忙しいときこそ知っておきたい
健康生活のススメ
伝える力は笑顔から始まる
相手の心をつかむ、最初の一歩
- 笑顔
- 表情筋
- 感情癖
- メンタルヘルス
- コミュニケーション
- ウンパニ体操
この記事のポイント
- 自然な笑顔をつくれない原因はネガティブな感情癖にある
- 心理学に基づく「観念の等式」で感情癖をリセットする
- 表情筋の動きを良くする「ウンパニ体操」で自然な笑顔をつくる
職場で従業員の表情が何となく暗いと感じるときがある。職場の雰囲気の良しあしは、作業効率ひいては業績の低下を招きかねません。その原因は、トップや上司の笑顔の少なさにある可能性があります。コミュニケーションの潤滑油でもある笑顔の大切さを見直し、ビジネスに役立てましょう。
トップや上司の笑顔の有無が
職場の空気を左右する
人と接するとき、相手のにこやかな表情を見ると自分もいつの間にか楽しい気分になっていた経験はありませんか?
「脳には通称"物まね細胞"と呼ばれるミラーニューロン(鏡神経)があります。他者の行動を鏡のように反映し、自分も同じような行動をしているように感じる働きを持っています」と、早稲田大学人間総合研究センター招聘研究員で笑顔研究家の菅原徹さんは説明します。
例えば、あくびをしている人を見たら自分も眠くなる。眉間にしわを寄せた不機嫌そうな人を見たら自分も不快な気分になる。いずれもミラーニューロンの働きにより、他者の行動や気分が自分に"伝染"している状態だといえます。
自分が笑顔なら相手もにこやかになり、自分が不機嫌なら相手も険しい表情になります。
「会社のトップや管理職といった立場であれば、プラス(笑顔)とマイナス(不機嫌)のどちらのウイルスを職場にまき散らしているか意識してみましょう。トップの表情が職場全体のムードを左右するケースは少なくありません」
他者の笑顔を見て気分が良くなった人は、その後別の何かを見たときにも肯定的に物事を捉える傾向があります。一方、不快な表情を見て無意識的に気分が悪くなった人は、後々まで否定的な感情を引きずります。朝、眉間にしわを寄せた上司の顔を見た部下は「今日の仕事はうまくいかないかもしれない」と無意識に感じ、結果的に失敗を招きやすくなる事態もあり得ます。
表情にはその人が持っている
感情癖が表れやすい
「表情には、もともとネガティブ思考になりやすいといったその人の感情癖が反映されやすい傾向があります」と、菅原さんは指摘します。
菅原さんが40~60代の女性18人を対象に行った実験では次のような結果が出ています※1。
【ポジティブなパターン】
- 楽しい場面をイメージしてほほ笑みを3分間持続すると、その後の真顔や笑顔にも快の感情が表れた
- 7人の平均顔画像を基にした人工知能(AI)による表情解析では、快の感情の後の笑顔に「幸福」の成分が89%検出された
【ネガティブなパターン】
- 不快な場面をイメージして嫌悪の表情を3分間持続すると、その後、真顔や笑顔になっても不快感が表れた
- 7人の平均顔画像を基にしたAIによる表情解析では、不快感情後の真顔に「怒り」の成分が10%検出された
- 「幸福」成分は53%で、快の感情後の89%より低い数値を示した
- 18人の平均顔画像を基にした表情解析では、不快感情後の笑顔に「恐怖」の成分が6%検出された
- ※1菅原徹,顔の特徴情報を用いた表情と魅力の分析.可視化情報.2021;41(161).7-11.
「不快な感情が持続し、眉間にしわを寄せると、眉間に縦じわをつくる皺眉筋や、鼻の付け根にある鼻根筋といった表情筋の一部の緊張が持続すると考えられます」
筋肉の緊張は自律神経のバランスを乱し、車のアクセルに例えられる「交感神経」を優位にします。交感神経が過度に優位になると血管が収縮して血流が悪くなり、頭痛や肩凝り、不眠やだるさ、イライラや不安といった心身の不調が生じやすくなります。
不快な感情による不機嫌な表情は周囲にマイナスのウイルスをまき散らすだけでなく、自分自身にとってもマイナスの作用をもたらすのです。
良い笑顔で職場のコミュニケーションを円滑にしたい。そう考えるなら、自分の感情癖がマイナス思考になっていないかどうかを自覚する必要があります。
まず自分の感情癖を自覚する
プラスの言葉で思考を変える
感情癖をつくり出している
観念(価値観)に着目しよう
普段、自分がどんな感情を抱きやすいのか考えてみましょう。
人の感情は下記のように大きく分類されます。
「不快」や「沈静」のゾーンに当てはまる感情が多いなら、ネガティブな感情癖を持っている目安の1つになります。
自分の感情に気付くための「感情分類」
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なぜネガティブな癖がついてしまうのでしょうか。「心理学では無意識下にあるブリーフ(Belief)※2、すなわち観念が根本にあると考えられています」と菅原さん。
観念は、個々人の固定観念や価値観、信念とも言い換えられます。
私たちが何かを思考する前に、無意識下の観念が存在します。下図のように、観念が思考を、思考が言葉を、言葉が行動を、行動が習慣を、習慣が人格を、人格が運命(結果)をつくり出します。
- ※2「ビリーフ」ともいう
心理学における観念が思考や行動に影響を与える
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米国の臨床心理学者であるアルバート・エリスが提唱した「ABC理論」にも注目してみましょう。
同じ出来事に直面しても、観念が変われば結果も変わる。つまり「出来事そのものが結果を生むのではなく、出来事に対する観念が結果を生み出している」という理論です(下図参照)。
心理学における「ABC理論」の概念図
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例えば「この仕事、いつまでにできる?」と上司に確認されたときに「仕事が遅いせいで責められた。自分は信用されていない」とストレスを感じる人もいれば、単純に仕事の終わりを聞かれているので「明日の何時までに提出できるよう進めています」と明快に答える人もいます。後者は目標の時間を守り、良い結果が出せるでしょう。一方前者は、別に遅れていない仕事を、実際に遅らせてしまうかもしれません。
まさに自分の観念が結果を生み出す一例だといえます。
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菅原 徹
早稲田大学人間総合研究センター招聘研究員東洋大学非常勤講師
東洋大学工業技術研究所客員研究員
博士(工学)。スマイルサイエンス学会(SSS)代表理事。笑顔を専門に研究し、社会の多様な問題解決への応用を手掛ける。サービス力向上、職場のメンタルヘルスケアのための笑顔づくり、感性表現の講演、研修、就活アドバイザーなど幅広く活躍中。