
忙しいときこそ知っておきたい
健康生活のススメ
働き盛りの体を支える
たんぱく質の
効果的な取り方
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- 栄養素
この記事のポイント
- 年齢とともに筋肉量は減る。たんぱく質は毎食必ず摂取したい
- 摂取量が不足しがちな朝食と昼食は、メニュー選びを意識する
- 動物性・植物性たんぱく質の特徴を押さえ、健康的に摂取を
生きていく上で欠かせない栄養素の一つがたんぱく質。年齢と共に減少傾向にある筋肉量の維持にも大きく関わっています。効果的な取り方を覚えて、健康な体を保ちましょう。
炭水化物、脂質と共にたんぱく質は「エネルギー産生栄養素」の一つです。肉、魚、卵、乳製品、大豆製品などに多く含まれ、大きく次の2つの成分として働きます。(1)筋肉、臓器、皮膚、毛髪などの体構成成分、(2)ホルモン、酵素、抗体などの体調節機能成分。体の大部分の材料であり、人が生きる上で重要な役割を担います。
筋肉の約80%はたんぱく質でつくられ、特に運動や姿勢の維持、関節の安定化に関わる骨格筋に多く含まれます。
「炭水化物中心の食生活でたんぱく質が不足したり、運動習慣があまりなかったりすると、40代以降は筋肉量の減少スピードが加速します」と、立命館大学大学院 スポーツ健康科学研究科 教授の藤田聡さんは説明します。
たんぱく質の大切な3つの働き
①筋肉や内臓をつくる
たんぱく質は筋肉、臓器、皮膚、骨、毛髪、歯、爪といったあらゆる組織の主成分として存在する。中でも筋肉は水分を除くとたんぱく質が約80%を占める。筋肉量を維持するためにも日々のたんぱく質摂取が重要だ。
②ホルモンや酵素の材料となる
たんぱく質は代謝や消化に関わるホルモンや酵素の他、メンタルヘルスに関わるセロトニンやドーパミンといった神経伝達物質、抗体の材料となる。免疫や代謝、血圧のコントロールをはじめ、多くの重要な役割を担う。
③エネルギー源になる
1g当たり4kcalのエネルギーを生み出す。体内では炭水化物が優先的にエネルギー源として使われ、不足するとたんぱく質や脂肪が使われる。炭水化物や脂質と共にバランス良くたんぱく質を取ることが必要だ。
長期的な不足に注意
たんぱく質には食べたものの消化吸収やホルモンの分泌、免疫機能をサポートし、体を安定した状態に保つ働きもあります。
食事でのたんぱく質の摂取が一時的に不足しても、すぐに体調に影響が表れるわけではありません。ただし、長期的にたんぱく質が不足した状態が続けば、筋力が低下して要介護状態を招いたり、免疫機能が低下して感染症にかかりやすくなったりするなどの恐れがあります。
たんぱく質は体を動かすエネルギー源で、働き盛りの人には必要不可欠です。健康な体でい続けるためにも、毎日の食事でたんぱく質をしっかり取ることを心掛けましょう。
毎食20~30gが
働く男性の目標量
食事で摂取したたんぱく質を筋肉の材料として生かすには、
毎食の摂取量が肝心です。
1日にどのくらいのたんぱく質を取れば良いのか。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」で定められる1日の推奨摂取量は、18~64歳の男性で65g、女性は50gです。
