忙しいときこそ知っておきたい
健康生活のススメ
長く働くには
筋肉を鍛える
- 健康生活のススメ
- 筋力
- トレーニングメニュー
この記事のポイント
- 筋肉量は30代前半から減少が加速。大きな筋肉を鍛えよう
- 椅子を使ったトレーニングや応用スクワットで筋肉量を改善する
- 食事や睡眠などの生活習慣も意識し、長く働ける体づくりを
いくつになっても、第一線でエネルギッシュに働きたい。そう願うなら、ぜひ筋トレを始めましょう。体力向上や老化防止など多くの効果が期待できます。
以前に比べて疲れやすくなった、食事に気を付けているのに太ってしまう、ひざや腰の痛みが気になる。いずれも、筋力が低下すると起こりやすくなる症状の一つです。
「筋力の強さは筋肉量に比例します。筋肉量の減少は30代前半頃から加速し、40代以降は年1%ずつの割合で減っていきます」と、筑波大学大学院人間総合科学学術院 教授の久野譜也さんは説明します。
減るのは主に、全身の6~7割を占める下半身の筋肉です。
「下半身には、歩く、座る、立つという日常動作において重要な役割を担う大きな筋肉が集まっています」
その3大筋肉が、
筋トレで老化に逆らう
階段ではなくエスカレーターを使う、仕事中は長時間座りっぱなしでいるなど、活動量の少ない生活は下半身の筋力低下を招きます。一方で、適切なトレーニングを行えば筋肉量は着実に増加します。
「老化により機能が低下する他の臓器とは異なり、筋肉だけはいくつになっても老化の流れに逆らえます」
重点的に行いたいのが、下半身の大きな筋肉を中心に鍛えるトレーニングです。筋トレは長く続けることが大事。2週間続けても、次の2週間休めば、筋肉の状態は元に戻ってしまいます。次のセクションで紹介する筋トレを習慣化していきましょう。
運動不足でも始めやすい
椅子を使った筋トレ
職場でも行いやすい、椅子を使った筋トレ3種目を紹介します。
それぞれゆっくりした動きを意識し、筋肉に負荷をかけましょう。
筋トレは最初からハードルを上げると長続きしません。逆にハードルを下げ過ぎると筋肉への負荷が少なくなり、効果が出にくくなります。そこで久野さんが考案したのが、「必要最低限のラインを長く続けて、最大限の効果を引き出す」トレーニング法です。ここで紹介する3つの筋トレは、椅子さえあればいつでもどこでもできるのがメリット。職場はもちろん、出張先や旅行先などでも行えるのが特徴です。日々の生活に小まめに取り入れて続けていきましょう。
椅子に座ったままできる筋トレが「ひざ伸ばし」と「太もも上げ」です。大腿四頭筋を鍛える「ひざ伸ばし」では、椅子の背にもたれかかると太ももの前側の筋肉に力が入りにくくなるので注意を。スローモーションでキックをするつもりで、ゆっくり足を上げ下げするのがコツです。
大腰筋と腹筋を鍛える「太もも上げ」では、ひざを胸に近づけるときに勢いをつけず、ゆっくりと足を上げるようにしましょう。また、足を胸に引き付ける際に、腹筋に力が入るよう意識すると効果的です。
各1セットから始める
大腰筋と大臀筋を鍛える「足の前後運動」は椅子の背につかまり、体を安定させて行います。股関節の回転を意識しながら、できるだけ大きく足を動かすと可動域も広がります。
運動不足の人はいずれも各1セットから始め、慣れてきたら2~3セットと増やしていきましょう。少なくとも1日2種目行うのがベストです。
応用スクワットで
筋肉を総合的に強化
鍛えるべき4つの筋肉すべてに効果的なトレーニングです。
しっかり行い、筋肉量の維持や向上につなげましょう。
背すじを伸ばした直立状態から、お尻を後ろに突き出すように深く腰を落とし、その後ゆっくり元の姿勢に戻す。これらの動作を繰り返す「スクワット」は、大腿四頭筋、大臀筋、ハムストリングス、大腰筋を効率よく鍛える筋トレです。
これに変化を加え、さらに運動強度を高めたのが、久野さんが考案した「しこ踏みスクワット」と「まき割りスクワット」です。
スクワットに相撲のしこ踏みを組み合わせた「しこ踏みスクワット」は、太ももやお尻の筋肉、大腰筋に加え、股関節周りの筋肉にも効果があります。
「しこを踏む際は、バランスを崩さないよう気を付けながら、足をゆっくり上げて下ろします。相撲のように、勢いよくドスンと下ろす必要はありません」
スクワットで腰を落とした姿勢を保ちながらまき割りの動作をする「まき割りスクワット」は、下半身全体の強化はもちろん、上半身の筋力アップにも効果的です。
1日2~3種目が最低限ライン
どちらのスクワットも、ひざを曲げる際に「ひざをつま先より前に出さない」「ひざとつま先を同じ方向に向ける」の2点に気を付けましょう。これを守らないと、ひざ関節を痛めやすくなります。
