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あせも・水虫・虫刺され

夏の3大かゆみを解消する

  • かゆみ
  • 皮膚バリアー機能
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更新

この記事のポイント

  • かいた汗を放置すると、かゆみにつながる
  • 水虫は医師による診断を。完治するまで治療を継続する
  • 屋外作業時は長袖・長ズボンで虫刺されから肌を守る

夏は、大量の汗や虫刺されによるかゆみが起こりやすい季節です。汗による足の蒸れが水虫を引き起こす場合もあります。適切な予防策や対処法で肌を快適に保ちましょう。

汗によるかゆみ対策

肌をひっかくのは避け、
皮膚のバリアーを壊さないようケアする

バリアー機能が正常な皮膚のイメージ

画面を拡大してご覧下さい。

皮膚の断面図を示したイラスト。皮膚は「表皮」と「真皮」に分かれ、表皮部分はさらに「皮脂膜」「角質層」「顆粒層」「有棘層」「基底層」が分かれている。皮脂膜が外部からの刺激や異物を跳ね返している様子が描かれ、皮膚内部では水分が循環している青い矢印が描かれている。皮膚の保湿機能と防御機能を表現したイラスト。
表皮の厚さは平均約0.2mmで、外側から角質層、顆粒層かりゅうそう有棘層ゆうきょくそう基底層きていそうの4つの層で構成される。角質層は皮膚バリアー機能の最前線として、外部からの刺激や異物の侵入を防ぎ、体内の水分を保持する

夏は通勤中や仕事の作業中の発汗量が増える季節です。汗をかくと肌がかゆくなると悩む方も少なくありません。

なぜ、汗によってかゆみが起こるのか。大きな原因の1つとして、皮膚バリアー機能の低下が挙げられます。

皮膚バリアー機能とは、外部からの刺激や異物の侵入をブロックし、体内の水分蒸発を防ぐ皮膚本来の働きをいいます。
バリアーとして働くのは、皮膚の最も外側にある表皮の中の角質層です。角質層の厚さは平均で約0.02mm、食品用のラップフィルムと同程度の薄さしかありません。
「その薄い層の中に、死んだ細胞である角質細胞が石垣のように積み重なっています」と、仲皮フ科クリニックの仲 わたるさんは説明します。

角質層では主に次の3つの物質でバリアー機能を維持します。

角質層の拡大イメージ

画面を拡大してご覧下さい。

皮膚の構造を示したイラスト。バリア機能を担う「皮脂膜」、「細胞間脂質」、「天然保湿因子(NMF)」がそれぞれ役割を果たし、外部刺激から肌を守っている様子が描かれている。水分が循環し、外部からの刺激が皮膚に到達するのを防ぐ
皮脂膜、細胞間脂質、天然保湿因子(NMF)の3つが働いてバリアー機能を担う
皮脂膜
角質層(皮膚表面)を覆う天然保護膜。
皮脂腺から分泌される皮脂と、汗腺から分泌される汗が混ざり合ってできる。
外部からの刺激や異物の侵入を防ぐとともに、抗菌ペプチドを作り出し、皮膚の悪玉菌の増殖を抑える働きがある。
細胞間脂質
積み重なる角質細胞がバラバラにならないよう細胞同士を接着する、セメントのような役割を持つ。
セラミドや脂肪酸、コレステロールを中心に構成され、角質層の水分を保持する。
天然保湿因子(NMF: Natural Moisturizing Factor)
角質細胞内に存在する、水分を保持する成分の総称。
フィラグリンというタンパク質の分解によってNMFの主成分であるアミノ酸が生成され、角質層内の水分量が保たれる。

ヒトの皮膚はこうした優れた機能を備えていますが、何らかの原因でその働きが弱まる場合があります。これを皮膚バリアー機能の低下といいます。皮膚バリアー機能が低下すると、体内の水分を保持できなくなり、肌の乾燥が進みます。外部からの刺激や異物にも反応しやすくなります。

脳にかゆみを伝える神経線維(C線維)は、バリアー機能が正常な肌では表皮とその下にある真皮の境界近くに存在します。ところがバリアー機能が低下した肌では、C線維が角質層の直下まで伸びてきます。そのため汗によるわずかな刺激でも、かゆみを感じやすくなるのです。

