過ぎ防止につながる。

3. 二次会は行わず早めの帰宅を促す

自分たちが主催する宴会は、一次会までと設定する。早めの時間に切り上げれば、二日酔いだけでなく、終電を逃す事態も防げる。二次会のある宴会に参加する場合も、できれば一次会で切り上げたい。

若い世代は酒席離れ

近年は20~30代の若手社員が職場の忘年会に参加しない「忘年会スルー」と呼ばれる現象が話題になるなど、若者の酒席離れが進んでいます。
「若い世代ほど、いわゆる"飲みニケーション"を敬遠する傾向が強い。就職活動中の学生にとっても、飲み会がどの程度ある会社なのかといった点が、会社選びの基準の一つになっている場合があるようです」
かつてよくいわれた「お酒を飲むのも仕事のうち」といった風潮は明らかに変わってきました。トップや管理職の人から率先して飲酒に対する知識をアップデートし、宴会のあり方を少しずつ見直すことも大切です。

飲めない人への配慮

お酒を飲めない人に、「最初の一杯だけでも」などと無理にお酒を勧めるのはもちろんNGです。
「私自身もそうですが、飲めないなりに宴会の場を楽しんでいるケースは多いもの。あまり気を使わず皆と同じように接するのがベターです」
全員で宴会を楽しみ、翌日からの仕事にも集中できるよう、健全な飲み方を続けていきましょう。将来の健康維持にもつながります。

自分の飲酒傾向を先に伝えておこう

飲めない場合

お酒に弱い場合はもちろん、減酒している場合なども「あまり飲めない」とあらかじめ宣言しておくと、周囲から勧められなくなりやすい。「ノンアルならいけます」「ウーロン茶で通します」など具体的に伝えれば、遠慮なくノンアルやソフトドリンクで過ごせる。

つい飲み過ぎてしまう場合

酔って気持ち良くなり自制が利かなくなりがちな人は、信頼できる人に「このくらい飲んだらストップをかけて」と頼んでおくと良い。自分以外に飲み過ぎる傾向がある人がいる場合も、上司など指示できる立場の人にストッパーになってもらうのがおすすめだ。

監修

吉本 尚

筑波大学医学医療系 准教授

筑波大学健幸ライフスタイル開発研究センター センター長。博士(医学)。2019年、北茨城市民病院附属家庭医療センターに総合診療科で日本初となるアルコール低減外来を開設。24年に公表された厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」の作成検討会委員を務める。