1日の筋トレメニューは、椅子を使った筋トレ3種目と、応用スクワット2種目の計5種目のうち2~3種目を行うのが理想的です。一度に行っても、時間を分けて1種目ずつ行っても構いません。1日2~3種目を週3~5回行うのが、筋トレの効果を上げる最低限ラインです。体力があれば5種目すべてを行ったり、上半身を鍛える腕立て伏せなど他の筋トレを組み合わせたりして、さらなる強化を目指しましょう。
筋トレと並行して有酸素運動も実行
筋肉には速筋(そっきん)と遅筋(ちきん)の2種類がある。筋トレで鍛えられるのは瞬発的に大きな力を発揮できる速筋。持久力を発揮するときに必要な遅筋を鍛えるにはウオーキングやジョギングなどの有酸素運動が適している。ウオーキングは1日8000歩を目安に続けよう。
食事や睡眠も
筋力を高める鍵
筋トレに加えて、食事や睡眠などの生活習慣も改善しましょう。
企業としての取り組みもこれからの時代は必要です。
筋肉量を増やし、筋力を高めるには、筋肉の材料となるたんぱく質の摂取も欠かせません。筋肉の約8割はたんぱく質で構成されています。食材に含まれるたんぱく質には、大豆製品などの植物性と、肉や魚介、卵、乳製品などの動物性があります。動物性の方が筋肉の合成を促進する力が強いので、筋トレをした日は肉や魚介を積極的に取りましょう。
特に良質な動物性たんぱく質を多く含む食材として、久野さんは豚肉を薦めます。
「トンカツのような揚げ物は摂取エネルギーが過剰になりがちですが、ゆでて豚しゃぶにすれば余分な脂を落とせます。少しの工夫で、健康的な食べ方は可能です」
筋トレや日常活動でダメージを受けた筋肉は、睡眠中に分泌される成長ホルモンの作用によって修復されます。日中はよく動いて筋肉に刺激を与え、夜はしっかり睡眠を取る生活サイクルが大切です。
日常生活の中で筋肉量を増やすポイント
1日2~3種目、週3回の筋トレを続ける
筋トレは定期的に継続しないと十分な効果が得られない。毎日行うのがベストだが、難しい場合は1日置きで週3日程度のペースを守ろう。一人で続けにくいならトレーナーのいるジムに通うのも良い。長く継続できる方法を見つけよう。
筋トレ後30分以内にたんぱく質を取る
筋トレ後30分以内は成長ホルモンが多く分泌され、筋肉の合成が促進される。このタイミングでたんぱく質を摂取すると筋肉の修復と成長が進みやすくなる。仕事中など食事ができないときはプロテインやアミノ酸飲料、サプリメントの活用を。
筋トレをした日は特にしっかり睡眠を取る
睡眠中に分泌される成長ホルモンには筋肉の回復や強化を促す作用がある。一方、筋トレにも睡眠時の体温の上昇や心拍数の低下、成長ホルモンの増加を促し、睡眠の質を高める効果が期待できる。ぐっすり眠り、筋肉量の増加につなげよう。
企業として筋トレを推進
筋トレや生活習慣など日々の積み重ねによって筋肉量が増えると、疲れにくくなる、体が引き締まる、姿勢が良くなる、など多くの効果が表れてきます。何もしなければ10年後には10%、20年後には20%といったペースで筋肉は減少します。一方、長く続ければ、リタイア後の寝たきりや要介護リスクの予防につながります。
少子高齢化が進み、生涯就業期間も長期化しています。久野さんは「自分自身はもちろん、すべての従業員が健やかに長く働き続けられるよう、企業としての筋トレの推進も、企業の健康課題の一つにしたい」と言います。
特に女性は男性より筋肉量が少なく、ダイエットなどでたんぱく質が不足しやすい傾向があります。働く女性の健康課題解決への取り組みも含めて、職場で啓発活動や筋トレの時間を設けるのも良い方法です。
「従業員の健康は、想像以上に企業の経営に大きな影響を与えます。経営者や管理職は、従業員が健やかに働き続けられるようサポートすることも大切です」
職場でも休憩時間に筋トレしよう
「筋トレを2種目行っても5分程度で終わります。仕事の合間にも十分できるはず」。久野さんが代表を務めるつくばウエルネスリサーチでは20人ほどの社員が毎朝職場で一斉に筋トレを行っている。「従業員全員がデスクから離れ、リセットする時間をつくりましょう」
久野 譜也
筑波大学大学院 人間総合科学学術院 教授博士(医学)。2002年より株式会社つくばウエルネスリサーチ 代表取締役社長、11年より筑波大学 体育系 教授、20年より筑波大学 スマートウエルネスシティ政策開発研究センター センター長に就任。内閣府が進めるSIP第3期の課題の一つ「包摂的コミュニティプラットフォームの構築」のプログラムディレクターを務める。