バリアー機能の低下がかゆみを招く

画面を拡大してご覧下さい。

皮膚の断面図が2つ並んだイラスト。左側は「バリア機能が正常な肌」を示し、角質層が整った状態で外部刺激がブロックされ、水分が皮膚内部に保持されている様子が描かれている。右側は「バリア機能が低下した肌」を示し、角質層が乱れている状態で外部刺激が侵入し、アレルゲンと接触することで「かゆみ」が発生。さらに水分が蒸発している様子が描かれている。真皮部分では神経線維(C線維)が肌の表面付近まで伸びており、炎症やかゆみを悪化させる状態を示している。
バリアー機能が低下すると、脳にかゆみを伝える神経線維が肌の表面近くまで伸びてくる

汗には、肌への刺激を引き起こす塩分やアンモニアが含まれます。かいた汗をそのまま放置して肌がベタベタした状態が続くと、これらの成分が刺激となり、かゆみだけでなく肌のかぶれを招きやすくなります。汗をかく度にヒリヒリ・チクチクした痛みを感じる場合もあります。

予防するには皮膚バリアー機能を低下させないのが第一です。低下の原因は空気の乾燥や摩擦による刺激、皮膚のターンオーバー(新陳代謝)の乱れなど複数ありますが、特に夏場は紫外線による肌ダメージに注意が必要です。日中、長時間にわたって屋外で過ごす場合は、帽子の着用や日焼け止めの使用で強い紫外線を直接肌に浴びないようにしましょう。
タオルでゴシゴシ肌を洗ったり拭いたりする摩擦刺激も、ごく薄い角質層にとって大きな負担になります。
かゆいからと爪でひっかくのも避けましょう。角質層が傷付き、ますます皮膚バリアー機能の低下が進む要因になります。
日頃から肌をなるべく優しく扱うよう心掛けましょう。

汗のかきっぱなしは、あせものもとに
こまめに拭き取ろう

汗をかいたらこまめに拭き取る、汗がいつまでも肌に残らないよう吸水・速乾性に優れた下着や衣類を着用するといった対策も重要です。汗のかきっぱなしは、あせも(汗疹)の原因になります。
あせもは、次のようなプロセスで発生します。

  • 大量に汗をかく
  • 汗に含まれる塩分が、高い濃度で肌表面に残る
  • 肌がベタついて、ほこりや汚れが付着する
  • 塩分や汚れによって汗の出口が塞がれる
  • 排出できなくなった汗が皮膚の組織に漏れ出す
  • 強いかゆみや赤み、ブツブツした湿疹といった症状を引き起こす

高温多湿の環境下で汗をかきながら仕事をする人は、あせもが起こるリスクも高いと考えられます。休憩時間にシャワーを浴びられる環境であれば、汗を洗い流し、できるだけ肌を清潔に保ちましょう。

汗によるかゆみ対策のポイントまとめ

仕事の前に市販の制汗剤を使用して、なるべく発汗を抑える
下着や衣類は吸水・速乾性に優れた素材のものや通気性の良いものを身に着ける
汗をかいたらこまめに拭き取る
  • 市販のボディーシートや乾いたタオルを使用する
  • 拭き取る際は、ゴシゴシこすらないよう注意する
帰宅したらなるべく早く体を洗う
  • よく泡立てたせっけんをのせた手のひらで、優しくなでるように洗うだけで汚れは十分落とせる
  • ナイロンタオルでゴシゴシこするような洗い方は避ける(皮膚バリアー機能の低下だけでなく、色素沈着を起こして肌を黒ずませる原因にもなる)
水虫の予防と対策

休憩時間に靴を脱ぎ、足を乾かす
疑われる症状があれば早めに皮膚科へ

汗による足の蒸れが気になる夏場は、水虫にも注意が必要です。
水虫は、カビの一種である白癬菌(はくせんきん)が繁殖して引き起こされる、皮膚表面の感染症です。
足指の間のかゆみが水虫の代表的な症状として知られますが、自覚症状は人によって異なります。

