
忙しいときこそ知っておきたい
健康生活のススメ
抜け毛、薄毛を防ぐ
大人の育毛ケア
- 抜け毛
- 薄毛
- AGA(男性型脱毛症)
- 女性型脱毛症
- 円形脱毛症
この記事のポイント
- 抜け毛や脱毛には一過性と進行性の2種類がある
- AGA(男性型脱毛症)は早期治療が重要
- 生活習慣も抜け毛・薄毛に影響する
抜け毛や薄毛に関する悩みは、年齢と共に増えるものです。秋は抜け毛が増加しやすい季節でもあります。抜け毛や薄毛が起こるメカニズムや適切な対処法を知り、健やかな毛髪の維持につなげましょう。
一種の"換毛期"だが
予防には夏の間の紫外線対策が重要
秋から冬にかけて抜け毛が増える。「そのメカニズムに大きく関わるのが、ヘアサイクル(毛周期)です」と、浜松医科大学医学部付属病院皮膚科 病院教授の伊藤泰介さんは説明します。
ヘアサイクルとは、1本の毛髪が成長し始めてから抜け落ちるまでの周期です。大きく3つの時期に分かれます。
- 成長期(2~6年)
- 新しい毛髪が成長する時期
- 退行期(2~3週)
- 毛髪の成長が弱まる時期
- 休止期(2~3カ月)
- 毛髪の成長が完全に止まる時期
休止期の間に、次の成長期に入る準備が始まります。新しい毛髪が生え、古い毛髪は自然に抜けます。ヘアサイクルは男女で異なり、男性は3~5年、女性は4~6年といわれます。
毛髪は成長期、退行期、休止期を繰り返し、一定の量が保たれる
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ヘアサイクルの期間や時期は1本1本異なり、脱毛の時期もずれています。一斉にまとめて毛髪が抜けることはありません。
各サイクルの毛髪の割合は、平均すると成長期毛約85~95%、退行期毛約1%、休止期毛約10%前後です。ただこの割合は季節により変動します。成長期毛の比率は春に高く、秋に低下する傾向があります。夏に休止期毛の割合が最も高くなるのを示すドイツの研究報告※1がある他、45歳の健常な日本人女性を対象とした研究※2では10~11月に抜け毛が増加すると明らかにしています。
動物の換毛期と同じように、人間のヘアサイクルも季節によって変動するのです。
人間の脱毛には生活環境や体調が要因として複合的に関係します。特に夏は強烈な紫外線を頭皮に浴びやすい時期です。紫外線によるダメージが頭皮に蓄積された結果、秋になって抜け毛が増える可能性があります。
「屋外でヘルメットをかぶって作業をしていると、汗や皮脂による頭皮の蒸れやベタつきが気になるかもしれません。一方で紫外線から頭皮を守るという点では、ヘルメットを装着するメリットは大きいといえます」
ヘルメットだけでなく、帽子や日傘で紫外線を直接浴びないようにするのも効果的です。紫外線から頭皮を保護して秋の抜け毛予防につなげましょう。
- ※1Michael Kunz,et al.Seasonality of hair shedding in healthy women complaining of hair loss.Dermatology,2009;219(2):105-110.
- ※2服部道廣.養毛・育毛剤の評価法-人における新評価法-.順天堂医学,1992;37(4):595-600
皮脂の汚れを放置しない
夏の体調管理も重要
汗や皮脂などの汚れにも注意が必要です。特に過剰に分泌された皮脂でベタついた頭皮に紫外線が当たると、皮脂が酸化し、ヘアサイクルを乱す要因になります。夏の間の休止期毛が増え、秋の抜け毛を招きます。
仕事中に頭皮のベタつきを感じたら、休憩時間にタオルで拭き取りましょう。夜は丁寧にシャンプーを行い、清潔に保つのが基本です。
夏バテで食欲が低下して十分な栄養を取れない、何日も体調不良が続くといった栄養状態や体の変化もヘアサイクルを乱す一因と考えられます。
一般的には、食欲や体調が回復すればヘアサイクルも自然と正常な状態になり、数カ月から半年程度で元の毛髪量に戻ります。毎年のように秋の抜け毛が気になる場合は、夏の間の体調管理をしっかり行うのも重要な対策の一つです。
遺伝的要因が大きい進行性の脱毛症は
早めに手を打ち、進行を遅らせる
秋に増加する一過性の抜け毛と異なり、年齢と共に毛髪が薄くなっていく「AGA(男性型脱毛症)」も多くの男性の悩みの一つです。
「AGA」は「Androgenetic Alopecia」の略です。「Androgen」は男性ホルモン、「genetic」は遺伝、「Alopecia」は脱毛を意味します。男性ホルモンと遺伝によって生じる脱毛症だと示されています。
- 男性ホルモンについて
- AGAには、男性ホルモンの一種であるテストステロンから変換されるジヒドロテストステロン(DHT)が大きく関与します。脱毛のメカニズムは次の通りです。
男性ホルモンによる脱毛のメカニズム
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- ①体内で分泌されたテストステロンが毛根の毛乳頭細胞に運ばれ、体内の還元酵素「5α-リダクターゼ」と結合して、ジヒドロテストステロンに変換される
↓ - ②ジヒドロテストステロンが毛乳頭細胞にある受容体に結合し、「TGF-β」や「DKK1」という抑制因子が生成される