「推奨摂取量は、健康な人を中心にした集団の中で、大部分の人が不足しない量を示しています。最低限必要な量と捉えましょう」
1日に必要なたんぱく質の摂取量は、体重や身体活動レベルによって人それぞれ異なります(下囲みの計算式を参照)。近年の研究結果では、筋肉の合成には「1食当たり、体重×0.4g」のたんぱく質量が必要だと報告されています※1。
「体重70kgなら28g、つまり30g程度が1食ごとに必要です。食事摂取基準では1日65g、つまり1食当たり20g強が推奨されていますが、筋肉をつくるには不十分だと考えられます」
働き盛りの男性は、少なくとも毎食20~30g程度のたんぱく質摂取を目指しましょう。
- ※1Moore DR, Churchward-Venne TA, Witard O, Breen L, Burd NA, Tipton KD, et al. Protein ingestion to stimulate myofibrillar protein synthesis requires greater relative protein intakes in healthy older versus younger men. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2015;70(1):57-62.
自分に必要なたんぱく質量を計算してみよう
画面を拡大してご覧下さい。
一定量を毎食取る
毎食20~30gではなく、摂取量が少なかった食事の分を次の食事で補うように、1日の総量で調整しても良いのでしょうか。答えは「ノー」です。
筋肉の合成はたんぱく質を摂取し、アミノ酸の血中濃度が高まると活発になります。
「1食のたんぱく質量が少ないとアミノ酸の血中濃度が上がらないばかりか、筋肉の分解が進む恐れもあります。逆に多過ぎても体内で利用しきれません」
一定量をコンスタントに取ることが大切です。具体的な取り方のコツは次のセクションへ。
画面を拡大してご覧下さい。
自分の手を使った「手ばかり」を目安に
肉や魚などの高たんぱく質食品は、手のひらサイズで16~20g程度になる。
肉や魚の厚さは手の厚みにそろえよう。
朝と昼は意識して
たんぱく質を摂取する
1日3食の中で、たんぱく質が特に不足しやすいのは朝食と昼食です。
手軽に摂取できるたんぱく質食品を積極的に活用しましょう。
毎食20~30gのたんぱく質をどのように取るか。一般的に、肉料理や魚介料理が主菜になる夕食では、たんぱく質を十分に取りやすい。一方、簡単に済ませがちな朝食や昼食は、どうしても不足しやすい傾向があります。
そこで重要なのが、「朝食と昼食でたんぱく質をしっかり取る」という自分自身への意識付けです。
「朝食は、調理する時間がないのがネックになりやすい。その点、高たんぱく質食品である牛乳やヨーグルト、チーズなどの乳製品を利用すれば、調理しなくても効率良くたんぱく質を摂取できます」
特に無糖のギリシャヨーグルト(水切りヨーグルトの一種)は、1個100g中のたんぱく質量が10g前後あり、摂取量を増やす助けになります。パッケージに記載されている栄養成分表示を確認して選びましょう。
この他、ツナやゆで卵も手軽に取り入れやすい高たんぱく質食品としておすすめです。
3食の中でたんぱく質を増やすコツ
朝食では