医学的には次の3つのタイプに分類されます。

画面を拡大してご覧下さい。

タイプ:小水疱型(しょうすいほうがた) 症状:足の裏に小さな水ぶくれが生じる。特徴:暖かい季節に生じやすい。一方の足から症状が出る。症状が悪化するとかゆみが強くなる。涼しくなると自然に治まる。 タイプ:趾間型(しかんがた) 症状:足の指の間が白くふやけて皮がむけたり、赤くただれたりする。特徴:水ぶくれを伴う場合もある。こすり過ぎると痛みが出やすい。涼しくなると自然に治まる。 タイプ:角化型(角質増殖型) 症状:かかとや足の裏全体が硬くなり、亀裂を伴う場合もある。特徴:両足に症状が出る。一年を通してかゆみはない。冬場は足のひび割れによる痛みが生じる場合がある。

白癬菌は暖かくて湿った場所を好むため、特に靴の中で蒸れた足で繁殖しやすい傾向があります。安全靴を履いて長時間作業をする人はリスクが高いので、休憩時間は靴を脱ぎ、靴の中と足を乾かして蒸れを解消しましょう。足をよく洗うのも、水虫の予防法として重要です。白癬菌が皮膚内に侵入してから感染が成立するまでは最低24時間かかります。つまり、24時間以内に洗うのが肝心です。

不特定多数の人が素足で利用するスポーツジムやプール、銭湯、温泉といった公共施設の床や脱衣所、足拭きマットには、ほぼ100%白癬菌が存在します。しかし菌が足に付いたからといってすぐに感染するわけではありません。帰宅後に足を洗えば、付着した菌を落とせます。水で洗い流すだけでも白癬菌は落ちるので、こまめに洗うようにしましょう。

シャワーで足を洗っている写真

ただし、足の皮膚に見えない小さな傷があると、きちんと洗っても感染する恐れがあります。

通常、白癬菌は自らが持つケラチナーゼという酵素によって、角質層のケラチンという物質を溶かしながら皮膚の中に侵入します。皮膚表面に傷があると、角質層に入り込むのが容易になります。

正常な皮膚では感染するまで24時間以上かかるところが、傷がある場合は12時間程度で感染するといいます。目に見えないほどの傷を自覚するのは難しいですが、素足で歩き回る機会が多い人は靴下を履いて足を保護し、傷ができない工夫をしましょう。
かかとの硬い角質を足用のやすりで削ったり、ナイロンタオルでゴシゴシこすったりするのも足を傷付ける要因になります。優しく洗いましょう。

水虫予防のポイントまとめ

汗による足の蒸れが気になるときは、休憩時間に靴を脱ぎ、靴の中と足を乾かす
  • 替えの靴下があれば、このタイミングで履き替える
足の汚れは24時間以内に洗って落とす(最低でも1日1回)
  • 水だけでも白癬菌は落とせるが、せっけんを使えば足の臭い予防にもなる
  • せっけんは殺菌作用のないごく普通のものでOK
    殺菌作用のある成分はかぶれを引き起こすケースもあるので避けたほうが良い
  • 足の指と指の間や足の裏、かかとまで優しくなでるように洗う
  • ゴシゴシ洗いは皮膚を傷付け、白癬菌の侵入を容易にするもとなので避ける
家の中を素足で歩き回らない。スリッパやバスマットの共用は避ける
  • できればマイスリッパ、マイタオルを用意。共用のバスマットではなく、各自がマイタオルで足を拭けば、家庭内での白癬菌感染を予防できる
スポーツジムやプール、銭湯、温泉で不特定多数の人が触れる床やマットに素足で触れたときは、自宅で早めに足を洗う
足を酷使する仕事やスポーツを行うときは、作業用やスポーツ用の靴下を着用し、皮膚が傷付かないよう保護する

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監修

仲 弥

仲皮フ科クリニック 院長

医学博士。日本専門医機構認定皮膚科専門医。母校の慶応義塾大学で19年間診療を行った後、1996年埼玉県川越市に仲皮フ科クリニックを開院。2002年より埼玉医科大学皮膚科兼任講師。埼玉県皮膚科医会会長も務める。