↓ - ③毛髪を生み出す毛母細胞の働きが抑制され、ヘアサイクルの成長期が大幅に短縮する
↓ - ④毛髪が十分に成長しないまま抜けたり、細く軟らかく短い毛髪が増えたりして薄毛に見えることがある
AGAのヘアサイクルでは成長期が極端に短くなる
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- 遺伝について
- 男性ホルモンがAGAに関係すると聞くと、男性ホルモンの分泌量が多い人ほど薄毛になりやすいのではと思う人も多いでしょう。実際には「AGAの人の血中テストステロン濃度が特別に高いという研究報告はありません」と伊藤さんは指摘します。「TGF-β」や「DKK1」といった抑制因子がつくられやすい遺伝的背景があるのかどうかがAGAには大きく関係します。
主に次の要素との関連が、近年の複数の研究で分かってきました。
- Ⅱ型5α-リダクターゼ酵素
- テストステロンをジヒドロテストステロンに変換させる還元酵素の5α-リダクターゼにはⅠ型とⅡ型の2種類あり、Ⅱ型が前頭部や頭頂部の毛乳頭細胞に多く存在し、AGAの要因となる。
5α-リダクターゼ酵素の活性度は遺伝的に決まっていると考えられる。 - 毛乳頭細胞の受容体の感受性
- 「TGF-β」や「DKK1」といった抑制因子は、ジヒドロテストステロンが毛乳頭細胞にある受容体に結合してつくられる。
この受容体の感受性が強い特徴を持つ遺伝子「アンドロゲン受容体遺伝子」が家系的に受け継がれると、AGAを発症しやすくなる。
特に母方の家系にAGAの人がいる場合、AGAを発症する確率が高い。
AGAも女性型脱毛症も
治療はミノキシジル外用一択
男性だけでなく、女性も年齢と共に毛髪が薄くなる人が少なくありません。これを「女性型脱毛症(FAGAまたはFPHL)」といいます。女性型脱毛症はAGAほど明確には発症のメカニズムや原因が分かっていません。一般的に更年期を迎える50代前後から女性型脱毛症が多く見られるようになり、女性ホルモンのエストロゲンの分泌量減少が関係していると考えられます。
薄毛の進行も男女で異なります。男性は額の生え際や前頭部、頭頂部を中心に薄くなります。一方、女性は頭頂部から側頭部というように広範囲にわたって、毛髪全体が薄くなる傾向があります。
AGAと女性型脱毛症の進行具合の一例

AGAの主な診断方法は次の通りです。
- 問診――家族の脱毛傾向や脱毛の経過
- 視診――額の生え際が後退し、前頭部と頭頂部の毛髪が細く短くなっていることを確認
★ダーモスコピー(医療用の拡大鏡)で拡大して見た範囲で20%以上、細く軟らかくなった毛髪が確認された場合はAGAが疑われる。
女性型脱毛症の診断は問診と視診(ダーモスコピー)の他、血液検査や毛髪検査を組み合わせて行う場合もあります。
AGAも女性型脱毛症も進行性の症状のため、放置する間にどんどん毛髪が薄くなります。早い段階で治療を開始すれば、薄毛の進行を抑えられます。
日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」で男女共に「推奨度A(行うよう強く勧める)」とされるのが、ミノキシジル外用による治療です。
AGAには配合濃度5%、女性型脱毛症には同1%のミノキシジル外用が強く推奨されています。
ミノキシジルはもともと降圧薬(高血圧を治療するための薬)として米国で開発された薬剤です。降圧薬として使用した患者に生じる「多毛症」という副作用を逆手に取り、発毛剤として開発されました。ミノキシジル外用の発毛効果は、多くの研究で高い水準の医学的根拠が認められています。
治療開始後、抜け毛が増える時期も
諦めずに継続するのが重要
日本国内の一般用医薬品として、ミノキシジル配合の発毛剤が発売されたのは1999年です(大正製薬「リアップ」)。以来、現在に至るまで多くのメーカーからミノキシジル配合発毛剤が登場しています。ドラッグストアや薬局、オンラインショップで購入できますが、第1類医薬品に分類されるため販売は薬剤師に限られます。
オンラインショップでは、Webサイトのフォームなどから性別や年齢、症状などの情報を送り、薬剤師から提供された情報を確認する必要があります。店舗によって手続き等は異なるので事前に確認しましょう。発毛剤の使用について疑問や不安な点があれば、薬剤師に相談するのがおすすめです。
ミノキシジル外用を始めたばかりの時期は、休止期脱毛によって一時的に抜け毛が増える場合があります。そこで「効果がない」と治療をやめるのは避けましょう。個人差はあるものの使用後約3カ月で効果が表れ始め、6カ月程度の継続使用が必要とされます。最近はミノキシジルの内服薬もありますが、医薬品として厚生労働省に承認されていません。心臓や血管への副作用の他、肝機能障害のリスクがあり注意が必要です。
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伊藤 泰介
浜松医科大学医学部付属病院皮膚科 病院教授医学博士。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医。1995年産業医科大学医学部卒業。脱毛症外来を担当し、AGAや円形脱毛症など脱毛症のエキスパートとして知られる。毛髪の悩みを抱える患者に寄り添った活動も積極的に行っている。