焼き魚や卵料理、ハムやソーセージなどの動物性たんぱく質と、納豆や豆腐などの植物性たんぱく質を組み合わせて取ろう。朝はあまり食欲が湧かない、食べる時間がないといった場合は、高たんぱく質のギリシャヨーグルトがおすすめだ。
昼食では

麺類や丼ものは炭水化物が中心になりがちなので、肉類や魚介類、卵のおかずをプラスしよう。例えば鍋焼きうどんなら、エビの天ぷらや卵、カマボコでたんぱく質が取れる。和定食も栄養バランスを取りやすい。
夕食では

糖質を控えめにして、肉類や魚介類などの動物性たんぱく質と、豆腐などの植物性たんぱく質をしっかり取ろう。魚のつみれや豆腐を使う鍋料理は脂質も少ない。イワシやサバなどの青魚ならDHAやEPAといった良質な油も取れる。
腹持ちを良くする効果も
昼食は、空腹感の強さや時間のなさから麺類や丼ものといった単品メニューを選ぶ方も多いでしょう。肉類や魚介類、卵、大豆製品などのたんぱく質食品を1~2品プラスする心掛けが大切です。
たんぱく質には満腹中枢を刺激する作用があり、腹持ちが良いのも特徴です。昼食でしっかり取っておくと、夕方まで空腹を感じにくくなる効果も期待できます。
仕事が忙しくて昼食を食べる時間が取りづらい場合もあります。
「最近のコンビニには、手軽に食べられる高たんぱく質食品が充実しています。うまく活用して、たんぱく質摂取につなげましょう」
コンビニで扱われている食品には、ほとんどのものに栄養成分表示があり、たんぱく質量を確認できるのもメリットです。複数の食品を組み合わせたりしながら1食20~30gに近づけましょう。
ランチや小腹がすいたときはコンビニを活用
コンビニには鶏むね肉を使ったサラダチキンやゆで卵、チーズなど、そのまま食べられる高たんぱく質食品が多い。ランチに1品足したり、間食に取り入れたりしよう。
コンビニで買える高たんぱく質食品
プロテイン食品も補食におすすめ
運動や筋トレをしていて活動量の多い人は、プロテインバーやゼリー飲料でたんぱく質を補うのも良い。
動物性たんぱく質は
脂質の取り過ぎに注意
働き盛り世代は、筋力の維持や増加だけでなく、生活習慣病の予防も大切です。
健康的にたんぱく質を摂取するコツも知っておきましょう。
たんぱく質には肉類、魚介類、卵、牛乳といった動物性と、大豆製品や穀類などの植物性の2種類があります(「代表的な食品のたんぱく質量を覚えておこう」参照)。
動物性たんぱく質は必須アミノ酸をバランス良く含む食品がほとんどで、体内への吸収率も高いのが特徴です。必須アミノ酸は体内で合成できません。食事から摂取する必要があります。
植物性たんぱく質の中には必須アミノ酸が不足する食品もあり、体内への吸収率も動物性たんぱく質に比べて低い傾向があります。
一方で、動物性たんぱく質の肉類には脂質を多く含みます。さらに揚げ物にすると摂取エネルギーが過剰になる恐れも出てきます。
脂質の取り過ぎは肥満や脂質異常症、動脈硬化、循環器疾患などのリスクを高めます。
「脂質の取り過ぎを防ぐためにも、動物性たんぱく質と植物性たんぱく質を組み合わせて取りましょう。動物性と植物性のバランスは1対1が目安です」
生活習慣病を防ぐたんぱく質の取り方のポイント
肉料理を食べる前に野菜をしっかり取る
肉料理の食べ過ぎは、脂質の取り過ぎにつながりやすい。先に食物繊維が豊富な野菜類を食べておくと、満腹感が得られ食べ過ぎにならない。血糖値の急上昇も抑えられる。まず食物繊維、次にたんぱく質、と考えよう。

揚げ物よりも煮る、ゆでる
トンカツや鶏の唐揚げはもちろん、魚介類も油で揚げると摂取エネルギー量が増加する。肉類ならしゃぶしゃぶやサラダチキン、魚介類なら刺し身や煮魚と、油の使用量が少ない料理を選んで食べるようにしよう。

脂質の少ないたんぱく質食品を選ぶ
高たんぱく質で低脂質の代表的な食品に、鶏のささみやむね肉、羊肉、ヨーグルトやモッツァレラチーズなどの乳製品がある。刺し身も脂質が少なく、特にカツオやマグロ、白身魚には多くのたんぱく質が含まれる。

筋肉量を増やすには
肉類の脂身など、脂肪の多い食品は体内での消化吸収に時間がかかります。肉類の中でも比較的脂質の少ない鶏のささみやむね肉、また、同じ動物性たんぱく質でも魚介類などのほうが消化吸収されやすく、筋肉をつくるアミノ酸の血中濃度が上がるスピードも速くなります。
「筋肉をつくる意味でも、なるべく脂質が少なめの食品を選んで取るのがおすすめです」
なお、筋肉量の維持や増加には、たんぱく質の摂取と同時に運動も欠かせません。
「働く人は、仕事をしながらでも無理なく続けられる運動を習慣化する。社内で1フロア分歩く、階段を使うといったことでも、続ければ十分効果はあります」
良く食べ、良く動き、長く働ける体を保ちましょう。
たんぱく質摂取と運動をセットにして筋力を高めよう

筋肉量の維持や増加には、たんぱく質摂取と運動のどちらも欠かせない。「筋トレより、日常生活の中で歩数を増やすのを意識したほうが良い」と藤田さんはアドバイスする。週に1~2回ジムに通うよりも、毎日続けられる運動習慣を身に付けよう。
藤田 聡
立命館大学大学院 スポーツ健康科学研究科 教授博士(運動生理学)。2002年、南カリフォルニア大学大学院博士号取得。テキサス大学医学部内科講師、東京大学大学院新領域創成科学研究科特任助教を経て、09年より立命館大学着任。21年、長年の研究に基づき企業の健康経営をサポートするOnMotionを設立。23年より立命館先進研究アカデミー RARAアソシエイトフェロー。